邂逅(一)

「はあ……」


翌朝、自然のリズムの赴くまま、目が覚めた。


「ええと……ここ、どこだっけ?」


僕はまだ頭が回らなくて、最初はこの古びた家屋にいるこの状況が理解できなかった。


「あ、そうか、森の中に連れてこられたんだっけ?」


今のシチュエーションを思い出した途端、気が重くなったが、なんとか気を取り直して前向きに考えることにした。


ちょっと涼しく過ごしやすそうな朝で、非常に快適な気分だ。目覚ましをセットせずに起きたのは何年ぶりだろうか。普段、寝起きの非常に悪い僕にとっては珍しい出来事だ。


昨夜、眠りについたのは何時頃だったのだろうか?スマホを確認しなかったので分からないが、おそらくいつもよりたっぷり眠れたとは思う。


"そうだ、スマホ"


確認してみると、朝の8時前だった。スマホは、電池が少し減っている。昨日、森の中にいることに気づいたときに、真っ先にスマホを確認してみたのだが、完全に圏外で使用不能と分かったので、それ以降はバッテリー節約のため、電源を切ったままにしていたのだ。だから、電池の減りは最少で済んだようだ。


しかし、これからもずっと電池が持つわけではない。持って来ている手回し式の懐中電灯は、残念ながらスマホの充電には対応していない。ここには電気というものが存在しないので、そのうちバッテリーが切れたらスマホは使えなくなるだろう。写真を撮ったりで必要になるかも知れないので、普段は電源を切るりようにして、出来るだけ長く持たせねば。せめてモバイルバッテリーでも非常袋に入れとけばなあ…


非常持出袋?


そうだ……食料!


僕は昨日から何も食べてないことに今気づいた。人間というのは不思議なもので、ほかのことに気を取られていると、食欲さえも忘れるものなのか。しかし、一度気づいてしまうと、急激にお腹が減ってきた。


これからの食事はどうしようか……。最悪のケースなら、ここから何日も帰れない可能性もある。持ってきた食料でどれだけ持つか……


しかし、あれこれと不安を感じていても仕方がない。とりあえず缶詰1個ぐらいは食べても大丈夫だろう。まずは気力を充実させるために食事をしっかりとることにした。


缶詰は無性に美味しかった。普段、たまに缶詰を食べることもあるが、ことさら美味しいなどとは感じたことはなかったのに。環境が変わるとこうも変わるものなのか。


僕は食事を終えると、今日の予定を思案した。やはり、昨日と同様、帰還ルートの捜索をしなければならないが、今度はまたここに帰ってくればいいので、昨日よりは心強い。ただ、食料の問題もあり、いつまでもこうしているわけにはいかないだろうが。


今朝もこの家には人の気配はしない。朝までに誰も帰って来なかったということは、やはりもう誰もいないのだろうか? 他の家ももう一度調べてみたいが、今は帰還ルートを探すのが先だろう。

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