邂逅(五)
それにしても、彼女はかなり混乱しているようだ。
「とにかく一度、家に行って落ち着いてから話をしよう!」
僕は彼女を促した。それでも彼女はなかなか動かなかった。いや、呆然とし過ぎて、動けなかった、というのが正解なのだろう。
「ここじゃ、ゆっくり話はできないだろう?」
僕の再度の呼びかけに、彼女は力を振り絞ってといった風でなんとか頷いた。
それを確認した僕は、彼女を無理やり引きずるようにして、落胆した彼女を連れて、例の家に戻った。
「ここがその家なの?」
家を見るなり、彼女は訝しんで声をあげた。山小屋みたいなのを想像していたのかもしれない。
「うん、見た目普通の民家だよね。中にはあまり物はないけど、つくりはしっかりしてるよ」
「まあ、私は部屋とかそんなにこだわりがあるタイプじゃないから、多分大丈夫だと思うけど……。そういえば……あなた以外に誰かここに住んでるの?」
彼女にしてみれば、当然気になる疑問だろう。
「いや、僕の他には誰もいない。不思議なことに他の家もそうなんだ」
「えっ! これ全部、誰も住んでないの?」
「何故かは分からない。僕も全部の家をきちんと調べたわけじゃないから確かなことは言えないけど、多分、僕たち以外には誰もいないと思う」
彼女は僕の説明を聞いて、何も言えなくなった。この不可思議な状況にまだ頭が対応仕切れてないのだろう。それはしょうがない。
一軒の家に入った僕と彼女はとりあえず床に座り、今後のことを話し合った。彼女は家に着くころには落ち着きを取り戻しており、冷静に話が出来るようになっていた。僕は、昨日体験したことをかいつまんで話した。話してる途中で、僕は彼女が右手で抱えている袋に目が行った。
「ええと、その袋はスーパーの袋かな?」
「あ、これ」
彼女は今気づいたという感じで、持って来ていた袋の中をのぞいた。僕も一緒に覗き込む。
「なんかスナック菓子多いね…」
「ほっといてよ。別にいいでしょ! あ、そう言えば、食料とかどうするの?」
「残念ながらこの家には食べられそうなものは何もない。他の家も同様だ。だから当面は、僕が持ってきた非常食と君の手持ちで何とかしのぐしかないってわけさ」
「私のはあげないわよ」
「そんな…」
「冗談よ。それにしても、数日は何とか持ちそうだけど、その後どうするかが問題ね。これってもしかして、サバイバルってやつ? 食料尽きたら飢え死にしたりしてね」
冗談っぽく話してはいるが、正直その危険も充分にある。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます