強者合流


 そらに浮かぶ天界エデンの大陸よりも更に上空うえへ、到達者エンドレスとなり真竜となったログウェルが昇る。

 そして人間に対する『試練』と称して天候を操り、地上の人間大陸に数々の災害をもたらしていた。


 それを阻止する為に追ったユグナリスとマギルスは、真竜ログウェルの起こす天候そらによって能力ちからを封じられる。

 更に『精神武装アストラルウェポン』と『生命の火』を用いた二人の融合体も、マギルスの魂を焼失させかける形で自滅に至った。


 しかしそうした最中、落下していく二人を救出する者が現れる。

 それはフォウル国から古代武装の一つである『機動戦士ウォーリアー』を操縦するドワーフ族の長バルディオスと、それに同乗するエリクだった。


 こうして二人を乗せた『機動戦士ウォーリアー』がその上空に現れる前に、時間は戻る。

 そこでは天界エデンの大陸に残る『青』と対峙する、『緑』の初代ガリウス二代目バリスが激しい攻防を行い続けている場面だった。


「――……ムゥ……ッ!!」


 『青』は魔導師ながらも錫杖を構え振り、格闘戦を得意とするバリスと互角の打ち合いを続けている。

 更に生命力オーラの弓を構えて『青』の隙を狙い作ろうとするガリウスの狙撃に対して、周囲に作り出す水球で迎撃しながら防いでいた。


 しかし実力の高い歴代の『緑』を相手に、『青』は防戦に持ち込まれている。

 特に見た目の老齢に見合わないバリスの拳速こぶし脚速けりは、『青』の動きを牽制しながらも急所となる一撃を的確に狙い放っていた。


 そしてユグナリス達が上空うえに飛び上がってから二分ほどが経過した後、左脚で放つバリスの下段脚撃ローキックが『青』の右脚ひざに直撃する。

 その一撃には『生命の風』も纏われており、『青』の右脚ひざを砕くと同時に切り刻みながら姿勢バランスを崩させた。


「グ――……ッ!!」


 右側に傾いた『青』の動きと同時に、バリスは下げていた右腕と共に右拳を振るう。 

 そして『青』の顎下あごを狙い、頭部あたまを破壊しようとした。


 『青』は残る左脚だけで地面を蹴り、後方うしろけてその右拳を回避する。

 しかし振り上げられた右拳と同時に放たれていた右脚の脚撃けりが、『青』の腹部にめり込みながら貫いた。


「ガ、ハ――……ッ」


「……やはり、接近戦コレでは分が悪いようですな。『青』殿」


 蹴り込まれた脚撃は先程と同じように『生命の風』が纏われており、命中した『青』の腹部を切り刻みながら更に吹き飛ばす。

 そして十数メートルほど後方まで吹き飛ばされた『青』は、白い地面へ投げ出されながら錫杖を離して倒れた。


 『青』の身に纏う青い衣服ふくは血で染まり、白い地面にも血を垂れ流す。

 そのトドメを刺すように、ガリウスが生命力オーラの矢を放った。


「じゃあな」


「……ッ!!」


 錫杖も手放し自身の負傷によって矢を回避できない『青』は、自身の上体を起こして両手を前へ突き出す。

 そして放たれた矢は右手の平に命中し貫くと、『青』はそれと同時に右腕を外側へ薙ぎ、掴んだ矢の軌道を変えて右手の平から貫かせた。


 しかしその受け流しによって右手は吹き飛び、そこからも大量の血が流れ始める。

 右脚と右手を壊され腹部に大きな損傷ダメージを負った満身創痍の状態となった『青』に、バリスは歩み寄りながら声を向けた。


「流石は『青』の七大聖人セブンスワン。魔導師にも関わらず我々を相手にして一分いっぷんも持ち堪えるとは、恐縮します」


「……嫌味にしか聞けぬな」


