邂逅(三)
出現した時、彼女は、しばらく戸惑った様子だったが、僕の叫び声を聞いて、僕がいることに気づくと、今度はひどく怯えた顔になった。
「怖がらなくてもいいよ。」
僕は彼女にそっと声をかけた。でも、怖がるよな、普通。
「あ、僕は健太。田所健太って言うんだ。」
見たところ、僕と同世代の女性のようだ。雰囲気的に女子大生かも知れない。顔はまあ中の上ぐらいか。とっさにそんな不謹慎なことを考えたのがバレたのか、彼女はなかなか警戒心を解かず、震えたままだった。
まあ、それはそうだろう。そもそも何でこんなところにいるのか、分からないよな。僕もそうだったし。
彼女が何も話さないので、仕方なく僕のほうから一方的に話を続けた。
「実はさあ、僕も昨日、この場所で突然目が覚めたばかりなんだ。ところで…君も日本人だよね?」
僕の率直な話にやっと信用してくれたのか、彼女は黙ってうなずいた。そして、自分のことも少しは話す気になったみたいで、おずおずと語り出した。
「まだ怪しい人に見えるけど……」
「大丈夫。ただの若者だから」
「若者って、ぶっ。自分で言う? あなた、面白いわね」
彼女は思わず吹き出した。それで気がほぐれたのか、やっと警戒を解いてくれたようだ。
「そう、私は日本人よ。スーパーで買い物終えて帰る途中、いきなり目眩に襲われて……気がついたらここに居たの」
彼女がポツポツ語った内容を整理すると…
彼女の名前は「桂坂優子」。都内の大学に通う女子大生だ。日曜日で大学が休みだったので、お昼に街まで買い物に行き、歩いて帰る途中だったらしい。突然、目眩に襲われ、そのまま意識を失ったという。その時に何が起こったのかは分からなくて、特に襲われる心当たりもないらしい。周りに他の通行人もいなかったそうだ。
彼女の話を聞いて、一つ気になる点があった。日曜日で大学が休みだった、というところだ。
「君が目眩がしたのは本当に5月20日の日曜日なの?」
彼女は何言ってるの?という怪訝な顔をした。
「勿論よ。今日は5月20日でしょ。ほら」
彼女はスマホを見せてくれた。確かに5月20日日曜日と表示されている。でもそれはおかしい。
「いや、今日は何日か分からないよ」
「だってスマホが」
「いや、スマホなんて当てにならないよ。それに、そもそもここが日本かどうかすら分からないんだ」
「何ですって!」
「とにかく問題はそこじゃないんだ。君が目眩がしたのが、5月20日なのがおかしいんだよ。なぜって……僕がこっちに来たのも5月20日なんだ。しかも時間もだいたい同じくらい」
「え、どういうこと? 意味わかんない」
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