黒い微笑み
マシラ一族の秘術を用いて輪廻に留まるリエスティアの魂へ赴いたウォーリスとカリーナだったが、生きていたゲルガルドの待ち伏せを受けてしまう。
そして
絶望的と思える状況に抗えないウォーリスだったが、彼の
そしてゲルガルドと相対し、その
すると左手で支える意識の無いカリーナに視線を僅かに向けると、膝を着いているウォーリスに呼び掛ける。
「ウォーリス、
「……!」
ユグナリスはそう伝えると、カリーナを任せようとする。
それを聞いたウォーリスはよろめきながら立ち上がり、二人に近付こうとした。
しかしそれを阻むように、ゲルガルドは憤怒の表情と激昂の怒声を向ける。
「調子に乗るなよ、『赤』の末裔風情がっ!!」
ゲルガルドは自身の
しかし次の瞬間、未来のユグナリスによって切断されたゲルガルドの右腕に炎が灯った。
「!?」
「『
「な――……グッ、ガァアッ!!」
右腕を燃やす『生命の火』が急速にゲルガルドの
すると激痛の声を漏らしながらゲルガルドはよろめき、穿ち向けた瘴気の触手が全て燃え尽きながら消失し始めた。
それを見ている未来のユグナリスは、近付いたウォーリスにカリーナを渡す。
「大丈夫か?」
「あ、ああ」
「瘴気は消しておいた。……これで、ゲルガルドも終わりだ」
「……」
二人はそうした会話を行いながら、炎に焼かれるゲルガルドを見る。
それからゲルガルドの
それを見届けた未来のユグナリスは安堵の息を漏らし、ウォーリスの方を見ながら声を掛けた。
「これで大丈夫。さぁ、リエスティアを連れてここから脱出を――……ッ!!」
「なっ!?」
脱出を提案しようとした未来のユグナリスだったが、その隙を突くように部屋の奥から凄まじい速さの黒い瘴気が幾つも襲う。
それを聖剣を握る右腕と胸を受けた未来のユグナリスは、
突如の事態に硬直するウォーリスは、瘴気が放たれた場所を見る。
するとそこには、椅子から立ち上がり瘴気を纏わせているリエスティアの姿が見えた。
それを見たウォーリスは、再び驚愕しながら声を漏らす。
「な、なんで……」
「――……私が言った事を忘れたか? ウォーリス」
「!?」
「今の私は、
「……まさか、既に……!?」
「
「……っ!!」
幼いリエスティアの姿をしながらも、その口調はゲルガルドと同じ。
彼女の肉体を掌握し終えていたゲルガルドの本体は、その魂も乗っ取り終えていた。
暗い笑みを浮かべるリエスティアの顔を見たウォーリスは、唖然としたまま身体を硬直させてしまう。
しかしそんな彼を叱責するように、伸びた瘴気を燃やした未来のユグナリスが怒鳴り声を向けた。
「――……逃げろ、ウォーリスッ!!」
「!」
そう伝えた瞬間、未来のユグナリスが纏う『生命の火』が部屋全体に行き渡る。
更に扉を塞いでいる家具を燃やし、
逃げ道を確保した未来のユグナリスは『生命の火』を纏わせた聖剣を引き戻して握り直し、立ち尽くしているウォーリスに再び怒鳴る。
「行けっ!! リエスティアは、俺が救い出すっ!!」
「……っ」
燃え盛る炎とリエスティアの姿を見ながらも、ウォーリスは表情を強張らせカリーナを抱えながら開けられた扉を走り抜ける。
それを見送った未来のユグナリスは赤い閃光となってリエスティアに迫り、聖剣を使い『生命の火』を浴びせてゲルガルドの瘴気を消滅させようとした。
しかしそれが届く前に、リエスティアの肉体を瘴気が覆う。
更にそれが瞬時に縮小すると、次の瞬間には膨張するように膨らみながら弾けた。
「ッ!?」
「――……酷いです、ユグナリス様。私を焼いてしまうおつもりですか?」
「な……っ!?」
弾けた瘴気の中から現れたのは、未来のユグナリスが最も知る成人姿のリエスティア。
瞼を閉じた表情と声や口調までもが
しかし未来のユグナリスが躊躇いを見せた時、リエスティアは普段なら絶対にしない黒い笑みを浮かべる。
「……やはり甘いな、貴様もっ!!」
「グァッ!!」
再び隙を見せた未来のユグナリスに、今度はリエスティア自身が右手を向けながら瘴気の収束砲を放つ。
それを浴びた未来のユグナリスは、屋敷の天井を破壊しながら
それでも『生命の火』を纏う彼は、自分の
そして屋敷の方を見ると、黒い
「リエスティア……!」
「……言っておくが。もし貴様の炎で焼けば、私は
「!!」
「それでも良ければ、貴様の火で炙るといい。……さぁ、どうした?」
「……クソ……ッ!!」
ゲルガルドは憑依するリエスティアの魂を盾として、瘴気の天敵とも言える『生命の火』を使える未来のユグナリスを脅迫する。
それを聞いた彼は聖剣を向けられず、表情を強張らせたまま動きを止めた。
するとニヤけた表情と笑みを浮かべるリエスティアは、
更に勝ち誇る声を向け、その瘴気で未来のユグナリスを襲い始めた。
「ガッ、グァ……ッ!!」
「ルクソードの『生命の火』は、その術者の
「……っ!!」
「貴様の火が消えた時、私の瘴気で飲み込んでやろう。どうだ? 愛する者の手で逝けるのだ、喜べっ!!」
「……この、外道め……っ!!」
凄まじい速さで迫り殴る瘴気の触手によって、未来のユグナリスは襲われ続ける。
辛うじて瘴気の汚染は『生命の火』で免れているが、精神体への
それでも未来のユグナリスが意識を向ける先には、ウォーリス達が残る屋敷が映っている。
屋敷の全てを覆う瘴気を相殺するように燃え広がる『生命の火』は、
こうしてリエスティアの魂を乗っ取ったゲルガルドは、助力に入った未来のユグナリスを嬲り殺す様相を見せ始める。
そしてカリーナを抱えたまま瘴気から逃げるしかないウォーリスは、その内心にゲルガルドの深い絶望として残る
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます