風の到達者
しかし同じ『生命』を司る『火』と『風』の相性はログウェルに傾き、更に『緑』の聖紋が有する
そこでユグナリスと共に肩を並べて戦う事を選んだは、同じ
こうして『緑』の
最初に仕掛けたのは『青』であり、全員が同時に飛び出す中で一早く
それと同時に夥しい量の水が突如として生み出され、それが三人の『緑』達に襲い掛かった。
ログウェルを筆頭にバリスとガリウスは共に押し寄せる水を飛び避け、互いに意図とした微笑みを浮かべて別々の方向に跳ぶ。
そして真上に跳んだログウェルをユグナリスが跳躍しながら
「クッ!!」
「邪魔が入らぬ場所でやろうか」
激突した互いの剣から火花が散った時、ログウェルは『生命の風』の突風でユグナリスを別方向へ吹き飛ばす。
するとログウェル達とは別方向へ跳んでいた素手のバリスが、空中で回転しながら大鎌を振り抜き襲うマギルスと激突した。
「――……えいっ!」
「むぅっ!」
大鎌の刃が振り下ろされ、着地したバリスの脳天を的確に襲う。
しかし左手に纏わせた『生命の風』を用いて大鎌の刃を緩やかに流し弾いたバリスは、踏み込み跳躍しながら右拳をマギルスに放った。
するとマギルスは足場に
「『
「!」
それを両腕で防ぎながらも叩き落とされたバリスは両足で着地し、それと同時に地面を濡らす水を嫌うように右手に纏わせていた『生命の風』を
すると次の瞬間、周囲に凄まじい暴風が生み出される。
そして地面を濡らし満ちる水を舞わせ、空中に居たマギルスを巻き込む形で襲わせた。
「うわっ!!」
マギルスは真下から押し寄せる暴風を素早く回避し、大きく離れた位置に着地する。
そして暴風の中から現れるバリスに視線を向け、互いに微笑みを向けながら言葉を交わした。
「やっぱり、お爺さん強いね!」
「貴方も十分に御強い」
「どうしてそんなに強いのに、
「私は既に
「ふーん。じゃあ、今回もそういうこと?」
「そうですな。これもまた、今を生ける者達が解決する必要がある問題だと私達は考えております」
「そっか。じゃ、お爺さん達を倒してチャチャっと解決しちゃうもんね」
「そう願います。……しかし、そう易々と越えられる
「壁ならもう、何回も越えて来たよ!」
武器を用いない格闘術と『生命の風』を組み合わせた
それを見るマギルスはバリスを強者だと認識し、
そして青い閃光と緑の閃光が重なり、凄まじい近接戦を繰り広げ始める。
互いに速度を重視し小技を使った連撃を行い続け、まるで戦いを楽しむ様子さえ窺えた。
一方そうして激しい攻防を繰り広げる二組とは相反するように、落ち着いた面持ちで向かい合う者達がいる。
それは
「――……お主の性格は変わらんようだな、ガリウス」
「そういうお前こそ、その偏屈そうな顔は若くなっても変わらんな。『青』」
「……四百年前に
「悪いが俺自身、
「そうであろうな。……聖紋に宿っておるお主は、当代の『緑』に操られておるのか?」
「まさか。これは俺達自身の意思だ」
「ならば何故、『聖紋』が機能しておらん。奴もそうだが、制約に反する行動をすれば、奴もお主も死は免れぬはずだ」
「確かに、
「……まさか、奴も
「そうそう。どうやら
「……『白』では見られなかった現象だな」
「『白』自身が
「同感だ。……ただし、今のお主には言われたくなかろうよ」
互いに通じる話を行った『青』は、錫杖を振り構えながら向ける。
それを見たガリウスは口元を微笑ませ、『生命の風』を纏わせた両手を重ねながら緑色の光を束ねた。
すると次の瞬間、ガリウスの手に緑色の
それが彼の
「良い機会だ。儂の『
「そのつもりだ。――……ルクソードが
「儂とて同じよっ!!」
互いに過去に何等かの因縁があるのか、そうした感情を向け合いながら互いに真横へ移動しながら攻撃を始める。
ガリウスは形成した『弓』から
逆に『青』も動きながら連射される矢以上の速度で魔力を練り上げ、迎撃する『
『風』の性質を持つ
互いに放つ矢と水弾を迎撃し合う二人は、本気の
それを遠くに離れながら見ているのは、リエスティアとシエスティナの
すると娘であるシエスティナは、
「――……お父さん達、大丈夫かな?」
「……ええ。きっと、大丈夫」
「本当?」
「もちろん。――……もうすぐ、あの人が来てくれるから……」
そして未来を視る黒い瞳で、何かを待つような様子を見せていた。
こうしてそれぞれが激しい戦いを繰り広げる中で、神殿入り口の手前まで戦闘場所が移動していたユグナリスは、ログウェルと共に
すると柔和な微笑みを崩さないログウェルに対して、ユグナリスは鋭い眼光を向けながら再び声を向けた。
「……アンタは今まで、何を考えていたんだ」
「?」
「俺を鍛えて、帝国の為に動いてくれて。そして生きて、一緒に世界を救う為に戦ってくれたと思ったアンタが。……どうして今更、こんな事をっ!?」
「またそれか。言うたであろう、これは人間に対する『試練』じゃと」
「試練ってなんだよ! 第一、アンタが人間を試す権利があるのかっ!!」
「あるのぉ」
「!?」
「『緑』の
「……どういうことなんだっ!?」
再び口論を交えようとするユグナリスに対して、ログウェルは落ち着いた面持ちを浮かべて話す。
そしてそれは
「ユグナリス。『風』とは何だ?」
