天界崩壊
『黒』に『世界を滅ぼす者』と予言された老騎士ログウェルは、自ら望んだ
その光景はその傍に居る者達だけではなく、地上の人々にも投影されている映像を通して伝えられていた。
「――……エ、エリク団長が勝ったのか……!?」
「ああ、そうだよ!」
「流石は団長だぜ!」
「――……教皇様!」
「ええ。……彼が、やってくれました……」
「おじさん、凄い!」
それを視ている者達の中には
しかしその真逆の様子も存在し、ログウェルと
「――……ログウェル……ッ」
「伯爵……っ」
「ガリウス卿……」
「……それで本当の良かったのか、ログウェル……。……お前の最後は……」
ログウェルを良く知るクラウスを始め、その息子であるローゼン公セルジアス、そして
そして『青』達と共に居るシルエスカもまた、ログウェルの最後に納得を浮かべられなかった。
更に
それは
「――……ログウェル殿……。……貴方の
五年前に現役を退き更に老いを進めていたゾルフシスは、古くからの
そしてその膝に置かれた一冊の本に右手が触れ、何かを決意するような様子を見せていた。
そうして世界の命運を賭けた死闘の結果を世界中の人々は見届ける中、同じように映像を通して視る者がいる。
それは聖域に散乱した木々の瓦礫に腰を下ろしながら並び座る、リエスティアの身体を借りた『黒』とメディアだった。
すると映像を通してログウェルの
「――……これも、『
「……彼が勝つ
「そう。……ログウェルは、わざと負けたのかな?」
「いいや、彼は本気だよ。本気で戦って、本気で負けたんだ。……これは彼の望んだ、
「……そっか……」
『黒』はログウェルの結末についてそう話し、それを聞くメディアは顔を僅かに沈めながら
そして
するとメディアが纏う『
それに左手を触れさせながら僅かに撫でた後、自らの手で涙を拭ったメディアは右側へ視線を向け、右手を翳して
そうして
「
「それを、
「あっそ……」
メディアがやっている操作を止めない『黒』は、そのままその光景を見守り続ける。
すると地上の人々に投影されていた映像がログウェル達の映像が切断され、変わるようにメディアの
「!」
『――……勝負の結果は、ログウェルの負け。みんな、良かったね? これで世界は滅びずに済むよ。……でも、私は君達を許せない』
「……!?」
『
「え……」
『五百年前の
「……!!」
『私はね、何もせず
「……ッ」
今までのような笑みはせず、無感情にも見えるメディアに映像を通して人々は戦慄する。
まるで地上の人々の
そんな
『今回の映像は人間大陸だけじゃなく、魔大陸にも映してる』
「!?」
「魔大陸……!?」
『今回の事態に介入しないよう、ログウェルの頼みで私から魔大陸の王達に頼んだ。……つまり私の声は、魔大陸に居る魔族や魔獣達にも告げている』
「……まさか……」
『お前達も、五百年前に仲間である一人の少女が犠牲になるのを見捨てた。……私は、この世界の在り様が全て許せない』
「!!」
『だから次は――……君達全員が、大好きな犠牲になればいい』
「……!?」
メディアはそう伝えると、右手の中指と親指を擦り音を鳴らす。
すると次の瞬間、『
それと同時に世界の人々がいる
更にその真下部分に変形していた巨大な砲台が、凄まじいエネルギーを集束し始めた。
その異変は外に居る
「――……!!」
「な、なんだ……!? このヤベェ
「……」
「巨大なエネルギー反応……
エリクとケイルは異様な雰囲気をそれぞれ感じ取り、事態が新たな展開へ陥ったことを察する。
しかしログウェルの遺体を抱えて泣き崩れるユグナリスは、その事態に動揺すら出来ずに気力を沈め続けていた。
僅かに離れた
するとアルトリアだけは何が起こっているのか即座に気付き、全員に呼び掛けた。
「……まさか
「!!」
「なんだってっ!? でも
「とにかく、急いで
「アリアッ!?」
「!!」
アルトリアは地上に向けて砲撃が成されようとしている事を即座に理解し、それを止めようと
しかし強まり過ぎた
それを見たケイルは急ぎ駆けつける中、エリクもそれに気付き駆け寄ろうとする。
しかし瀕死のままであるエリクもまた崩れるように膝を落とし、その場に倒れた。
「……か、身体が……ッ」
「
「……も、もう一度……」
「
