聖剣を握る者
地下に埋もれた旧フォウル国の首都へ辿り着いたエリク達は、ドワーフ族のバルディオスの先導により巨大な大扉の先へ進む。
すると二分ほど歩いた場所でバルディオスは立ち止まり、その前にある白い壁を見ながら口を開く。
「……この先に、『聖剣』がある」
「えっ。……壁しかないよ?」
「だから、この壁の先じゃ」
「どういうこと?」
「『聖剣』は危険であるが故に、その効力が働かぬ魔力を含まぬ物質で覆っている。これが、その物質で出来た壁じゃよ」
「!」
「儂は数十年に何度か、この壁を補修している。放置しておくと、覆っている物質に魔力が入り込んでしまってな。それで魔力が浸透している部分が破壊され、覆っている部分が崩れてしまうんじゃ」
「……その『
「うむ。しかも『聖剣』自体が、意思を持っている。お前さんの大剣と同じように、魂を宿しているんじゃよ」
「!」
「故に、儂等のような魔族や魔人にとっては天敵のような武器でな。しかも巫女姫様が土地を豊かにする魔力も妨害してしまう為、こうして覆っているんじゃよ」
「……だから、危険な武器ということか。……どうやって取り出すんだ?」
「壁を破壊すればいい。ただ注意しろよ。あの『
「分かった。……マギルス。お前は
「もう離れてるわよぉ」
「おじさん、頑張ってね!」
「儂も手は貸せぬからな。お主でやれよ!」
注意する前から既に離れる三人を見て、エリクは苦笑を浮かべる。
そして自ら背負う大剣を引き抜き、鬼神の
生命力の斬撃は目の前にある壁を粉々に打ち砕き、その中に見える空洞を露にさせる。
すると地下深い暗闇であるはずのその場所が、突如として
「!」
「こ、この光って……!?」
「『聖剣』自体が強いエネルギーを放っておる。それが光の粒子となって、暗闇すら照らすんじゃ」
突如として眩い光に照らされた者達は困惑した面持ちを浮かべながらも、それが『聖剣』の
すると晴れていく土煙の先に、光り輝く一本の美しい装飾剣が白い台座に刺さっている光景をエリクは見ながら呟いた。
「……アレが『聖剣』か……」
『――……リィイン……!!』
「!」
『聖剣』と思しき剣を見ていたエリクだったが、自分の右手に持つ大剣に嵌め込まれた赤い玉から高い共鳴音が響き渡る。
それを直に持っていたエリクは大剣に宿る魂が何か伝えようとしているのに気付きながらも、その意味を理解できなかった。
すると次の瞬間、周囲に散る『聖剣』の輝きが刀身に集束していく。
更にその僅かな時間において、輝きを纏わせた『聖剣』からエリクに向けて巨大な極光が放たれた。
「なにっ!!」
「おじさんっ!?」
『聖剣』から放たれた攻撃に気付いたエリクは、凄まじい速度で迫る
しかしそれを通過した
それを見たエリクやマギルス達が驚愕を浮かべる中、バルディオスが厳しい表情を強めて言い放つ。
「マズい! ありゃ、相当に怒っとるな!」
「えっ!?」
「長年こんな
「じゃ、じゃあ……どうすんのアレ!?」
「鬱憤を晴らし終えるまで待つか、機嫌を良くしない限りは、治まらぬだろうなぁ」
「剣の機嫌を良くするって、どうすんのさっ!?」
「ちょっとぉ! 私逃げてもいいわよねぇ!?」
『
その声を聞いていたエリクは、再び光を纏おうとする『聖剣』を見ながらどうすべきか対処方法を考えた。
するとそんな時、エリクの
『――……チッ、なんだ。懐かしい
「フォウルか! 今まで何を――……」
『それより、何ビビってんだ。
「失敗作……!?」
『今のテメェなら、余裕であんな剣なんか完封できんだろ。情けねぇ』
「……やはりあの
『そういうこった。じゃなきゃ俺やジュリアが、あの
「そうか。……分かったっ!!」
フォウルの声を聞いたエリクは、今まで得た情報から厄介な効力を持つ『聖剣』の弱点を素早く理解する。
そして自分の背に大剣を戻すと、身体を大量の
すると再び、『聖剣』からエリクに向けて極光が放たれる。
しかしこの極光に対して、エリクは避けようとせずにそのまま浴びた。
「おじさんっ!!」