「え……。か、風は風だろっ!? それ以外の何があるんだ」
「そうじゃな。……じゃがお主の『火』と同じように、『風』もまた様々な要因によって生まれ、その姿を変える」
「!」
「時には
「……!」
「儂等『風』の一族は、その役目を
「……そんな生き方……自分の意思で、変えればいいじゃないかっ!! アンタが俺に、教えてくれたようにっ!!」
「それは出来ん」
「なんでっ!?」
「『風』が
「惰弱に、成り果てる……?」
「
「……!!」
「儂はな、そうなってほしくない。――……だからこそ、儂やメディアは『試練』となる。お主達、人間に対してな」
「ッ!!」
『試練』と称する自身の目的をそう語るログウェルは、自身の肉体から『生命の風』を生み出す。
それが突風となってユグナリスに襲い掛かると同時に、それに溶け込むように迫ったログウェルの剣を受け止めた。
それから幾重にも二人の剣は重なり、火花を散らしながら緑と赤の閃光となって激突し合う。
互いに『
しかし実際には、この攻防は互角ではない。
自身に纏わせ肉体を変質させる『生命の火』を幾度も吹き飛ばされ消されているユグナリスは、凄まじい速度で自身の
「クソッ!!」
「お前さんは強くなった。儂の剣をこうして受け止められておるのが、その証拠じゃて。誇って
「こんな……こんな形で、アンタには
余裕の無いユグナリスに対して微笑みを向けるログウェルは、弟子の成長を改めて賞賛する。
しかしそれが敵対者として相対する
更に剣戟を交えるユグナリスは、自身の本音を言い放ち続ける。
「アンタが居たから、俺は何度も立ち上がれた! リエスティアとも会えて、嫌いなままだけど……アルトリアやウォーリス殿とだって理解し合えたっ!!」
「……」
「リエスティアが起きたら、改めてアンタに礼を言いたかったっ!! シエスティナにも紹介して、アンタが俺の師匠だって、自慢したかったのにっ!!」
「……ユグナリス」
「こんな形で、二人にアンタを会わせたくなかったっ!! 見せたくなかったっ!! ――……なんで俺とアンタが、こんな形で戦わなきゃいけないんだっ!!」
『生命の火』を纏いながら赤い
それはログウェルがこうした暴挙に出たことに対する怒りではなく、最愛の家族に『師』としてではなく『敵』として向かい合う姿しか見せられなかった悲しみの叫びだった。
それを聞きながら黙々と剣戟を弾き受けていたログウェルは、鼻で笑うような息を吐き出す。
「……ふっ」
「なっ、何がおかしいっ!」
「やはり、お前さんは
「!?」
「ゴルディオスという
「グァ……ッ!!」
微笑みの表情を見せていたログウェルが、一瞬にしてその表情と瞳を鋭くさせる。
すると次の瞬間、火花を散らせた剣戟と同時に凄まじい突風がログウェルから放たれた。
それによって『生命の火』を吹き飛ばされたユグナリスは、一時的に炎化させていた肉体が戻る。
同時に空中で姿勢を崩したユグナリスに、ログウェルは容赦のない右蹴りを鳩尾に喰らわせた。
その蹴りによってユグナリスは大きく地面側に吹き飛ばされ、『生命の火』を再び纏う時間すら与えられずに地面へ激突する。
ログウェルはそれを見下ろしながら緩やかに着地し、痛みを堪えながら起き上がるユグナリスに声を向けた。
「お前さんは優し過ぎる。しかしその優しさが、時として
「……!!」
「だからこそ、儂も人間を信じておる。――……例え儂自身が、
「……そ、それは……なんなんだ……!?」
そう言いながらログウェルは剣を持たない左手を真横の中空に
するとそこからあるモノを取り出し、ユグナリスはその異様な気配に驚愕を浮かべて問い掛けた。
ログウェルはそれを左手で握りながら、微笑みを戻して教える。
「マナの実じゃよ」
「!?」
「お前さん達が戦っておった
「……ま、待って……何を……っ!?」
「ユグナリス。お前さんの今の姿で、儂は満足したよ」
そう言いながら微笑む言葉を向けた後、ログウェルは左手に持つ『マナの実』を自身の口に運ぶ。
そして実を一齧りした後、ログウェルの肉体に異変が起きた。
それは肉体から膨大な『生命の風』が放たれ、
それにマギルスや『青』達、更にリエスティア達も晒されながら耐え、動揺の様子を浮かべた。
「うわっ、なにこの……
「……しまった。まさか、奴が持っていたとは……!!」
「お母さん!」
「大丈夫、大丈夫だから。……ログウェル様……っ」
それぞれが驚きの声を浮かべる中、自身の無効化能力で
そして彼女の黒い瞳が向けている方角に、大陸中央に存在する巨大な神殿すら飲み込む
その間近に立ちながら耐えているユグナリスは、暴風の中にある存在を目にしてしまう。
「……ア、アレは……!?」
『――……これが、儂の真の姿じゃよ』
「え……。……ど、ドラゴン……!?」
ユグナリスが暴風の中で目にしたのは、神殿の周囲に浮かぶ存在。
それはまるで蛇のように長く足の無い身体を持ち、その
そしてその
しかしその感情とは裏腹に、その
こうしてログウェルと相対したユグナリスだったが、彼の目的を妨げられずに新たな脅威が生み出される。
それは『マナの実』を食したログウェルが、新たな
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