「素直な賞賛ですよ。……確か今の貴方を殺すと、次の複製体からだに魂は移り変わるのでしたな」


「……っ」


「ここは遠慮せず、らせて頂きますよ」


 近付いたバリスはそう述べ、右拳を握る。

 そして座り尽くす『青』の顔面を狙いながら、突くように右拳を放った。


 すると次の瞬間、『青』の後方うしろから頭上うえを抜けて何かが通り過ぎる。

 それが生命力オーラの斬撃だと理解したバリスは、放った右拳の軌道を変えて自分に向かって来た気力斬撃ブレードを迎撃した。


 衝突した拳と斬撃は衝撃波を生み、僅かにバリスを後方うしろ後退あとずらせる。

 更に追撃して放たれる幾多の気力斬撃ブレードがバリスを襲い、それを全て迎撃しようと拳と脚を振るわされた。


 そうした間に、『青』の背中に一つの紙札が張り付けられる。

 すると『青』はその場から消え、バリス達から見えながらも先程よりも離れた場所へ転移させらていた。


 そしてその周囲に、突如としてかなりの人影が現れる。

 それを見た『青』は、乱れた息を吐き出しながら彼等に声を向けた。


「……お前達だったか」


「――……間一髪ってところかしらぁ?」


「――……いや、明らかに出遅れてんだろ」


 『青』を囲むようにその場へ現れたのは、長い金髪と着物姿ながらも九つの尾を持つ妖狐族クビア。

 更に逆の立ち位置には、左腰に以前にもナニガシから借り受けた大小の刀を持つケイルが立っていた。


 そしてバリスもまた、自分に斬撃を飛ばす者達の姿を目にする。

 そこにはクビアと同じ容姿をした妖狐族の姉タマモが現れ、それと同時に武玄ブゲンが刀を握り構えながら立っていた。


 妖狐族の偽装魔術によって現れた彼等に対して、バリスは姿勢を戻しながら向かい合う武玄ブゲンへ話し掛ける。


「御久し振りですね。武玄ブゲン殿」


「……確か、バリスだったか。おぬしも今回の事態に加担していたか」


「そういうことになるでしょうか」


「そうか、それは悲しき事よな。……お主もそう思うだろう?――……シルエスカ」


「!」


 面識のあるバリスが敵側であると理解した武玄ブゲンは、そう言いながら声を向ける。

 すると次の瞬間、バリスの左真横に炎を纏わせた斬撃が飛んだ。 


 斬撃それに気付いたバリスは『生命の火』を纏わせた左腕で斬撃を防御し、更にその衝撃を受け流すように身体を右側へ流す。

 そして改めて武玄ブゲンも視界に収めながら炎の斬撃が飛んだ位置を確認すると、彼等と同じように偽装魔術の施された札を持つシルエスカが、和槍わやりを構えた姿で現れた。


 しかしシルエスカの表情は憤怒に近い強張りを見せ、目の前に立つバリスへ怒鳴る。


「――……バリス……。……何をやっているんだ、お前はっ!!」


「シルエスカ様……」


「昔からお前の事だけは、誰よりも信頼できる者だと思っていたのに。……こんな形で裏切られていようとは、微塵も思わなかったぞっ!!」


「……申し訳ありません。……しかしこれが、今のわたくしの役目でございますので」


「!!」


 かつてルクソード皇族であるシルエスカにも仕えていたバリスは、そう述べながら両拳を握り構える。

 それを聞いたシルエスカは強張る表情を強めながらも、槍を構え炎を纏わせながら武玄ブゲンと共に対峙する様子を見せた。


 そうした状況をやや離れた位置で静観していたガリウスは、突如として現れた者達を見ながら呟く。


妖狐キツネが二人に、あっちの赤髪おんな達はルクソードの子孫か。……それにあのサムライ、ナニガシに似てるな。もしかして息子か孫か? ――……どうなんだ? 忍者しのびのお嬢ちゃん」


