邂逅(四)

「つまり、君と僕は同じ日のほぼ同じ時刻に似たような現象に遭遇したわけだ。なのに君は今、ここに来た。僕より一日遅れでね」


喋りながら僕は、彼女がここに来た時間は昨日僕が来たのと一日違いの同じ時刻かも知れない、と思った。それは一体どういうことだろう? 合理的に考えれば、彼女は丸一日かけてこの場所に移動してきたということか。いや、そもそも僕が目覚めた時点で時間が経っていないことからしておかしいから、結局説明がつかない。


彼女はまだ事情が飲み込めない風で、ちょっと茫然としている。僕自身、疑問はたくさんあったが、それより今は彼女ときちんと話し合うのが大切だということに気づいた。


僕はここで説明を続けても仕方ないと思い、彼女を昨夜泊まった家に連れてゆくことにした。まだ午後は始まったばかりだ。時間はたっぷりある。


「まあ、とにかく、家でゆっくり話そう」


「家? 家があるの? あなたの?」


「家というか小屋というか、とにかく空き家なんだ。とても古びた家なんだけどね。昨日僕が発見して昨夜はそこで寝たんだよ」


彼女は自分なりのイメージを描いたのだろう。少しだけほっとした表情を見せた。しかし、僕の次の言葉にまた顔を曇らせることになる。


「実はこの森から出るルートがまだ分からないんだ」


「そんな……」


この森から簡単には出れないと知って、彼女はひどく驚いた。


「私、こんなとこでずっと過ごすなんて嫌!」


彼女は叫ぶとともに青ざめて、急に無言になってしまった。事の重大さに今更ながら気づいたってところか。


まあ、ただの女子大生に過ぎない彼女にすれば、それは自然な反応だろうな。こんな危機的状況に陥るなんて夢にも思ってなかっただろうし。それでも今は、彼女に現状を受け入れてもらうしかない。パニックになられるとこっちが困る。


「いや、まだここから出られないって決まったわけじゃないんだ。僕が昨日と今日、ほんのちょっと歩いてみたけど、分からなかったというだけで……」


僕はなるべく彼女が冷静になれるよう不安を取り除くよう努めた。


「でも……分からないんでしょ。ここがどこかとか、どっちに行けば帰れるとか……」


僕は嘘をつくわけにもいかず、ただ肯定する他なかった。本当は嘘でも「大丈夫」って言って安心させるのが男としての役割なのだろうが、こんな時嘘のつけない正直者過ぎる性分を、初めて恨めしく思ったりもした。僕は子供の頃から真面目すぎると言われてたから。その割には最近は遊び呆けているが、それは子供の頃の反動もあるかも知れない。

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