厄災の始動
『緑』の
そして対峙するユグナリスの目の前で『
すると
それは人間が住む
その被害を直に浴びる者達の中で、ガルミッシュ帝国のローゼン公爵家の屋敷に視点は移る。
「な、なんだ……!?」
「都市の外に、急に雷雨が……!?」
「さっきまで、晴天だったのに……」
「……
「三割程が、地下に入ったそうですが……」
「……地下に入ったとしても、今回も安全とは言えないな」
ローゼン公爵家の屋敷にて着陸した
そこでは急激な暴風雨が起きている事を理解し、突如として起こる天候変化に驚愕を浮かべていた。
すると簡易式の魔導器を用いて、都市部の避難状況を確認しながら自分達の避難を速めるか決断しようとする。
そうした者達に付き添うように同乗している中には、皇帝代理を務める皇后クレアと幾人かの従者達がいた。
更にカリーナに付き添われながら
「……この天候から感じる、
「ウォーリス様?」
「……ローゼン公、出発は待った方がいい!」
「!」
何かを感じ取るウォーリスは、
それに従者達が驚きを見せる中、セルジアスはその声に応じるように問い掛けた。
「どういうことです?」
「この
「!」
「私見だが、この
「……何者かが、この
「そうだ」
ウォーリスは自身の知識と知恵を提供し、出航させようとしているセルジアスの判断を止める。
それを周囲の従者達は訝し気な視線を強めていたが、セルジアスは真剣な瞳を向けて説くウォーリスに頷きながら応えた。
「……こうした異常事態だ。そういう意味では、貴方の知識は信用できる。しばらくは様子を見る!」
「公爵閣下……!」
「都市の避難を急がせてください。我々はそれが終わるまで、状況を確認しながら待機します」
ウォーリスの意見を聞いたセルジアスは、それに従い出航を取り止めて都市部の避難が終わるのを待つ。
そうして会話を行った一分後、都市の真上に巨大な閃光が走った。
それと同時に落雷が降り注ぎ、都市部を覆う結界に巨大な亀裂が生じる。
「!?」
「
「……雨と
「これは、あの時と同じ……!」
「結界装置の状況確認をっ!!」
落雷が起きた直後、都市内部に異常な暴風と雨が入り込み始めている。
それによって都市の結界が破壊された事を理解したセルジアスは、通信器を用いて外壁で待機する結界装置の状況を確認させた。
しかしその報告が届くよりも早く、
「……これは……
「ウォーリス殿?」
「先程の落雷、明らかに自然の
「えっ」
「……しまった! ローゼン公っ!!
「!?」
「先程と同じ落雷が、この
「――……全員、
ウォーリスが
その忠告を信じたセルジアスは即座に避難を促そうとしながらも、その声は次の瞬間に起きた落雷によって妨げられた。
すると次の瞬間、
それが
「うわっ!!」
「キャアアッ!!」
「皇后様っ!!」
「クッ!!」
『ガ、ガガガガガ――……』
船内を這うように走る
更に各席に座る
そうして周囲に及ぶ電撃は
その傍に立っていた従者達は巻き込まれるように破壊された装置の破片を浴び、その場に血を流しながら倒れた。
ウォーリスもその危険性に一早く気付き、損傷した肉体を無理矢理に動かしてカリーナを抱くように庇いながら席から離れる。
それと同時に傍にある機器が破壊され、服越しながらもウォーリスの背中に幾つか破片が突き刺さった。
そして床に倒れる形で守られたカリーナは、爆発が起きウォーリスが庇ってくれた事を察して叫ぶ。
「ウォーリス様っ!?」
「……大丈夫だ。……それより、コレは……」
「……!」
背中を負傷したウォーリスは慣れた痛みを我慢し、顔を上げながら周囲の状況を確認する。
するとその表情の渋さを強めると、カリーナもそれを見て改めて周囲の被害に気付いた。
そうした装置の傍に居た従者達は電撃や破片を浴びた影響で負傷し、ほぼ全員が床に倒れていた。
すると艦長席に座っていた皇后クレアを庇うように、セルジアスが自身の身体を覆わせている。
その腕や背中には周囲の機器から飛び散った破片が刺さり、セルジアスの肌に血を流させていた。
「――……ッ」
「セルジアス君っ!?」
