スカウトさん(二)

だが、スカウトさんが加わった捜索でも、その日も結局は残念ながら何も見つからなかった。


ただ、スカウトさんは木の実などの知識も豊富で、山で多少食べられそうなものを取ってくれたのは有り難かった。


夜になる前に、スカウトさんを連れて家に戻った。すぐに夕食をとることにした。昨日は火を使わなかったが、スカウトさんの指導で火を起こすことができたので、久しぶりに暖かいスープを飲むことができた。


「俺も多少は食料を持って来てるから、しばらくは大丈夫だと思うが、何か食料調達も考えないとな」


スカウトさんが、俺たちに告げた。


「そういえば、スカウトさんはどこの人何ですか?」


「ああ、俺か? 俺は熊本だ。阿蘇とかよく行ったぞ」


「九州弁じゃないんですね」


「ああ、一応は話せるけどな。全国回って活動してたから、普段は標準語になっちまった」


「そう言えば見た感じも九州男児って感じですね」


桂坂さんが感想を述べる。


「まあ、ごっついのだけが取り柄みたいなもんだけどな」


スカウトさんも話してみれば、結構気さくな人だった。


「それにしても、ここは一体どこなんでしょうね…」


「うーん、分からんな。家の作りからして日本っぽい感じがするんだが、なんとなく現代人が住んでたとも思えねーんだよな」


「まさか、古代の日本に飛ばされたとでも?」


「まあ、ないとは言えんよ。」


「そうですね。だいたいスカウトさんも、5月20日の午後1時に飛ばされて来たんでしょ。」


「そこなのよね、問題は」


桂坂さんが首をひねる。


「そこでそれぞれ時間軸がずれてるじゃないですか?」


「どういうこと?」


「平たく言えば、僕は桂坂さんより1日分多く生きてる。僕から見ると、桂坂さんは1日分スキップしたように見える」


「なんかややこしいなぁ」


「僕たちが居なくなった向こうの世界は、どうなってるんだろう、って思いません?

後から来た人に聞けばわかるかな、と思ってたんですが……」


僕は言葉を選びながら続けた。


「みんな同時刻に消失、あえて消失という言葉を使いますけど、消失したなら、ここに新たに来る人に聞いても何もわからない状態が続くんです。」


「これがいつまで続くかなんて、分からないわよ!」


桂坂さんは、願望も込めてそう言う。


「健太は俺のあとにもどんどん人が来るって言うのかい?」


スカウトさんは、いつの間にか僕のことを健太と呼び捨てで呼ぶようになっていた。


「まあ、それは明日以降分かることですので、今考えても仕方ないんですが」


「1日1人ずつ増える世界か…」


スカウトさんの呟きが長く僕の耳に残った。確かに。だが、それはとても奇妙な世界だ。一般的な科学原理をはるかに超えている。それになぜ僕らが? という最大の謎もある。

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