地下の古都
そして彼女からメディアが魔大陸に赴いた目的とその正体を聞かされ、その
しかし
そんなエリクの意思を汲んだ
それから二時間程が経過した後、エリクとマギルスは里を出てある場所へ向かっている。
更に二人の前を先導するように歩くのは、ドワーフ族の長である鍛冶師バルディオスだった。
険しい山の中を歩きながらも飄々とした様子を見せるマギルスは、呑気な様子でバルディオスに声を掛ける。
「――……ねぇ、お爺さん。本当に『聖剣』ってこの先にあるの?」
「ん?」
「てっきり
「なんじゃ、一気に聞いて来よって。さっきまで黙っとったくせに」
「色々と考えてたんだ。それより教えてよ、エリクおじさんも聞きたいでしょ?」
「……ああ、そうだな」
先導するバルディオスに改めて問い掛けるマギルスに、エリクも同調した声を向ける。
すると溜息を漏らしながら、バルディオスは『聖剣』に纏わる話として自分達の一族について話し始めた。
「儂の御先祖が『聖剣』を作ったって話は、聞いたじゃろ?」
「ああ」
「儂の先祖はドワーフ国の国王だった。そしてドワーフ族で唯一存在した、
「!」
「ドワーフ族の初代国王にして、様々な武具を生み出した名匠バファルガス=ザ=ダカン。バファルガスはその大昔、
「……人間と魔族が、同じ
「元々、
「そうなのか」
「だが
「……」
「ドワーフ族はそうした中でも、同じ『火』の
「……そうなのか」
「そしてバファルガスが国を築き、初代国王となったのだ。……その建国された場所こそ、お前達が今いる土地というわけだがな」
「えっ、そうなの?」
「フォウル国は元々、ドワーフ王国と移り住んで来た魔族や獣族、そして人間達が混ぜ合った事で出来た国じゃ。だからその基盤は、儂の先祖が立ち上げたドワーフ王国に在る」
「じゃあ、お爺さんって今のドワーフ族の王様なの?」
「名匠バファルガスの死後、王を名乗るドワーフ族は居らん。儂等一族や他のドワーフ達も、フォウル殿やその孫である
「へぇ、そうなんだ」
「しかしバファルガスは、死ぬまでの間に様々な武具を作ってな。名匠と云われるだけあって素晴らしい武具を作っていたようじゃが、その中には危険な素材と危険な効力を用いた武具も多くあった」
「その一つが『聖剣』ってこと?」
「じゃな。他にも
「ふーん。じゃあ、お爺さんの先祖が作った武具を今はお爺さんが管理してるってこと?」
「そうじゃ」
「なるほどね。でも、なんでわざわざ里から離れた場所に隠してるの?」
「危険であるが故に、
「そういえば、大昔の【大帝】が『
「うむ。故に里の者も、巫女姫や干支衆を除けば『
バルディオスはそう話し、隠され封じられている『聖剣』を自分が管理している理由を明かす。
それを聞いたエリクとマギルスは納得をしていると、その後ろから情けない女性の声が聞こえて来た。
「――……ねぇ~、少し歩くの速くなぁい……?」
「えー、普通に歩いてるだけよ?」
「もぉ、肉体派の男共はこれだからぁ……」
「……お前は一応、魔人じゃないのか?」
「魔人って言ってもぉ、私は肉体派じゃなくて頭脳派なのぉ。それに今まで
「……アレが『
エリク達と共に来ていたのはバルディオスだけではなく、里の外で待機していた妖狐族クビアも同行している。
しかし鍛え抜かれた肉体を持つ彼等とは違い、怠惰な貴族暮らしを送っていたであろうタマモの忍耐力と歩く速度はかなり遅かった。
そんな
「『
「それなら
「この先で何が起こるか分からない。一緒に来てくれた方が、俺達も安心する」
「えぇ……」
「約束通り、報酬は必ず払う。だから頼む」
「……んぅ、分かったわよぉ……。これも全部ぅ、白金貨五千枚の為よぉ……」
依頼主から報酬を受け取る為に、クビアは嫌々ながらも厳しい坂道を歩く。
そうして四人は共に長く険しい山脈の道程を歩きながら、数時間後に底が見えぬ巨大な崖が見える深い渓谷へ辿り着く。
それを見渡しながら、バルディオスは崖側へ人差し指を向けながら伝えた。
「――……あそこの崖下に、旧フォウル国の跡地がある。そこに『
