桂坂さん(一)

「それまでに帰り道を見つけるしかないね」


「あなた…ええと、健太君だったかしら」


「ああ。健太君て。君のほうが1個下なんだけど。」


「嘘? 健太君のほうが年下かと思ってた!」


「僕は21だよ。これでも。」


「子供っぽく見えるわ。で、健太君は、昨日も今朝も帰り道を探し回ったわけ?」


「そう。でもあの場所を中心とした同心円状をね。でも何もなかった。」


「OK。だいたい状況は分かったわ。私たちがなぜこの場所に来ることになったかは置いといて、まずは帰り道を探すことね!」


「そう。君、なかなか肝が座ってるね」


「あ、君っていうのはやめて。桂坂さんて呼んで欲しいわ」


「桂坂さん…変わった苗字だね」


「そうね。私の親戚以外では、会ったことないわ。じゃ、今から捜索開始しましょ!二手に分かれる?」


「なんか急に元気出てきたみたいだね……。うーん、どうだろう。まずは一緒に行動したほうがいいかもね。どんな危険があるかも知れないし。それに昨日、僕が歩いたところをまた歩くのも無駄だしね」


「あなたと二人ってのもある意味危険だけどね。まあ、いいわ。それで行きましょ」


僕たち二人は、まず僕と桂坂さんが現れた地点まで戻った。そこからスタートして、日が暮れるまでの午後の時間を使って、森からの脱出ルートを捜索することにした。


「あらためて見ると、本当、樹以外何にもないわね。健太君、よくこんなところから集落見つけたわね」


「たまたま運が良かっただけだよ。日が暮れる直前で見つかってラッキーだった」


「見つからなかったら野宿だったかもね」


さて捜索始めようかという段になって、僕はちょっと迷った。昨日この周辺の近場はほぼ調べ尽くしたから、今日調査するとしたら、もっと遠くまで行かなくては意味がない。


「今日はさ、一方向で行けるところまで行ってみようか? そんなに時間もないし」


「OK! 健太君に任せるわ」


僕らは樹々の間を進み始めた。ところどころ草が生い茂っていて、なかなか進めないようなところもあった。


昨日と同様、歩いても歩いても樹々が立ち並ぶばかりで似たような景色が続き、しばらくの間めぼしい収穫はなかった。そして1時間ほど歩いた頃だろうか。


僕たちは森の中に一つの光の筋を発見した。


「あ、あそこ!」


桂坂さんが指差す方向は、光が射し込んでいて、明るくなっていた。


「行ってみよう」


僕らは、その光の筋に向けて歩を進めた。そして、ついにその光の先にたどり着いた。

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