瞳に映る未来
ガルミッシュ帝国のローゼン公爵領地に帰還したアルトリアだったが、待ち構えていた兄セルジアスによって自身の
更に『赤』の
そうした波乱の帰還を迎えながら膝を崩すユグナリスを見るケイルは、微妙な面持ちで声を向ける。
「……まぁ、なんだな。なんかお前に、
「……や、やって欲しいこと……?」
「ミネルヴァから聞いた話だと、
「え……? ……お、俺がやりたい事って言われても……」
ケイルは聖紋がユグナリスに引き継がれた理由を考え、そう指摘する。
しかし今までリエスティアに対する愛情で突き動かされた彼の思考には、帝国皇帝となること以外にそれらしい目標などが考えられていない。
そんなユグナリスの思考を察するように、アルトリアがいつもの悪態を吐いた。
「ふんっ。この馬鹿にそんな大層な考えなんか無いわよ。何かやって欲しいって
「……な、何かってなんだよ?」
「はぁ。……アンタも一応、世界を救う為の
「カギ……? 何の話だよ」
「さぁね。とりあえず、アンタにも時が来たら協力してもらうから。それまで
「……!」
ユグナリスが同じ
そして皇帝を継げない状況となったユグナリスに代わり、
そうして一同がセルジアスに視線を注ぐと、張本人は渋る表情を見せながら口を開く。
「……私は、皇帝にはなれないよ」
「ローゼン公……」
「続けられている帝都の復興と
「……ッ」
「私は君こそが新たな皇帝に相応しいと思っている。他の貴族達も同様の考えだ。私や彼等は帝国貴族として、君達を支えるのが役割なんだよ」
「……でも、『
自身が皇帝となる事を明確に否定するセルジアスは、そうして諭す言葉をユグナリスに向ける。
しかし
するとセルジアスは、妹アルトリアを見ながら問い掛ける。
「アルトリア。さっきの口振りだと、君達が世界の滅亡を回避する為に探している人物達の中に、ユグナリスが含まれているんだね? それが『赤』の聖紋を宿した理由になっている。そう考えていいかな?」
「まぁ、そういうことよ」
「なるほど。ならそれを終えるまでは、クレア様には皇帝代理を務めて頂こう。ユグナリス、君はアルトリア達に協力して、世界の滅亡を防いでくれ。この世界が無くなれば、
「……はい」
今までの情報からそう結論付けたセルジアスは、ユグナリスに優先すべき事を教える。
それを聞き入れたユグナリスは落としていた膝を上げ、改めてアルトリアに問い掛けた。
「俺はこれから、何をすればいい? 教えてくれ」
「その前に、もう一人の意思も聞く必要があるわ」
「もう一人? ……えっ」
アルトリアはそう話し、ユグナリスから視線を逸らす。
すると新たに向けられた視線の先には、
するとアルトリアは足を進め、改めて黒い瞳を見せているリエスティアと話を行う。
「リエスティア。貴方の協力も必要になるだろうから、覚悟しておいてほしいの」
「……私の、身体の事ですね」
「!」
傍に居たユグナリスはそれに驚きながらも、アルトリアはそれを予測していたかのような口振りで話を続けた。
「やっぱり、貴方にも視えてるね。しかも今は、完全に」
「……はい」
「ど、どういう事だよ……!?」
「アンタも流石に知ってるんでしょ。リエスティアの身体が『
「!」
「そしてその
「未来視……!? リエスティアに、そんな
「この子の瞳を治癒した頃から、そうした兆候は診れたわ。ただ未来視の影響で脳や精神に大きな負荷が掛かってたみたいだから、なるべく瞳を開かずに未来を視ないよう注意してたけど。……今はもう、完全に
「……はい。アルトリア様や皆さんがここに来る
「!!」
アルトリアの言葉を肯定したリエスティアは、『黒』と同じ未来視の
それに驚く周囲の反応を他所に、アルトリアは表情を厳しくさせながら話を続けた。
「だから、私が話そうとしていた事も分かる。……リエスティア、それに協力できる?」
「……」
「ア、アルトリア!
