使徒の再訪
『青』が管理する
しかし彼等もまた『黒』の
彼等は『黒』の頼みを聞き、来訪を予期していたアルトリア達が捜索する
それはまだ生まれていない楽園の
その話を聞いたアルトリアに腕を掴まれたケイルは、再び転移魔法で強制的に移動させられる。
するとそこは、
またしても初めて来る場所に転移させられたケイルは、掴まれた腕を引き離しながらアルトリアを睨んで尋ねる。
「――……で、今度は何処だよ。ここは?」
「帝国領の南方。さっき話してた部族が住んでる樹海よ」
「お前、
「エリクと初めて会って、帝国領から逃げる時にね。ここを通って港町に行ったのよ。
「へぇ。……というか、この
「そうね。『青』の話が本当なら、この大陸も五百年前に
「なるほどな。……で、お前の心当たりって?」
「この先に、センチネル部族っていう原住民が住んでる
「……そういう事も、お前の兄貴から聞けば良かったんじゃねぇか?」
「しょうがないでしょ、まさか
「……ったく、この御嬢様は……」
転移魔法を覚えた影響で突飛な行動に拍車が掛かってしまったアルトリアに対して、抑え役を務めているケイルは
そうして二人は樹海の中を歩き、
すると数十分後、彼女達の目に
それを見て一様に驚きを浮かべたのは、樹海に訪れた事のあるアルトリアである。
「――……何、アレ……!?」
「……何って、壁だろ?」
「そ、そうなんだけど。……前に来た時は、あんなの無かったのよ」
「ふぅん、じゃあ建てたんじゃねぇか?
「……そうかもしれないけど。あんな立派な壁を作れるだけの技術力、彼等にあったかしら……」
先に見える粘土や大木で組み立てられた十五メートル以上の高さがある壁を見て、アルトリアは僅かに困惑を浮かべる。
初めて訪れるケイルはそれに疑問を持てず、二人は壁を見ながら入り口となる門を探した。
すると壁の向こう側には、それ以上の高さがある木製作りの
まだ朝方であり日の光で周囲が明るい為か、それ等には
そうした真新しく文明的な建築物を見て、更に困惑を浮かべるアルトリアは呟いた。
「……あの壁といい、あんな建築技術は
「そんなに驚く事かよ?」
「前に来た時には、未開人みたいな原始的生活をしてたのよ。この短期間で、いったい何があったのかしら……」
「もう何年も経ってるだろ。だったら未開拓地で村らしいのが一つ出来上がっても、不思議じゃねぇよ」
「むぅ……」
しかし訝し気な視線を浮かべる彼女は、帝都襲撃前の
「……そういえば、言ってたわね。帝国と盟友になったとか。……もしかして、その影響かしら……?」
「おい御嬢様。アレが入り口じゃねぇか?」
「!」
記憶の片隅に追いやっていた話を呼び戻したアルトリアだったが、ケイルの呼び掛けで土壁の先に見える木製の門を見つける。
そして木々を迂回しながらその門まで向かい、二人は門の前に歩み寄ろうとした。
しかし次の瞬間、風を切る鋭い音が響く。
それにケイルとアルトリアは同時に気付き、その場から飛び退いた。
「ッ!!」
「……矢だと?」
飛び退いた二人が進もうとした地面に、一本の矢が鋭く突き立てられる。
それと同時に前方を覆う壁から、男の声で警告が発せられた。
「――……お前達、誰だ! この先に、何の用がある!」
「!」
「帝国語、でもまだ
「!」
「『私のこと、覚えてない? 一応、神の使徒とか呼ばれてたはずだけど!』」
「……まさか……!? ちょ、ちょっと待てっ!!」
壁の向こう側から発せられる
すると見下ろす視界で
それから待つこと十数分後、閉ざされていた門が
するとその先から出て来たのは、アルトリアが知る樹海の一部族を率いる大男だった。
その大男を見たアルトリアは、彼の名前を思い出すように尋ねる。
「『アンタ確か、ブルズだったっけ?』」
「『――……間違いない、あの時の
アルトリア達の前に現れたのは、かつて樹海の決闘でエリクと殴り合った大男ブルズ。
樹海内でマシュコ族と呼ばれる一族の長である彼はその決闘の末に致命傷を負い、
そうして久方振りの再会を果たすブルズとアルトリアは、互いに声を向け合う。
「『久し振りね。元気そうじゃない』」
「『お前もな。……あの男はいないのか?』」
「『エリオだったら別行動中。
「『そうか。……そっちの女は?』」
「『私の仲間で、エリオの妻になる人』」
「『あの男の妻だと?』」
「『そうそ――……
後ろに立つケイルをそう紹介するアルトリアだったが、その頭に一つの拳骨が降り注ぐ。
それは背後にいたケイルから放たれた右拳であり、彼女は頭を抱えて
「誰が妻だ、嘘の紹介してんじゃねぇ」
「イタタ……な、何も殴ることないでしょ……!?」
「お前がふざけたこと言うから、無意識に身体が動いただけだ」
「な、何よそれ……。……えっ」
「ん?」
「……ケイル、貴方どうして……私達の会話が分かるの?」
ケイルかろ殴られた理由を知ったアルトリアは、ブルズとの会話が彼女には聞き取れていた事に驚く。
するとケイルは、それについて理由を話した。
「アタシの部族も、同じ言葉を使ってた」
「!?」
「頻繁に使ってたのは、
「……それってもしかして、
「元は同じ部族かもな。アタシの部族も、あの大陸の原住民だって言われてたみたいだし」
「……そうね。『赤』のルクソードは天変地異の後に出来た新大陸で
改めて二人はそう話し、隣り合うように存在する大陸に、同じ祖先を持つ部族が別れながら暮らしていた事を推測する。
そんな二人の話を傍で聞いていたブルズだったが、厳しい表情を浮かべながら会話に割り込んだ。
「『……お前達が話している言葉は、まだ聞き取り難い。何を言っているか分からんが、仲間割れか?』」
「『あぁ、そうじゃないわ。ちょっと向こうが照れただけよ』」
「『そうか。……だが、なるほど。さっきの動きといい、強そうだ女だ。あの男に相応しいだろう』」
「『でしょ』」
片鱗を見せたケイルの力量に感心するブルズに、アルトリアは満足そうな笑みを浮かべる。
その後ろでは二人の会話から覚えのある単語を聞き取り表情に苛立ちを浮かべるケイルがいたが、そんな彼女を隅に置いて二人は会話を続けた。
「『それで、またなんで
「『罠……? それよりアンタこそ、この先にあるのはセンチネル部族の村よね。なんで
「『俺が、センチネル部族になったからだ』」
「『……え?』」
「『忘れたのか? 俺は決闘で負けた。部族を賭けた決闘に負けた俺は、族長から
「『……あー、あぁ! 確かに、決闘ってそういう取り決めもあったわね。でもそれって、私達のせいで取り消しになってたんじゃないの?
