異変(五)
しばらく、声をかけ続けたが全く応答がない。
「すいません。お邪魔します。」
よく見てみると、古い日本家屋のようだと言っても、非常に簡素な作りで、入ってすぐの場所が土間なのかどうかも判別出来ない。家の中は一応、壁らしきパーティションで区切られてはいるが、それぞれ部屋と呼んでいいかも怪しい。
土足OKなのかも知れないが、とりあえず靴を抜いで、家の中へと進んだ。家具らしきものや炊事道具らしきものもあるが、あまり見たことがない感じのものも沢山ある。それほど使用された形跡はないが、埃はあまり被っておらず、保存状態は決して悪くはない。ここに本当に人が住んでいるのだろうか?
「誰か居ませんか?」
僕は声を出しながら歩き回り、ひとしきり家内を捜索してみたが、どうやらここには誰もいないようだった。
僕は、その家の中を調べるのは一旦ストップして、隣の家も訪ねてみた。しかし、その家も同様で、誰にも会うことはなかった。その後、全部の家をざっと回ってみたが、やはり誰も発見出来なかった。
「みんな、どこに行ったんだろう……」
本当にこの集落には人っ子一人いない。集団でたまたまどこかに出かけてる可能性もあるにはあるが……
数えてみると集落を構成している家は、全部で10軒ほどあった。一軒平均4、5人と考えると50人程度の人間がいてもおかしくないはずだが、一人もいないとなると、これは異常事態だろう。
僕は考えた。ここに住んでいた住民はなんらかの理由で、全員ここから離れたのではないだろうか、あるいは何かの原因で全滅したか? 例えば……
"伝染病?"
そんな言葉が浮かんだ。確かにそういうこともあり得る。映画やテレビでそんなストーリーを見たような気もする。
しかし、伝染病だとしたら、今の僕では判断出来ない。それに死体や白骨がまったく見当たらないのも変だ。土に埋めて、最後の人間は旅立って行ったか……
色んな想像が頭に浮かんでくるが、とりあえず重要なのは、今晩の寝ぐらをどうするかだ。今夜は雨風こそないようだが、やはり野宿というわけにはいくまい。家主には悪いが、今晩はひとまず勝手にここで寝させてもらおう。僕は慣れない山歩きで体も疲れていたし、あまりに想定外の事態に精神も疲れきっていた。
無造作に重ねられた布地の束から毛布らしきものを引っ張り出してきて、体にかけると僕は床に横になった。幸いにも気温は暑くもなく寒くもなく、快適な眠りにつけそうだ。そのあと間をおかず眠りについたらしく、その後の記憶はない。
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