「――……大丈夫だ」
「!」
極光を浴びたエリクに声を向けたマギルスだったが、それは落ち着いた声で返される。
そして極光を浴びたはずのエリクは五体満足で傷付いた姿も無く、平然とした様子で『聖剣』まで刺さっている場所まで歩き始めた。
それから幾度か『聖剣』から極光が放たれ浴びながらも、エリクは
するとそれを見ていたマギルスもまた、『聖剣』の弱点に気付いた。
「……そっか。あの『
「そうじゃな」
「だからおじさんは、自分の身体を
「うむ。だがアレほどの密度がある
改めて『聖剣』の弱点を知ったマギルスは、バルディオスの解説を聞きながら歩き進むエリクを見つめる。
そしてついに台座まで辿り着いたエリクは、右腕に密度の高い
すると次の瞬間、凄まじいエネルギーが『聖剣』から放たれる。
まるで拒絶するようなその
「――……お前の気持ちは分かる。こんな場所で五百年も閉じ込められたままでは、怒って当たり前だ」
『――……!!』
「だが今は、お前の助けが必要だ。……俺と一緒に、来いっ!!」
エリクは力強い言葉を向けながら、台座から『聖剣』を引き抜く。
それを
それから凄まじいエネルギーを放っていた『聖剣』は、徐々に暴れる様子を
すると一分後には、完全に『聖剣』は沈黙する様子を見せた。
そうした状況を確認したマギルス達は、恐る恐るエリクに近付きながら尋ねる。
「……ど、どんな感じ?」
「今は、俺の
「そうなんだ。でも大丈夫なの?」
「分からない。だが、さっきまでの強い
「みたいだね。でもそれ、
「魔力が無い人間には、害は無いはずだが……。……魔力を使った機械や装置には、近付けられないかもな。さっきも、恐らく俺の
「おじさんの
エリクとマギルスはそうした話をし、『聖剣』を見る。
そうした二人の会話に口を挟むように、クビアが声を掛けて来た。
「……
「ん?」
「多分だけどぉ、無理じゃないかしらぁ」
「無理なのか?」
「一回、試してみましょうかぁ」
「……!?」
クビアは『聖剣』が及ぼす効果が転移魔術に支障を及ぼす可能性を考え、試すように転移魔法に用いる紙札をエリクの左腕に貼り付ける。
しかし次の瞬間、『聖剣』に嵌め込まれた白い宝玉が強く輝いて一瞬で紙札を消滅させた。
それを見たクビアは、溜息を漏らしながら予測が正しかった事を話す。
「やっぱりぃ。
「……じゃあ、
「そうねぇ。どうするぅ? 置いて行っちゃうぅ?」
「……いや。これは
「それだとぉ、自力で持って帰るしかないけどぉ……。あの
「……」
『聖剣』を持ったままでの転移が不可能であり、また多くの魔導装置で制御されている
それを聞いたエリクは表情を渋らせ、短期間で『聖剣』を人間大陸へ持ち帰り、アルトリア達と合流できる方法を考えた。
するとそうした三人の様子を見ていたバルディオスが、ある提案を向ける。
「……
「あ、ああ」
「だったら、丁度いいモンがあるぞ」
「!」
「いいモノ?」
「マギルスにも渡した
「……分かった。それを使わせてくれ」
「良し。それじゃあ、戻るぞ!」
「はーい」
バルディオスの提案を受け入れたエリクは、再び里に戻ることを了承する。
それに同調するマギルスだったが、クビアだけは渋る様子を見せながら伝えた。
「……ねぇ。それなら私はぁ、転移で先に戻ってて良いわよねぇ……?」
「ああ、そうだな。……いや、お前はマギルスと一緒に
「えっ、僕も?」
「
「それは、別にいいけどさ」
「それから、アリア達と合流してくれ。確か『青』からは、帝国の南にある
「うん、いいよ。行ってみる! 会えたら今まで聞いた話を伝えておくよ」
「頼んだ」
マギルスにクビアへの報酬の支払いや別行動しているアルトリア達について頼んだエリクは、そのまま二人が転移する光景を見送る。
そしてバルディオスと共にエリクは崖を駆け上り、再びフォウル国の里へと戻った。
こうして『聖剣』を手に入れたエリクは、
そして
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