「……デカい崖だな」
「五百年前の
「なら
「そうじゃ。あの里は一時的な避難場所となったが、儂等が
「……そうか」
バルディオスはそう言いながら、崖下へと続く道へ向かう。
それを聞いていたエリクは、周囲に見える標高五万メートルを超えるだろうこの場所が、元々は
そしてその後ろから遅れて付いて来るマギルスを見て、エリクは伝える。
「この崖下にあるらしい」
「――……そうなの? じゃあ、もうちょっとだね」
「ああ。……そっちはどうだ?」
「ダメダメ。ほら、狐のお姉さん。もうちょっとだよ!」
「――……げぇ、限界よぉ……」
「もぉ、しょうがないなぁ」
マギルスより更に後方で手頃な岩に腰掛けるクビアは、疲れ果てた様子を見せている。
そんな彼女に呆れた様子を見せるマギルスは、傍で透明化している
「ねぇねぇ、あのお姉さん乗せる?」
『……ブルル』
「えっ、嫌なの? アリアお姉さんとかケイルお姉さんとか、エリクおじさんだって乗せたじゃん」
『ヒヒィン』
「気に入った人しか乗せないの? お前って、実は面倒臭い性格だよね」
『ブルルッ!!』
「うわっ、本当のことじゃん!」
クビアを背に乗せる事を拒否する
そしてクビアの回復を待ちながら歩く為に、時刻は既に夕暮れを超えて深夜へと差し掛かっていた。
仕方なくその日、エリク達は道中で寝泊まりをする事になる。
帰って柔らかな
更に数時間後、バルディオスが右手に灯す魔術の炎を明かりにしながら崖道を降り続ける。
するとエリクとマギルスの目に、今まで見えた地層とは異なる物体が崖下に見えた。
「――……ねぇ、アレって……」
「……建物か?」
「なんだ、もう見えたか。――……そう、アレが旧フォウル国の都市跡地だ」
「!」
「地面に埋まっちまって、ほとんど見えないだろうが。かなり巨大な都市が在ったんだ。
「それが、こんな地下に……。……住民達は、どうなったんだ?」
「……『神兵』っての、知ってるか?」
「!」
「五百年前の天変地異。『
「そうなのか……」
「だから巫女姫が本気で戦わざるを得ず、更に被害が出ちまったそうだ」
「……どういう意味だ?」
「巫女姫は
「なら『神兵』だけではなく、巫女姫の攻撃でも被害が大きくなった……?」
「そう聞いてる。御優しい方だけあって、天変地異が終わった後は相当に参ってたらしい。五百年前の出来事は、
「……そうか」
その話をバルディオスから聞いたエリクは、
彼女にとって国に住む民へ被害を与える事になった
故に里から離れ、誰も近付けぬように膨大な
それは彼女にとって過去の罪を自分自身へ罰しているのではないかと、エリクには思えた。
そうした話を交えた数時間後、再び夜となった時間帯にエリク達やようやく崖下の底まで辿り着く。
すると魔術の炎を消して背負う鞄から魔道具の
多くの瓦礫に埋もれた都市跡地を眺めるエリク達は、巨大ながらも大きく崩れ落ちた建物跡地に辿り着く。
それを見上げながら、エリクは奇妙な郷愁を感じて呟いた。
「……ここは、
「ほぉ、こんな有様でよく分かったな。そう、ここが
「ここに、『聖剣』を?」
「ああ。まぁ、付いて来い」
そう言いながら足を進めるバルディオスは、エリク達を連れて王城跡地へ入る。
そして跡地の奥へ辿り着くと、そこには巨大な岩壁が存在し、更にそこには数十メートル以上の高さがある巨大な鉄製の大扉が存在していた。
バルディオスはそれを見ながら、エリク達に伝える。
「この大扉の先に、『聖剣』が置いてある」
「ここは……?」
「元は宝物庫と
「そうなのか……。……どうやって開ける?」
「そりゃお前、手で開けるんだろ」
「手で?」
「この扉に鍵は無いんだ。ただ単純に重すぎて、簡単には開けられなくてな。大抵は大人数で開けるのが普通だが、コレを余裕で開けられたのは名匠バファルガスや鬼神フォウルぐらいだ」
「!」
「ということで、ここからはお前等の出番だ。力いっぱい押して、開けてみな」
「……分かった。やってみよう」