「……御無事ですか、皇后様……っ」
「私は大丈夫です! でも、貴方が……」
「この程度は、軽傷です。……それより、第二撃が来るかもしれない。急ぎ、
セルジアスは浅く刺さる破片を自分の手で引き抜きながら、周囲で倒れる者達の安否を確認する。
そして動ける者達は動けない者を支えながら歩かせ、急いで内部から船外へ移動させるよう命じた。
するとセルジアスは通信装置の傍に近付きながら操作盤を叩くも、完全に破壊されている事を確認しながら表情を強張らせる。
「……この
「ローゼン公! 早く出るぞっ!!」
「分かっています……っ」
ウォーリスの呼び掛けで振り向いたセルジアスは、自らも
そして互いにカリーナとクレアに支えられながら歩き、
その道中である廊下は、
セルジアスはその状況を見ながら、隣を歩くウォーリスに問い掛けた。
「……あの雷撃は、
「そうとしか考えられない。何者かが、的確に
「これが、攻撃――……!?」
「!」
そうして話す彼等の会話を遮るように、その周囲に再び投影された映像が浮かび上がる。
するとそこには対峙するメディアとアルトリアの姿が映り、それを見たセルジアスは驚愕を浮かべながら声を向けた。
「母上……アルトリア……!」
「……どうやら、
「ならば、この天候も二人の戦いが原因で……?」
「……いや、この二人が戦っているのは『聖域』のようだ。それにあの
「ならば、他の誰かが……?」
「
「
「そうだ。
「……どうなってしまうんだ、この世界は……っ」
「セルジアス君……」
ウォーリスの推察を聞くセルジアスは、今回の事態が再び自分達の手に負えない状況となっている事を察する。
まだ三年前の襲撃から完全には立ち直れていないセルジアスには、その事実が肉体的な負傷よりも精神的な疲弊を強く高めた。
そんなセルジアスを気遣う様子を見せるクレアだったが、映像を見続けているウォーリスはその会話を内容を聞いて驚きを浮かべる。
「……アルトリアの持つ
「えっ」
「同質の
「では、アルトリア様は……」
「このままだと、いずれは
「不自然?」
「何の策も無く、アルトリアが挑むとは思いたくないが。……それにどうも、消極的なようにも見える。敢えて余力を残し、時間稼ぎをしているような戦い方だ」
「ウォーリス様には、それが分かるんですか?」
「
映像越しに見えるアルトリアの戦い方に、ウォーリスは違和感を抱きながら呟く。
それを聞くカリーナも映像を見つめ、そこでメディアから飛翔し逃走しているアルトリアを見た。
その表情は必死であり、アルトリア自身はメディアと接触を避け距離を保とうとしている事が理解できる。
圧倒的な実力差がある
そうした話をしている間に、セルジアス達は
そして暴風と豪雨に晒されると、ウォーリスが渋る様子を強めながら再び忠告を向けた。
「……この雨と
「えっ」
「やはり、
「……屋敷に戻りましょう。そして、屋敷の地下室に避難を」
再びウォーリスの注意を聞いたセルジアスは、先に出ていた従者達や一緒に乗り込んでいた家令達に向けて屋敷へ戻るよう伝える。
それに全員が従い、降り続ける豪雨を雨具で防ぎながら負傷者達を庇い、屋敷へ再び戻った。
そして屋敷内にて負傷者達の治療が行われ、回復魔法と治癒魔法の心得がある者達がそれぞれに対応する。
セルジアスもその恩恵を受けながら、傍に座るウォーリスと共に映像を見ながら呟いた。
「……もしかしたら、この
「ログウェルが?」
「以前に、父上から聞いた事があります。ログウェル殿は『風』の属性魔法を最も好んで使い、自然の風を読むことにも長けていたと」
「……だが、この規模の天候操作は聖人単独で行えるはずがない。空を見る限り、最低でもこの大陸全土を暗雲が生じているように見える」
「ならば、ログウェル殿が
「
「!」
「聖人が
「……どういう事です?」
ウォーリスはそうした呟きを見せ、それを聞くセルジアスは更に踏み込んで問い掛ける。
すると彼は、過去に自分自身も聞いた話を教えた。
「人間が
「!!」
