憎悪の淵に
輪廻に留まるリエスティアの魂に入ったウォーリスとカリーナだったが、そこで見える
その夢の中で夥しい瘴気に襲われる二人は本邸である屋敷に逃げ、ある部屋に辿り着く。
そこには
そうした状況に陥っている一方で、場面は現世に戻る。
ウォーリス達と共に輪廻へ向かったマシラ王は、突如として現世の肉体に魂を戻しながら息を意識を戻す。
しかしその様子は動揺した面持ちを浮かべており、傍に控えていたゴズヴァールが驚きを浮かべながら問い掛けた。
「――……ハッ!! はぁ……っ!!」
「ウルクルス様、戻られたのですかっ!?」
「……っ、強制的に……
「!!」
「恐らく、術者である私に害が及ぼうとしたせいだ。それで秘術の
ウルクルス王はそう呟き、自身が現世に戻された理由を伝える。
それを聞いた周囲の者達は驚愕を浮かべ、同じように輪廻へ向かったウォーリスとカリーナを見た。
しかしその二人は目覚める様子が無く、アルトリアが訝し気な表情を強めながら尋ねる。
「どういうこと、
「……
「なんですって……!?」
「それでも私は、
「……!!」
輪廻で起きた状況を話すウルクルスの言葉で、その場に居る全員が唖然とした様子で言葉を失くす。
するとアルトリアはその話を聞き、
「……しまった、そういう事ね……っ!!」
「何か分かるのか、アルトリアッ!?」
「迂闊だった、まさかこんな
「どういう事なんだっ!? いったい、何が起きて……!」
思考しながら呟くアルトリアの言葉を聞き、ユグナリスが慌てる様子を見せながら問い掛ける。
すると彼女は改めて、今の状況を自身が導き出した推測によって述べた。
「
「!」
「特に生者の肉体に憑依するには、対象者が血縁者である事が不可欠のはず。……ゲルガルドはそれを利用して、ずっと生き永らえていた」
「そ、それが……?」
「ゲルガルドは自分の血を継ぐ
「!」
「リエスティアは幼い頃に『
「……まさかっ!?」
アルトリアは自身の推測を伝え、その場に居る全員を再び驚愕させる。
すると全員の視線がリエスティアに移り、今の状況が何の原因で起きたかを察する事が出来た。
しかし動揺するユグナリスは、何かを思い出しながらアルトリアへ反論を向ける。
「だ、だけど! リエスティアには、魔法が効かないんじゃ……!?」
「昔はね。……でも、今は違う」
「!?」
「リエスティアの身体に私の魂が入った事で、
「そ、それじゃあ……!」
「ゲルガルドは自分の魂が完全に消される前に、ウォーリスから魂を移動した。……そして奴とも血が繋がっている、リエスティアに憑依したんだわ」
「!?」
「奴は今までずっと、リエスティアの
「まさか、ゲルガルドの狙いは……!?」
「……リエスティアの魂にウォーリス達の魂を誘い出して閉じ込める。そして、裏切った復讐をするつもりよ」
「っ!!」
推測ながらも状況を見てそう考えるアルトリアの言葉に、反論していたユグナリスは絶句する。
そしてこの状況が如何なる結果を齎すのか、全員が予想し危険を感じずにはいられなかった。
すると視点は、再びウォーリス達に移る。
夢の中に居るリエスティアを発見したウォーリスとカリーナだったが、その傍に立つゲルガルドの姿に唖然とした様子を浮かべる。
死んだはずの
そんな
「――……どうして
「!!」
「愚かな息子だ。貴様の浅はかな計画で、私を滅ぼせると本気で思ったのか?」
「だ、だが……確かにお前は……まさかっ!?」
目の前に居るゲルガルドが夢ではなく実際の
それを察するように口元を微笑ませたゲルガルドは、影のある笑みで答えた。
「そう、お前の小さな頭でも簡単に分かること。……私は既に、
「……だ、だが……リエスティアには魔力を用いた秘術は効かないはず……!」
「愚か者め。そもそも憑依の秘術が媒介とするのは、互いに持つ同じ因子……つまり『血』だ。血の繋がりによって魂に繋がる回廊を築き、対象者の肉体を乗っ取る事が出来る」
「!!」
「確かに『
「……そうか、だから……っ!!」
ゲルガルド自らが生きている理由を説明し、ウォーリスはそれを聞いた事で過去の出来事を思い出す。
それはまだ『黒』の精神だったリエスティアが魂を消されていた状況であり、その後にゲルガルドが魔力の効かない彼女の肉体に秘術を施して憑依するつもりだったのかという、誰もが考え至れていない疑問だった。
既に
その答えを聞いたウォーリスは、自分の
