異変(二)

「ううっ……」


どれぐらい時間が経ったのだろうか。僕はもやっとした感覚のまま目覚めた。なんだか土の感触がある。目を開けてみると、そこは辺り一面、緑一色だった。光は上空から差し込んではいるが、高い樹々に遮られて、地面まで届いているのはほとんどない。それに太陽の光というより、曇り空で覆われているという表現が正しいのこもしれない。全体的に薄暗い感じがする。


驚いたことに僕が目を覚ました場所は、見たことのない深い森の中だった。青々とした無数の葉っぱに覆われた樹々に囲まれていた。一本の樹の根っこあたりにしゃがみ込んだ状態で目が覚めたようだ。身体の痛みや目眩は特にないし、怪我とかもしていないようだ。寒さは特に感じない。


「ここは一体どこだろう?」


僕はとっさに自問自答してみるも、答えが出るわけもない。見渡す限り、樹々が並んでるばかりで、特に目印になるようなものも見当たらない。それに僕の他には誰もいない。


「そうだ、スマホ」


僕はすぐにスマホを持っていたことを思い出した。スマホで調べれば、何か分かるかも知れない。幸いなことに、服装とかは気を失った時のままで、ズボンのポケットにスマートフォンはちゃんと入っていた。


こういう時は助かる。僕はロック状態になっていたスマホのパスワードを打ち込んで、スマホの画面を覗いた。


「13:05」


時刻を確認した僕は、怪訝な表情になる。意識を失った時は、ちょうど午後1時くらいだったはず。あれから5分しか経ってないなんてことは流石にないだろう。いくらなんでも5分でこんなところに来れるわけがない!


もしかしたら、丸1日経ってるのだろうか?

しかし、日付を確認したところ、5月20日で、変わっていなかった。そして、残念ながらスマホは圏外になっていて、通信不能。GPSも使えないようだ。


「どこなんだ、ここは!」


僕はさっきのセリフをもう一度つぶやきながら、あらためて辺りを見回した。雨は降っていないが、樹々の間から望む空は曇りがちで、あまり快適とは言い難い。奥深い山の中であるとは思うが、樹々はそれほど密集しているわけでもなく、人が通るには充分過ぎるスペースがある。


とりあえず目に見える範囲では、樹々や下草以外とわずかばかりの空以外は、何もないようだった。奇妙なことに動物や鳥すら今まで見ていないし、動き回ったり羽ばたいたりという物音も聞こえてこない。


僕は大きな樹の根元の落ち葉と草が混じり合ったところをめくってみた。そこにやっと数匹の虫を見つけることが出来たので、まあ普通に生き物が住める環境であることは分かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る