「だが『マナの実』を食べられれば、万を超える者達を殺す必要は無くなる。……つまり必要なのは、『聖人』の魂と肉体、そして『信仰』だけになるわけだ」
「……ログウェル殿は
「あるじゃないか。この帝国には、
「……ログウェル殿の本ですか……!?」
「そうだ。『老騎士ログウェル』の名前は帝国において子供でも見る絵本として配り
「……まさか、ログウェル殿はこの日の為に……
「この状況を見れば、そうとしか考えられない。――……この
「……!!」
到達者へ至った可能性があるログウェルに対して、ウォーリスは
それはログウェルが真竜となって
すると次の瞬間、彼等の周囲に浮かぶ映像に変化が及ぶ。
そこにはメディアが飛翔し逃げるアルトリアへ追い付き、その両足を掴みながら中空で逆さに吊るす様子だった。
『――……はい、
『クッ!!』
『
「!」
メディアは遊びの終わりを告げようとすると同時に、逆さに吊るされたアルトリアは両腕を突き出す。
そして両手の平から凄まじい生命力の砲撃を放ち、間近でメディアに浴びせた。
そして砲撃の光が
「……!!」
『――……何度も言ってるでしょ。無駄だって』
『……っ!!』
その映像には、両手で両足を掴まれたままのアルトリアと、まともに砲撃を浴びたはずのメディアが無傷のまま存在している様子が映し出されている。
すると大きく身を仰け反らせたメディアは、同時に両腕を後ろ側へ逸らしながら持ち上げたアルトリアの身体を背中側に回した。
『うわ……っ!!』
『物覚えが悪い子には――……お
『ッ!!』
そう告げた瞬間、メディアは凄まじい速度で上体を前へ倒し、両腕を前へ振り下ろしながらアルトリアの身体を真下へ投げ飛ばす。
その速度と衝撃は音の壁すら突き破り、凄まじい風を切る音と共にアルトリアを聖域の森へ叩き付けた。
轟音と共に土を舞い上げた
するとそこには森と地面を大きく削った
その光景を映像越しに見たセルジアスは、妹のボロボロになった姿に驚愕しながら声を発する。
「アルトリア……!!」
『――……君は弱いね。アルトリア』
「!」
『精神も肉体も、まだまだ発展途上。……でも、それもしょうがないのかな。君は生まれて、まだ三十年も経ってないんだから』
そう言いながら浮遊するその場から急降下するメディアは、地面に突っ伏したままのアルトリアに近付く。
するとアルトリアに近付きながら右膝を地面へ降ろし、その額に右手で触れようとした。
『ごめんね、君には
「……!!」
そう言いながら倒れるアルトリアの額へ触れた時、メディアが僅かに驚く声が響く。
すると次の瞬間、アルトリアに見えた肉体は
そして次の瞬間、メディアの背後に在る地面が突き破られるように砕け、その場にアルトリアの姿が現れる。
『!』
『――……これで、一発目っ!!』
メディアは驚く様子を見せながら振り向くと、アルトリアは右拳を握りながら踏み込む。
そして
ここに来てようやく反撃の一撃を入れられたアルトリアは、強張らせた表情を向けながら倒れる
『ハァ、ハァ……。……今更になって現れて、母親面して……私を舐めんじゃないわよっ!!』
反撃の拳と共に反抗の声を向けるアルトリアは、そうして
それに対して地面に伏したままのメディアは、両腕で上体を起こしながら立ち上がりながら言葉を呟いた。
『うん、良い
『……!』
『良かった。ちゃんと君が、私に一撃入れるくらいの実力を持っててくれて』
『……何を、言って……』
『元々、一発くらいなら喰らってもいいと思ってたんだ。……でも君がそう出来ないくらい弱くて、ちょっと呆れてたのが本音』
『!!』
『でも、この一発は良かったよ。少し安心した。――……じゃ、遊びは終わりでいいね?』
殴られた左顔を見せたメディアだったが、その肌には傷一つすらついていない。
しかし何処か満足気な様子を見せるメディアの微笑む表情と同時に、その場に凄まじい
それを間近で受けるアルトリアは、殴れて微笑んでいた表情を再び蒼白とさせる。
これは今まで母子の戯れを興じていた
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