異世界転移物語

逢城ゆうき

異変(一)

このところ、各地で謎の地震が頻発しています。通常とは異なる揺れを感じるこの地震の原因は、未だに不明で、政府機関が総力をあげて調査中ですが、全容の解明にはまだ時間がかかる模様ですーー


僕は最近、ニュースで地震の情報が頻繁に流れるようになったのを実感していた。直接、大きな揺れを体験した訳ではないが、世の中全体が不穏な空気に包まれているような気がする。


僕の名前は田所健太。都内の三流大学に籍を置く大学生だ。一応大学に行っているというランクの大学なので、就職もあまり高望み出来ない。おまけに御多分に洩れず、三流大学生にありがちな、バイトとサークルと遊び三昧という生活を日々送っている。


一言で言えば「怠惰な大学生」ということだ。他人より秀でた特技もなければ、スポーツ万能というわけでもない。自分で言うのもなんだが、本当にどこにでもいるありふれた学生だ。


季節は初夏。今日は5月20日。日曜日だった。僕は「その日」最近各地で頻繁に起きている地震に備えるため、防災グッズの確認をしていた。近頃は歩く範囲にコンビニが何軒もあり、スーパーに行って買いだめとかしなくても日常的にほぼ困ることはない。だから、部屋に普段置いている食材のストックは実に心許ないものである。こんな機会でもなければ、ストックのことを考えたりはしなかっただろう。


非常食、水、救急セット、新聞紙……一通りの物は非常用持ち出し袋に用意出来たと思うけど、もう少し非常食を入れておいたほうがいいかな。本屋で買ってきた防災マニュアルを参考に、自分なりに何が必要か考えたりもしたが、結局、どこまで揃えればいいのかよく分からない。


所詮は完璧なんてものはないので、どこかで妥協はせねばなるまい。そもそも災害のときにさっと運びだせねば意味がないのでたくさん詰めすぎるのも良くないだろう。


僕は、数少ないストックーー冷蔵庫に入れておいた鯖や鰯の缶詰、を取り出していくつか非常持出し袋に追加した。


「これぐらいあれば何とかなるだろう。たくさん入れ過ぎて、運べなくなったら本末転倒だよな」


パンパンと手を叩きながら、ほっと一息ついた瞬間、僕はいきなり、激しい目眩に襲われた。


「何だ、これ…」


頭がふらふらする。気が遠くなるような急激な揺れだ。僕は地震かとも思ったが、周りの物が振動してないところをみると、地震ではないのかも知れない。僕は一瞬の間にそこまでの判断はしたものの、激しい痛みと当惑の波に揉まれながら意識を失った……

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