「でも、このままじゃ……っ」
自らを犠牲にしてでも
そんな二人の会話が聞こえるエリクは、再び
すると倒れ伏す白い
そして倒れたまま、傍に居るであろう人物に呼び掛けた。
「……帝国の、王子……」
「……」
「お前に預けた、
「……」
「おい……!」
エリクは必死に呼び掛け、傍に居る
しかし顔を伏したままログウェルの遺体を抱き抱えるユグナリスは、エリクの声に何の反応も示す様子を見せなかった。
すると呼び掛けを即座に諦めたエリクは、顔を上げながらアルトリアの傍に居るケイルに呼び掛ける。
「ケイル……!!」
「!?」
「コレを、止める方法がある……」
「えっ!?」
「……!!」
エリクの呼び掛けを聞いたケイルは、その言葉に驚きを浮かべる。
同じくそれを聞いたアルトリアも驚愕を見せた後、ケイルはその場から立ち上がりながらエリクの傍に駆け寄って聞いた。
「方法って、どうするんだっ!?」
「……帝国の王子が、白い布の……
「え? ……あ、ああ。持ってる。
「それは、どんな魔力を持つ物も、壊せる剣だ」
「!」
「あの
「ア、アタシ……!?」
エリクはそう頼み、
それを聞いて驚愕し動揺するケイルだったが、この場で
そして決意の
「分かった、やってみる。――……おい! この
「……」
ケイルは放心するユグナリスの後ろ腰から『
そして巻かれていた白い布を取り払い、『
その瞬間、『
まるで高まる魔力の集束に反応しているかのように、『聖剣』は宝玉と刀身の光を強め始めた。
それを
そしてその用途を察しながら、機体を通して慌てるように声を届けた。
『――……ちょっと待ていっ!!』
「えっ!?」
『
「……そ、そうだ……!!」
バルディオスの声で改めて自分の行動で起きる状況を理解したケイルは、聖剣を白い布で巻き戻しながら刀身を隠す。
そして
ケイルは左手に白布に包まれた聖剣を持ったまま、傍に居るエリクを支えて立ち上がろうとする。
しかし瀕死のエリクは自力で立つことが出来ず、その巨体の全体重を支えながら引きずるように歩き出した。
すると
「儂が男共を運ぶ! お前さんは
「あ、ああ。頼む、爺さん」
巨体のエリクを軽々と腰から抱えて肩に担いだ
そして言う通りにアルトリアが膝を着く場所まで赴き、その華奢な身体を支えながら軽々と立ち上がった。
「行くぞっ!!」
「……っ」
アルトリアはその言葉に従い、ケイルに支えられながら
そしてエリクを
「おいっ、若いのっ!! お前も行くぞっ!!」
「……」
「ったく、若いのにだらしないのぉ!! ――……フンッ!!」
涙を流しながら気力を失っているユグナリスに対してバルディオスは悪態を漏らしながらも、その逞しい両手と両腕でユグナリスの身体とログウェルの遺体を肩で抱える。
そして駆け出けながら手に乗せられているアルトリア達と合流し、聖剣を持つケイルに声を掛けた。
「儂が
「……ああ!」
アルトリアやユグナリス達を乗せ終わった二人はそう話し、バルディオスはそのまま
そして
「こんなふざけた場所、全部ぶっ壊せっ!!」
『――……リィィイインッ!!』
ケイルはそう叫びながら、『聖剣』の刃を白い
それと呼応するように『聖剣』から共鳴音が鳴り響き、刀身と突き刺さった地面から眩いほどの
すると
一瞬それは砲撃が放たれたかにも見えたが、その白銀の
そして次の瞬間、その
それをケイルも視認すると、
『乗れっ!!』
「ッ!!」
ケイルは呼び掛けに反応し、
それと同時に
それから数秒後、
更にその
白銀の
そして巨大な砲台も原型を保てないほどに粉々に砕かれると、現世に帰還した
そうした光景に
それをメディアの傍で見上げる『黒』は、寂し気な微笑みを浮かべながら話し掛けていた。
「――……これが、
「そっか。……これで、満足かい? ログウェル――……」
「……リエスティア。後は、お願いね――……」
形成されている時空間に巨大な亀裂が生じていく聖域もまた、『聖剣』の効力によって崩壊する。
それをメディアと共に見届けた『黒』は、次の瞬間にその人格はリエスティアの身体から消えていた。
こうして世界を滅ぼす兵器を搭載した
それは『聖剣』の恐るべき
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