「……世界の破壊を防ぐ為には、もう一度だけリエスティアには
「なっ!?」
「世界を破壊しようとする
「……アルトリア、お前……ッ!!」
厳かな表情でそうした話を伝えるアルトリアに、ユグナリスは表情を強張らせる。
そして何か怒声を放とうとした瞬間、それを止めるようにリエスティアが自身の意思を介入させた。
「ユグナリス様、いいんです」
「!」
「アルトリア様は、そうする必要があるからこそ私達に協力するよう御伝えしているんです」
「で、でも……そうなったら、また君の魂が輪廻に……!!」
「それも防げる方法を、アルトリア様は考えておいでです。そうですよね?」
すると小さな溜息を漏らしたアルトリアは、腕を組みながら
「ウォーリス達が言ってたでしょ。抜き取られた魂を一時的に保管してたって。その方法を使って、貴方の魂を
「だから、
「まぁね。私の
「はい」
魂を現世に留める技術を持っていたウォーリス達にも協力が必要だと明かしながら、アルトリアは改めてリエスティアに協力の成否を尋ねる。
すると頷いて応じたリエスティアに、ユグナリスが困惑の表情を強めながら声を掛けた。
「リエスティア……!!」
「ユグナリス様。私にも協力させてください。それがきっと、
「で、でも……」
「それに、ユグナリス様も御協力して下さるなら。私も、安心できます」
「……っ」
微笑みながら協力に応じる許可を求めるリエスティアの言葉に、ユグナリスは反対の言葉を詰まらせる。
そして渋る表情を抱えながらも、アルトリアを睨むように見ながら自身の返答を向けた。
「……話は分かった。でも絶対に、リエスティアを危険な目に遭わせるなよ」
「そんなつもり、最初から無いわよ」
「そうか。……それで、具体的にどういう事をするんだよ? お前とリエスティアは二人だけで分かっているようだけど、俺は何も分からないぞ」
「……はぁ、しょうがないわね。……
「あ、ああ。それがお前なんだろ?」
「それも知ってたのね。……ただし、
「え?」
「
「……えっと、
「んっ」
「……え?」
「アンタよ、アンタ。アンタも一応、
「……お、俺がっ!?」
「ついでに、そこにケイルもその一人。あと、私の仲間のエリクもそう。他にも魔大陸に一人いるらしいのと、残り二人は誰かも分かってない。だから私は、その残り二人を今まで探してたってわけ。分かった?」
「……え、えぇ……?」
不快で不愛想な表情で説明するアルトリアに、ユグナリスは呆然とした表情を見せる。
そしてそれを傍で聞いていた兄セルジアスもまた、その事について話に加わった。
「……その二人なんだが。ウォーリスの話から、その一人が
「ウォーリスから?」
「何でも、彼の過去には
「リエスティアを隠したのが……。……そうか。テクラノスが見たっていう子供は、
「エリク殿はその話を聞き、
「なるほど、そういうこと……」
エリクがメディアやログウェルを探し始めた切っ掛けがその話を聞いたからだと、改めてアルトリアは理解する。
そして僅かに思考した後、
「……ウォーリスに会うわ。面会できる?」
「ああ、可能だよ」
「リエスティアの魂についてもそうだけど、ウォーリスに聞きたい事が出来たわ。ちょっと行って来るわね」
「アタシも行くぜ」
「僕は
「はいはい。――……というわけだから、これからの事はエリクが戻ってからよ。それまでは大人しくしてなさい」
「えっ!? いや、お前が言うなよ……!」
そう言いながらアルトリアはケイルを伴い、セルジアスを先導させて部屋を出て行く。
必死に思考していたユグナリスはそれに取り残され、部屋の中に留まる事になった。
そして部屋に残ったマギルスは、友達となったシエスティナに微笑みながら話し掛ける。
「ねぇねぇ、何して遊ぼうか」
「うーんと、えーっと……かくれんぼ!」
「うん、いいよ!」
「お父さん、お母さん!
「あっ、ちょっと! シエスティナッ!?」
「いってらっしゃい。気を付けてね」
今度はマギルスに連れられたシエスティナが部屋を出て行き、父親であるユグナリスはそれを止めようとする。
しかし母親であるリエスティアは、逆に二人を微笑みながら見送る様子を見せていた。
すると二人だけになった部屋の中で、リエスティアは黒い瞳を見開きながら驚愕の表情を浮かべる。
「……ユグナリス様……!!」
「えっ?」
「……これは、何の……
「リエスティア……!?」
自身の黒い瞳を覆いながら動揺を浮かべるリエスティアに、ユグナリスは駆け寄りながら身を寄せる。
それから動揺を鎮められないリエスティアは、『黒』の瞳が視せた
こうして
しかしそうした間にも、彼等の居る世界には更なる異変が起きようとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます