異変(三)

それにしても、どうしたものか。


一瞬、パニックに陥りそうになったが、ここで発狂したところで状況が改善するわけでもない、と冷静に考える自分もいた。ここは何とか精神を保ちながら、今の現実を出来る限りそのまま受け入れるほうが得策だ。


何故自分がこんなところにいるのか?というのも大きな疑問なのだが、それよりも今は「これからどうするか?」を考えなければならない。


"救助?"


そんな言葉がまず浮かんできた。だが、それはあまり期待出来ないのではないか。誰かに連れてこられたとしても、あまり素敵な招待とは言えないだろう? 誘拐なんかの犯罪に巻き込まれている可能性もある。もっとも僕なんか誘拐しても、誰も身代金なんて払ってくれないだろうから、なんのメリットもないんだがな。


最初の問題は、2つの選択のどちらを選ぶかだ。一つは、ここにとどまり救助あるいはここへ連れてきた人間の帰還を待つ。


もう一つは、ここから移動して、森の脱出口あるいは小屋、集落なんでもいいから他の人に会うのを目指す。


幸いなことに今はまだ日が高く、周りも明るい。だが、森の中の夜は案外早く訪れるものだ。このままここにいて夜を迎えるのはちょっと不安だ。


そうなると、歩いて移動して、まずは寝ぐらを探すのが得策ではないか。うまくいけば山から降りられる可能性もあるし。それに僕をここに連れて来た人物が、僕に好意的だとは限らない。そいつが帰ってきて出会ってしまうのは却って危険なのではないだろうか?


結局、そう判断した僕は、とりあえず太陽の見える南方向に向けて歩き出した。運良く川などが見つかれば、それに沿って下って帰還ルートも見つかるかもしれない。そんな期待を込めて一歩を踏み出した。


一つルールを決めた。もしかしたら、目が覚めた地点というのは、あとあと重要になってくる可能性がある。連れてきた人間が戻るとすれば、その場所だからだ。


なので、まず15分歩いて何も見つからなければ、一度最初の地点に戻る。そして別の方向を探しに行く。これを繰り返すのだ。


この方法だと、あまり遠くまで行けないが、出発地点を中心に放射状に地形を確認できる。

夜になるまで、8回ぐらいはできるのではないか?


しかし、2回、3回と繰り返す中で、何も成果が得られない。

果てしなく続くと思われる森の奥深さに、諦めそうになる。

そして、7回目に入ろうとする頃、周りが少し暗くなり始めた。

予定より時間がかかったりして、予想外に早く夜になってしまいそうだ。


"これはまずい"

僕は、今度こそ何か見つかってくれ、と祈る気持ちで、7回目に北東方向に歩き出した。

疲れもピークに達している。


そしておよそ15分後、ついに僕は発見した。


「家だ!」

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