「『取り消しになどならない。俺はセンチネル部族を代表したパールの夫エリオに負けた。その事実に変わりはない。それにセンチネル部族の方が
「『じゃ、何でこっちの集落に来てるのよ?』」
「『ここは今、センチネル部族の集落ではない』」
「『えっ、なんで? もう引っ越したってこと?』」
「『ここは今、
「『……き、基地? 何よそれ。そんなの前には無かったじゃない』」
「『お前達が去った後に作られた。我々に与えられた使命は、樹海の見回りと壊れた罠の再設置、そして警備だ』」
「『……警備隊みたいなモノを、作ったってこと?』」
「『それだ。そして俺が、その
「『……な、なるほどね。……随分と原始的な生活から様変わりしたわね……』」
豪語しながら胸を張るブルズの話によって、アルトリアは樹海の文明が近代的になり始めている事を察する。
そんな二人の会話を聞いていたケイルは、再び眉を顰めながら背中を見せているアルトリアに疑問を向けた。
「……おい。なんかこの男から、変な
「え?」
「エリクが
「……あ、あはは……」
過去にエリクが名乗った
そんな
「『そ、それより! パールに会いに来たんだけど、今はどこにいるの? もう
「『大族長なら、中央集落にいるぞ』」
「『そう……えっ、大族長?』」
「『パールは今、大族長になっている。だからセンチネル部族は、中央集落に引っ越した』」
「『……そ、そう言えば……次期大族長になってるとか言ってたっけ。もう代替わりしてたの?』」
「『一年前に大族長を交代した。その時期にパールが子を孕んだことも分かり、大族長の血筋が絶える心配は無くなったからな』」
「!?」
大族長となったパールの状況について聞くと、アルトリアは再び驚愕を浮かべる。
それは『青』が教え彼女達が探しに来た、この時期に
するとアルトリアは自分の考えが確信である事を理解しながらも、僅かに動揺を浮かべてブルズに問い質す。
「『だ、誰の子供を身籠ったのっ!? ……まさか、アンタ?』」
「『違う。俺の子じゃない』」
「『じゃあ、誰の子供をパールは身籠ったのよ?』」
「『知らん。
「『……た、種を奪った……?』」
「『
「『えぇっ!? ……だ、誰も反対とか……父親の事を聞き出そうとかしなかったわけっ!?』」
「『樹海で最も強い
「……め、滅茶苦茶な
この話を知ったアルトリアは呆けるような表情と言葉を見せ、深い溜息を零す。
そして改めるように振り向き、ケイルに伝えた。
「私の友達が、どうやら本命みたいよ」
「そんな事より、さっきの説明をして欲しいんだがな?」
「そ、そんな事って……ほら、目的を思い出して。世界の危機を救う為に、私達はここに来たのよ?」
「あぁ、覚えてるよ。そんな事よりもずっと気になるから、聞いてるんだがな」
「え、えっと――……『じゃあ、ブルズ! 私達、パールの居る
「『あ、ああ。案内するか?』」
「『いいわ、場所は覚えてるから跳べるし。』――……ほら、行くわよ! ケイル!」
「おいっ!! まさかお前、エリクをここで結婚させ――……」
「!?」
怒号を向けるケイルの右手を何とか掴み取り、アルトリアは再びその場から転移する。
そして目の前で消えた二人を見るブルズや勇士達は驚きを浮かべた後、全員が互いの顔を見ながら声を向け合った。
「『……まぁ、神の使徒だからな。消えるくらいは出来るのか』」
「『相変わらず凄いなぁ。神の業』」
「『でもアレって、外では魔法って言うんだろ? あれって魔法が使えたら、誰でも出来るのか?』」
「『いいよなぁ、俺達も覚えたいなぁ』」
以前は『神の業』だと恐れ敬っていた勇士達だったが、外の知識や文明を取り入れた事でその
この数年で外の環境にも適応していく勇士達は、
こうして極一部ながらも見知った
その目的は、
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