 ガリウスは現れた者達に対して知らぬ様子を見せながらも、自分の真横ひだりに視線を向けて問い掛ける。

 すると次の瞬間、そちら側にも透明な状態で潜む者が潔く姿を現した。


 それは忍者しのびの面と装束ふくを纏うトモエであり、姿と気配を完璧に隠蔽していたにも関わらず見破られた事を奇妙に思う様子で問い掛ける。


「――……上手く隠れていたつもりでしたが」


「悪いね。俺にそういうのは効かないんでさ」


「そうですか」


「んで、あのさむらい。ナニガシの子孫か?」


「御子息です」


「そうか、息子か。俺が死んでから随分後に作ったらしいな。……ちなみにお嬢ちゃん、もしかして千代嬢の身内か?」


「……母上も御存知なのですね」


「大昔にお前等アズマの国へ行った時、遊んでやった事がある。ナニガシと千代嬢はまだ元気か?」


「はい。私は千代母様の跡目むすめ、現御庭番衆の頭目を務めております。トモエです」


「そうか、そりゃ良かった。――……んで、お嬢ちゃんは俺とやるか?」


「僭越ながら。――……親方様ナニガシと肩を並べた弓の名手と立ち合えること、誇らせて頂きます」


「いいぞ、千代嬢みたいに遊んでる。――……掛かってこいっ!!」


「ッ!!」


 トモエは目の前にいる老人と武器に持つ弓を目にし、それがナニガシと同じ初代七大聖人セブンスワン一人であるガリウスだと理解した様子を見せる。

 そして改めて向かい合い対峙する事を選び、トモエはガリウスと戦う事を選んだ。


 こうした中で、負傷した『青』を回収したケイルはこの状況を問い掛ける。

 それに答える『青』は、新旧『緑』の七大聖人セブンスワン達が企てる『試練』と、劇的に変化している天候について話した。


「――……『緑』の七大聖人セブンスワン。奴等は試練と称し、人類を追い詰めようとしている」


「人類を追い詰めるだと……? 滅ぼすつもりじゃねぇのか」


「自分達を止められなければ、価値が無いと判断し滅ぼすつもりのようだ」


「なんだよ、そりゃ……。……それで、ログウェルって爺さんは?」


うえに飛んだ。今は帝国皇子ユグナリスとマギルスが対峙しておるはずだ」


「アイツ等か。……エリクは、まだ来てないのか」


「まだだな」


「チッ。だったらアタシも師匠達に加わって、アイツ等を倒しちまうか」


「待て。……それより、あの者を……聖域に連れて行ってくれ」


「え――……!」


 『青』はそうして残る左手の人差し指を動かし、ある方向へ向ける。

 するとその先には、周囲に残る瓦礫に隠れているリエスティアとシエスティナが見えた。


 その意味を理解すると、ケイルは溜息を鼻から吐き出して答えを返す。


「……はぁ。……ここは、アンタ達に任せていいのか?」


「ああ」


「分かった。――……クビア、行くぞっ!!」


「えぇ? 私もぉ……!?」


「お前が居ないと、アリアを逃がせないだろっ!! ほら、早く!」


「だ、だったらいっぱい報酬は貰うからねぇ!」


「分かったから、さっさと走れっ!!」


 そう言いながらリエスティア達と合流すべく、ケイルとクビアは走り始める。

 それを見送るように見ていた『青』は、左足と左手で腰を上げて身体を起こし、破壊された右手と右脚、そして腹部を青い魔力ひかりで覆い、それで欠損部分をおぎなった。

 

 更に再生させた右手を落ちている錫杖に向け、それを転移で引き戻す。

 更に自分自身も転移させ、シルエスカ達と同じ場所に立ちながらバリスと向かい合った。


「――……形勢は、こちらに傾いたな」


「そうでしょうな。……では、ここから本番としましょうか」


 再び戻った『青』も戦列に加わると、バリスは四名の強者と向かい合いながらも臆する様子を見せずに立ち向かう。

 そして彼等は衝突し、暴風が吹き荒れる中で激しい戦いを繰り広げ始めた。


 こうしてアズマ国に居たケイル達は、天界うえで戦う『青』と合流する。

 そしてバリスとガリウスという強敵を抑えさせ、ケイル自身はリエスティア達を伴い、アルトリアがメディアと戦う聖域へ向かおうとしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る