すると愕然としながら絶望の色濃い表情を浮かべ、
しかしそんなウォーリスに対して、ゲルガルドは影のある微笑みを向けた。
「だが私も、流石に焦ったぞ。
「……っ!!」
「その肉体には、
「そんな……」
「だが。私を
「っ!!」
リエスティアの傍から離れるように歩き出したゲルガルドは、無造作に
それに気付き強張る表情と
しかしゲルガルドの
「な……馬鹿なっ!? 瘴気に対して
「言っただろう、ここは私の
「カリーナッ――……グァアッ!!」
「ウォーリス様っ!!」
ゲルガルドが激昂すると同時に身に纏わせる瘴気を向けると、ウォーリスはカリーナを庇いながらそれを浴びる。
更に彼を捕らえた瘴気は強引にその
瘴気に拘束され
しかし辛うじて意識を残していると、彼の視界にカリーナへ近付くゲルガルドの姿が見えた。
それを見たウォーリスは、ゲルガルドが何をする気かを察してしまう。
「や、
「言っただろう。これが愚かな貴様に相応しい罰だ」
「……
そう言いながらカリーナの前に立ったゲルガルドは、素早く右腕を伸ばし彼女の首を掴み取る。
そして彼女の身体を持ち上げながら、徐々にその
するとゲルガルドは影のある笑みを浮かべ、ウォーリスを見ながら話を続ける。
「この女には
「カリーナ……!!」
「その後は、貴様の魂も私の瘴気で塗り潰してやる。そして貴様の魂と肉体を完全に支配し、
瘴気で拘束されたまま壁に貼り付けにされたウォーリスは、この状況に絶望しながら言葉を失くす。
しかし
「……ウォーリス様……。……あの子と、逃げて……!」
「!?」
「私は、大丈夫……ですから……。……早く……!」
瘴気に汚染に耐えようとするカリーナは、二人で逃げるように伝える。
それに聞き驚くウォーリスに対して、ゲルガルドは高笑いを浮かべながら言い放った。
「クッ、ハハハハハッ!! ……馬鹿な女だ、このまま自分がどうなるかも分からないらしい!」
「……!」
「瘴気に汚染させた程度で、私が許すはずなかろう。……お前の精神を根底から変えてやる。そして私に、永遠に隷属させてやろう」
「な……っ!!」
「現世に戻った時、この女は私を愛し尽くす事になる。死ぬまでな。……どうした、喜べ。これは名誉なことだぞ?」
「……い、イヤ……ッ!!」
精神を汚染された先の未来を教えたゲルガルドに、カリーナは青褪めた表情を浮かべながら暴れようとする。
しかし首を掴む右手は剥がれず、更に瘴気の進行は両腕や腹部を覆うように拡がり続けた。
それを聞いているウォーリスもまた、
そうして二人は身動きも取れぬまま意識を薄れさせ、ゲルガルドに支配から逃れられなくなった。
この状況になり、ゲルガルドは勝ち誇った高笑いを浮かべる。
「どうだ! 自分の大事なモノを奪われる気分はっ!!」
「……ゲルガルド……ッ!!」
「これが貴様の罰だ、ウォーリス。……安心しろ。お前も隷属させてやる。現世に戻った時には、親子で仲睦まじくしようではないか! ハハハ、ハハハッ!!」
「……クソッ、クソォ……ッ!!」
汚染する瘴気によって生命力を奪われ
自分が大事にしていた者達までも踏み躙ろうとするゲルガルドに憎悪こそ沸きながらも、それを行動に移す事が出来なくなっていた。
そうして何も出来ぬ
すると次の瞬間、ウォーリスの身体に赤い炎が灯り、
「!?」
「なにっ!?」
ウォーリスに起きた異変に彼自身やゲルガルドも気付き、大きく瞳を見開く。
そして彼を纏う炎が赤い閃光となって、ゲルガルドに襲い掛かった。
ゲルガルドはそれを回避する為に飛び退くと、カリーナの首を掴んでいた右手が切断される。
更に首に残る右手が赤い炎で燃やし尽くされると、彼女にも纏いながら
それを見たゲルガルドは憤怒の表情を浮かべ、カリーナの傍に立つ炎を見ながら怒鳴る。
「貴様……誰だっ!?」
「――……お前を滅ぼす者だ、悪魔ゲルガルドッ!!」
「……皇子……!」
カリーナを包むように守っていた炎が人の姿を模り始め、その真の姿を見せる。
それはウォーリスの
こうして生き延びていたゲルガルドの策に嵌ったウォーリス達は、その魂も肉体も支配されそうになる。
しかしそれを阻む事に成功したのは、ゲルガルドの思惑に反する形で相対する未来のユグナリスだった。
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