スカウトさん(一)

そんなたわいも無いことを喋りながら待っていると、ついに問題の時刻、1時になった。さあ、どうなるだろうか? 胸の鼓動が高まる。


「あっ」


声に出したのは桂坂さんだ。前回と同様、そのポイントの周囲には瞬間的に靄がかかり、それが晴れると同時に少しずつ男性の姿が現れた。


リュックを背負ったたくましい山男という感じの風貌の人だ。僕らを見て、目を白黒させている。何が起こったか分からない、という顔だ。


「君たちは……ここはどこだ?


なかなかカッコいい声の持ち主だ。うらやましい。


「あ、あの何て言ったらいいか」


桂坂さんが答えたものの、慌てふためいていて、うまく言葉に出来ていない。君が慌ててどうする? こういう男がタイプなのかな。そんな変な考えも湧いてきた。


「落ち着いて聞いてくださいね。」


僕はゆっくりとした口調で、山男に語りかけた。ここは僕が説明するべきだろう。


この山男は、意外とすんなり僕の話を聞いてくれた。事の顛末を聞いた山男は


「そっかー。なるほどなあ」


と案外、対応力が高そうな様子を見せた。


「あ、俺の名前は高村昭二だ。ボーイスカウトの指導者やってる。」


「僕は田所健太っていいます。こっちは桂坂優子さんです。ボーイスカウトですか…」


なるほど。これならこの装備もわかる。キャンプとかよくやってるやつだよな。僕も小さい頃ちょっとやったっけ?


「スカウトさん?」


トンチンカンな言動をしたのは桂坂さんだが、「ああ、そう呼んでもらってもいいよ」と、なぜか高村さんが軽く応じたので、その後は二人ともスカウトさんと呼ぶようになった。


「あの……近くに家があるので、そこで詳しく事情を説明したいんですが……」


僕はスカウトさんをともなって、家で話し合いをするつもりだったが、スカウトさんからは意外な返答が返ってきた。


「いや、だいたいの事情は分かった。それとこの近くに休める家があるんだな? よし、今の時間なら家に戻るより、脱出経路を探すのに当てたほうがいいように思う」


状況を即座に把握したスカウトさんは流石だと思った。午後活動できる時間を考慮して、調査に時間を割くとっさの判断はなかなか出来るものではない。


手分けして探す選択肢もあったが、バラバラになって後でお互いを探し回るようなことにもなり兼ねないため、非効率ではあるが、三人で行動することにした。


「俺は今まで何度か山中で道に迷ったことがあるが、そのときはこうして……」


スカウトさんは自らの体験とボーイスカウトで培った技術を駆使して、効率よく探索していった。本当に頼りになる人だ。僕にとっては目新しい方法も多く、とても勉強になる。今後必要になって欲しくはないが。

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