巨大な鉄扉を前にしながら、エリクは
するとそれを聞いていたマギルスも、笑みを浮かべながら挙手した。
「はいはい! 僕が先にやる!」
「なら俺は、それが終わった後だな」
「へへん、僕が一発で開けちゃうもんね!」
マギルスはそう言いながら自信の満ちた笑みを浮かべ、鉄扉の前に立つ。
そして扉の両境に二つの手を置くと、自身の両腕を押し込んだ。
「……むっ。結構コレ……重い……?」
「代わるか?」
「まだ本気じゃないもん! よぉし、全力で押してやるっ!!」
しかしそれだけだと、鉄扉は微動する様子すら見せない。
なので今度は青い魔力を身体中に迸らせながら、全力で鉄扉を押し始めた。
すると僅かに、鉄扉が押され始める。
しかしそれも途中で止まり、マギルスは歯を食い縛りながら顔を真っ赤にしながらも途中で腕を引き、僅かに押された鉄扉は再び元の位置へ戻ってしまった。
「――……ハァ、ハァ……。……な、なに……この扉……!?」
「どうした?」
「途中から、滅茶苦茶……重いんだけど……!?」
「そんなに重いのか?」
「最初は、イケるからなって思ったのに……途中で一気に重くなって……全然……進まなくなっちゃった……」
荒い息を吐くマギルスは、目の前に在る鉄扉の異常な重さに驚愕を浮かべる。
それを見ていたバファルガスが口元をニヤけさせながら二人に教えた。
「言い忘れてたがな。この扉、片方だけでも千トン以上はあるぞ」
「えっ!?」
「合計で二千トン以上の扉だ。動かしただけでも大したモンだが、お前さんの
「えー! なら、お爺さんは開けれるの?」
「フッ。まぁ、ちょっと見てろ」
煽るような物言いをするバルディオスに対して、マギルスがそう問い返す。
そして不敵な笑みを見せるバルディオスは代わるように大扉の前に立ち、息を整えながら両手を鉄扉の両側に置いた。
すると次の瞬間、小柄ながらも鍛え抜かれたバルディオスの両腕に備わる筋肉量が僅かに増大する。
更にそれと同時に大扉を叩くように押し込んだバルディオスは、目の前にあった巨大な鉄扉を吹き飛ばすように開いた。
「!?」
「えぇええっ!?」
「……やっぱ怖いわぁ。ドワーフってぇ……」
思わぬ形で開かれた巨大な大扉を見て、エリクとマギルスは驚愕の表情と声を零す。
それを遠巻きに見ていたクビアだけは、その事態を予測していたかのように呆れの声を呟かせた。
すると完全に開けられた大扉は徐々に戻り始めて、十数秒後に轟音を鳴らしながら完全に閉まってしまう。
そして振り返ったバルディオスは、改めてマギルスに侮る声を向けた。
「……儂がここを管理しとるんじゃぞ。
「だ、だって! さっき、到達者くらいしか開けられなかったって……!」
「余裕で開けられるのは、
首を回しながら音を鳴らすバルディオスは、息を吐きながら鉄扉の正面から離れる。
するとそれを見ていたエリクが、改めてバルディオスの印象を伝えた。
「……爺さん。アンタ、強かったんだな」
「弱いとでも思っとったのか? ドワーフ族はこれでも、魔族の中でも巨人族にも劣らぬ怪力なんじゃぞ」
「そうなのか。凄いな」
「
「そうか。……なら、俺も試してみよう」
エリクはそう言いながら、巨大な鉄扉の前に歩み寄る。
更に大扉の両側に両手を付けると、自身の
そして次の瞬間、エリクは全力で巨大な鉄扉を押し始める。
するとマギルスの時とは違い、淀みなく開き始めた鉄扉を押し込んだまま、エリクは両手を広げて人が通れるだけの空間を開けたままに出来た。
僅かに疲労の息を吐くエリクは、後ろに居る者達を呼ぶように声を放つ。
「……ハァ……。――……行こう」
「ほほぉ。流石は、鬼神の生まれ変わりじゃな」
「ちぇっ。腕力じゃおじさん達に敵わないなぁ」
「……
それぞれにそうした反応を見せながら、エリクが開いた扉へ三人は入る。
するとエリクも扉から手を離して奥へ進み、それから十数秒後に大扉は轟音と共に閉まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます