闇夜の訪問
人間大陸の各国家で情勢変化が見え始める中、ルクソード皇国と同様に穏やかさを保つ国も存在する。
それは
国家規模はどの四大国家よりも矮小であり、人口比もルクソード皇国の一割程にも満たないアズマ国では、今回の異変前後において極僅かな混乱しか起きていない。
それを可能としていたのは、アズマ国を守護する『茶』の
「――……ふむ。世の理は、再び守られたか……」
シルエスカ達と同様に故郷のアズマ国に戻っていた
それを聞いたナニガシはそう呟くと、縁側で酒が注がれたお
「して、お前の弟子は?」
「……
「そうか。……あの時と同じよな」
「あの時?」
「五百年前の
「!」
「それは……!!」
ナニガシが話す五百年前の
そして行方が分かっていないケイル達を捜索する糸口を探していた二人は、ナニガシに行方不明者のその後を聞こうとした。
しかしそれを留めるように、ナニガシは先んじて答える。
「言わずともいい。……その知人も、今は行方が知れぬ」
「!!」
「あるいは、
「……ッ」
今回と同様の行方不明者についても状況を知らないと伝えるナニガシに、
既に三ヶ月以上の時間を費やして捜索しているにも関わらず、ケイルを含んだ彼等の消息は人間大陸でも確認できていない。
しかし以前と違って逃げ隠れしている可能性も少なく、意図してその姿を隠している可能性が無い事を捜索者側も理解していた。
だからこそ捜索が行き詰まっている事を自覚しながらも、
「……その者等の行方に関して、何か知っていそうな者は
「ふむ……。……まぁ、
「!」
「では……!!」
「
「は?」
「久方ぶりに、
「……その方は、
「いんや。お
「は、はっ」
「まぁ、いずれ
ケイルを捜索する手掛かりとなるかもしれない者の機嫌を損なわない為、
それから夜になり、刻限通りに
そこでは昼間と変わらず縁側に座るナニガシの背中が見え、
「親父殿、来たぞ」
「おう。まぁ、
訪れた
そして自らも縁側に赴いながら足を組んで
「まぁ、一杯」
「……」
そう勧められる
すると僅かに目を見開いた
「……随分と良い酒だ。苦味が薄く甘味があり、芳醇な味わいもする」
「当たり前じゃ。何せ、今から来る客の為に用意した
「……
良い酒を用意した理由が
そんな不機嫌さを感じ取りながらも意地悪そうに口元を微笑ませているナニガシは、初夏を迎えようとしている庭の緑を眺めながら話した。
「今回の
「……己の役目は果たした。だが、己の力量がまだまだ足りぬと実感させられた」
「ほぉ」
「
「
「……親父殿も、
「無論、ある」
「その結果は」
「惨敗じゃ、清々しい程にな」
「……そうか」
ナニガシが過去に
尊敬を抱く
しかしそんな
「
「!」
「才を憂いた己より強き者は多く、高見に昇ったと自惚れを打ち負かされる。……それを幾度も経験していく事で、己が失い得たモノが何だったかを知っていく」
「……!」
「人とはそうして生き、そうして死ぬのが世の理。……儂はそうした生き方こそ、至上だと
「……親父殿」
「儂もお
「……おう」
この戦いを通じて悩みを抱いていた
それを聞いていた
すると月明かりに照らされた庭先を互いに見ながら酒を口にしていた時、ナニガシが右側を見ながら微笑みを浮かべる。
「――……来たか」
「!?」
そう呟くナニガシの言葉を聞き、
すると真逆に位置する縁側に、人影が座っている事に気付いた。
気配も音も無く既に座っていた人影に、
するとナニガシは用意していた三つ目の盃に酒を注ぎ、それを現れた人物に渡した。
「久しいなぁ」
「――……そうでもないでしょうに」
「……!!」
渡された酒を受け取ったその人物に、ナニガシは気軽に話し掛ける。
それに応じるように応じたその人物は、夜の暗闇に溶けるような薄らとした姿をしていた。
その人物の見た目は、色濃い褐色の黒い肌と黒髪を靡かせ、そこから長く伸びた耳を覗かせながら青に輝く瞳を持つ美しい女性。
しかしその背に半透明の羽を持っており、彼女が自分達とは異なる種族である事を
そして渡された酒を口にするその女性は、酒の味を楽しみながら唇に舌を這わせて感想を告げる。
「……及第点ってとこね」
「厳しいのぉ、相変わらず」
「当たり前よ。私のところで作ってる
「確かに、そうであろうな。……なんじゃ、土産は無しか?」
「アンタがいきなり呼ぶから、持って来なかったし」
「それは残念」
「……それで、何の用? くだらない事だったら、ぶっ飛ばすわよ」
当然のように談話を始めるナニガシとその女性を見ながら、
するとそんな
「今日は儂の
「あぁ、やっぱりアンタの息子なんだ。若い頃に似てると思った。名前、なんだっけ?」
「
「自分の
そう言いながら縁側から離れるように立つ女性は、
不思議とその女性から漂う奇妙な威圧感を察した
「私はヴェルゼミュート。一応、アンタの父親の相棒よ」
「……相棒?」
「で、今は
「!」
アズマ国の言語を淀みなく喋るヴェルゼミュートは、そう述べながら自分の名と素性を明かす。
それを聞いた
「儂と契約しておってな。
「!!」
「ちなみに
「……妖精の、
その話を聞いてしまった
彼女の正体は、伝説上の存在とも言われる『
魔大陸において名を連ねる、『
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