託された者に
『
それがクラウスの琴線に触れ、二人は四十年前に中断された
結果として、二人は最後に放った拳で同時に倒れる。
それから
別室で寝かされる二人は、その一日後に教会の中庭で再会する。
互いにまだ傷を残した姿ながらも、二人は睨み合いながら声を向けた。
「――……チッ、引き分けか」
「……どうやら、そうらしい」
「もうちょい俺が若けりゃ、腑抜けたお前なんざ軽く
「……」
近くの
しかしクラウスは立ったままその傍に留まり、互いに顔を向けずに暫しの沈黙が生まれた。
そうした中で、先にクラウスが会話を始める。
「――……あんな
「ああ、そうだな。……いつものお前だったら、嫌味の一つでも返して終わってたろうよ」
「もしそれで終わったら、どうしていた?」
「別にどうもしねぇよ。……例え辞める為の言い訳だったとしても、お前が言ってたことは事実だしな」
「!」
「
「……」
「だが、あと十数年もしたら……俺もアンタもヨボヨボの爺さんになる。そうなった時に頼りにするのは、今この
「!」
「俺達は、そういう風に
「……っ」
「それでも出て行くってんなら、俺は止めねぇよ。……ただ、あの世に逝った時。アンタは胸張って
「!!」
「俺は、今あの世に逝っても
「……そうだな……」
その会話の後、クラウスは顔を伏した後にその場を離れていく。
ワーグナーはその背中にそれ以上の声は掛けず、ただ見送った。
それから一日を経て、クラウスは先に退院する。
怪我こそ完全には治り切っていなかったものの、彼はそのまま王城へと戻った。
そして王城内の事務状況を把握すると、
「――……ヴェネディクトッ!!」
「は、ひゃぁい!? ――……えっ!? な、なんでアンタがここにっ!? 入院したって聞いたぞっ!?」
「もう退院した。それよりなんだ、あの
「い、いや……だって。自分では分からなかったり決められないモノばかりだから、アンタの退院を待って意見を聞こうかなって……」
「そう考えたなら、人を寄越して俺の返答を聞くことも出来ただろう。どうしてしなかった?」
「そ、それは……ほら。最近なんか元気が無さそうだっし、ゆっくり休ませてあげようかと……」
「ほぉ、その心遣いは痛み入るな。だから今日も仕事をやらずに、
「あっ、えっ……と……」
「まったく……貴様はこの
「ヒ、ヒィッ!!」
「貴様がマシな国王にならなければ、私が楽を出来んのだ! いつまでもその体たらくならば、死ぬまで私から解放されないと思えっ!!」
「や、やります! 明日からやるから、許して――……ギャアアアッ!!」
私室で怠けていた国王ヴェネディクトに対して、クラウスは強烈な
それは王城内にも響き渡る悲鳴だったが、官僚達はいつもの
こうしてクラウスは自分のやるべき事を見据え、再び国王の教育と共和王国の復興を務める補佐役に戻る。
それは遅れて退院したワーグナーの耳にも届き、彼は呆れるような笑いを浮かべた。
それからも気力を戻したクラウスの手腕により、
しかし
そうした間に『
水害に因って荒れていた共和王国東部の港や帝国北方と西方の港都市は、アスラント同盟国の援助もあって機能を回復する。
更に同盟国の造船技師や技術者達の派遣による新造船、漁船から大陸間航行可能な船舶の有償提供が行われた。
物資の輸出と輸入を再開できるようになった各国では、改めて貿易が再開される。
それと同時期に貿易業を営む商人達も活発に動き出し、各国を往来するようになった。
実はこうした商人達の動向については、ある理由が存在する。
それは四年前に起きた
商人達の保有する船や馬車であれば数日から数週間は掛かるだろう大量の物資運搬を、
その為には運搬を仕事にする商人達は、大陸内の運搬物資の集積と納入だけに留まり、各国を渡る貿易商人達が極端に仕事と収入を減らしていたのだ。
支出こそ減りながらも利益低下によって失業者さえ出かねないこの状況を不満に思う商家や商人達も多く、各国では彼等からの苦情がかなり多かったらしい。
中には
更に
こうした事態に対応させられたのは各国の軍や製作者の一人である『青』であり、彼等は口を揃えてこの時の事態をこう評しているのが記されていた。
『――……
高い利便性に反して様々な問題を引き起こす事態となった結果、
そして今回の『
その一人が復興した
「――……着きましたね。ここが貴方の故郷、ベルグリンド共和王国の東港です」
「――……そうか」
乗船に掛かる桟橋を渡って港の地面を踏むのは、小太りの壮年な男性商人と、ニメートル程の身長と逞しい体格を持つ短い黒髪の大男。
そしてその大男な背中には、赤い装飾玉が柄に嵌め込まれた黒い大剣を背負っていた。
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