本物の忠義
天変地異の前後における被害を受けた国々において、その中心地となっているガルミッシュ帝国とオラクル共和王国ではそれぞれに復興を続ける。
その中で動く者達も、自分達がやるべき事を見定めながら被害地での活動を続けていた。
一方その頃、
特に二国と最も近い位置に在るマシラ共和国もその一つだったが、その陣頭指揮を取り仕切っているのは、意外にも元老院ではなく元闘士部隊の闘士長ゴズヴァールだった。
「――……ゴズヴァール殿。今回、
「そうか。なら、積み込みを進めるぞ」
「ハッ」
一隻の
木製の木箱に詰められた数々の荷物を片手で幾重にも重ね抱えるゴズヴァールは、凡そ数トン以上に及ぶだろう支援物質を一時間も掛からずに
部下達もそれを手伝いはしていたものの、数で言えば半分にも満たない積載しか手伝えていない。
しかし彼等の役割はそれだけではなく、最もマシラ共和国に対して重要な任務も任されていた。
「――……荷物はこれで、全て載せ終わりましたね」
「そうだな。……それより、連中の監視は怠っていないな?」
「はい。メルクを中心とした武闘派で、拘束を続けています」
「そうか。……
「ハッ」
ゴズヴァールはそう言いながら、部下達に拘束した元老院の尋問を続けるように厳命する。
それに応じる忠実な部下達は、ゴズヴァールが心の底から元老院に対する怒りを向けている事を察していた。
実はガルミッシュ帝国の襲撃事件が起きた直後、マシラ共和国でもある騒乱が起きている。
それは元老院を中心とした謀反とも言うべき出来事であり、彼等の私兵が王宮に居るマシラ王ウルクルスと王子アレクサンデルを襲撃したというのだ。
そうした凶行に
帝都に居たホルツヴァーグ魔導国の魔導師達と同様に、彼等もまた魔道具の通信網を掌握していたアルフレッドから
特に宗教国家の教皇達と同じように、ゲルガルド伯爵家と深く繋がりのある元老院の面々はそれが本気である事を察してしまう。
自分の生命を優先しその脅迫の内容に従った元老院達は、彼等は共和国の
しかし彼等の計画は失敗し、逆に拘束を受ける事になる。
その理由は、王宮にいるはずのマシラ王ウルクルスと王子アレクサンデルが居らず、またその襲撃を予期していたかのように待ち構えていたゴズヴァール配下の元闘士部隊によって逆撃を受けた為だった。
エアハルトやマギルス等の魔人闘士が居ない中、ゴズヴァールの下に残る元闘士達は人間である。
彼等は元々からゴズヴァールに対する尊敬と憧れを持ち集まった者達であり、言わば師弟と呼ぶべき関係性にあった。
しかしエリク達との戦いを経て約三年間ほどゴズヴァールの指導を受けた事もあってか、彼等の実力は飛躍的に向上する。
準聖人であり元
しかしゴズヴァールが元老院の裏切りを予測し、マシラ一族を王宮から離れさせていたのは、その事態を予測し警告した者がいたからでもあった。
『――……貴様、何者だ?』
『……』
時は老師テクラノスを『青』に引き渡してから半月が経った、二年前に遡る。
ゴズヴァールは夜間の警備中に王宮内部で奇妙な気配と魔力を感知し、庭園がある場所に自らの足で赴いていた。
一人で赴いた理由は極めて単純であり、まだ実力的に不安な配下を連れて来ても足手纏いになりかねないと判断した為。
すると庭園で待つように佇んでいたのは、頭まで覆う黒い
その人物はゴズヴァールの呼び掛けに気付きながら、顔を向けて機械的な声を向ける。
『
『……それを証明するモノは?』
『証明ね……。……まぁ、アンタにはコレを見せてもいいか』
『……!』
奇妙な人物は『青』の遣いである事を証明する為に、左腕の袖口から何かを取り出して見せる。
それは白い魔玉が取り付けられた短杖であり、それに見覚えがあるゴズヴァールは驚きを浮かべながら相手の正体を察した。
『……まさか、お前は……』
『詮索はしないでね。出来れば、この
『……良かろう。だが、どうしてここに?』
『ちょっと警告に』
『警告だと?』
『これから私達は、未来を変えていく』
『!』
『でもそれによって、様々な動乱が起きるかもしれない。特にウォーリスが従えている勢力は、その変化によってどう行動するか分からない。……既に
『なんだと……!?』
『元老院の動きには注意しなさい。奴等の中には、ウォーリスの
『!』
『マシラ血族で生き残っているのは、あの二人だけ。もし二人が死んだら、マシラの秘術は継承者がいなくなる。……そうなると、少し困る事になるわ』
『……それは、どういうことだ?』
『さぁね。……もし未来が大きく動く予兆が見えたら、
『!』
『本当は
そう告げた奇妙な人物は、転移魔法と思しき
ゴズヴァールはそれを見送ると、その後から元老院への警戒を配下である元闘士達にさせ、マシラ王ウルクルスと王子アレクサンデルの護衛を信頼に足る元闘士達に行わせた。
その出来事を思い出すゴズヴァールは、空に見える
「――……また、お前達に助けられてしまった。今度こそ、感謝を伝えねばなるまい。……だから、戻って来るのだぞ……」
ゴズヴァールはそう呟き、今まで感謝を伝えられなかった者達の帰還を願う。
彼等はマシラ血族を救い、更に運命を変えながら世界を救うという偉業を成したにも関わらず、生死が不明のまま消息が途絶えていた。
彼等が生きて戻り自ら感謝を伝える事を目標にするゴズヴァールは、共和国と忠義を尽くすべきマシラ血族を守り続ける。
それは彼に本物の『忠義』を魅せてくれた恩人達に対する、せめてもの誠意だった。
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