血の生還
マナの
しかし事態はそれだけに留まらず、
それは現実で起こり得なかった
そして突如として襲い掛かるフォウルに、エリクは咄嗟に対応する。
引き抜き掛けていた背負う黒い大剣を身体の前に出しながら、迫る
「グゥウ……ッ!!」
「ラァアアアッ!!」
辛うじて直撃を免れたエリクだったが、盾代わりにした大剣ごと自分自身の身体が勢いよく
そして
「……く、ぐ……っ」
「――……エリク! お前、大丈夫かっ!?」
吹き飛ばされたエリクは瓦礫と共に道端へ転がり、辛うじて身体を動かしながら起き上がろうとする。
そこに駆け付けながら呼び掛けるワーグナーに気付いたエリクは、慌てる様子で怒鳴り声を向けた。
「ワーグナー、来るなっ!!」
「!?」
「――……いつまでテメェは、遊んでるつもりだっ!!」
呼び止めたエリクの
しかし建物を突き破りながら炎と共に現れたフォウルは、左拳を握り締めながらエリクの頭上に容赦の無い殴打を浴びせた。
それにもエリクは辛うじて反応し、身体を捻り回転させながらフォウルの左拳を避ける。
しかし地面に直撃したフォウルの拳は、その地面ごと亀裂を生じさせながら周囲の建物を破壊して見せた。
直撃は免れながらもその余波に巻き込まれたエリクは、吹き飛ぶ地面や瓦礫を身体と大剣で覆い防ぐ。
それでも硬直したエリクに容赦の無いフォウルは、土煙と瓦礫が舞う中で右脚を跳ね上げながらエリクの顔面部分を強打した。
「ァグッ!!」
しかし圧倒的な
エリクは吐血しながら頭を先にして吹き飛び、周囲で崩れている最中の建物群に突っ込む。
そして
「……ぐ……っ」
「――……いい加減、夢から覚めたか。坊主」
倒れるエリクは鼻血と共に口から吐血を零し、腕を支えにしながら立ち上がろうとする。
しかしそれより早く前に立ったフォウルが、苛立ちの表情を向けながらそうした言葉を向けて来た。
それを聞いたエリクは、改めて驚愕を浮かべながら問い掛ける。
「……何故、お前が……ここに……?」
「テメェが見てる夢に、俺が介入できないはずがないだろうが」
「!」
「それより、こんな胸糞悪い場所からはさっさと出るぞ。この甘ったるい感覚、吐き気がするぜ」
「……だが俺は、既に死んでいる……。……死者は
「死者だぁ? ……あぁ、そうか。テメェそういえば、前もそうだったな」
「前……?」
「
「……お前の、血?」
「俺が生きてた頃に取っておいた、
「……どういう、ことなんだ?」
困惑するエリクは全身の痛みに耐えながら大剣を支えにして起き上がり、改めてフォウルと向き合う。
それに対して心の底から面倒臭そうな顔を浮かべるフォウルは、今まで未来でエリクが生還した理由で知り得ていなかった情報を明かした。
「知らんのか?
「……!?」
「
「……マギルス達が言っていた、俺が未来でクロエに飲まされたという薬は……
「だろうがよ。じゃなきゃ、テメェがあんな状態から生き返る道理が
「道理?」
「
「……だから俺は、あの時に生き返る事が出来たのか?」
「だからそうだっつってるだろうが。それにテメェ、
「!」
そうフォウル自身に言われて初めて、エリクは自分が以前まで扱い切れなかった
あの時はアリアの死を知った事で自暴自棄になっていた事も然ることながら、実際は
しかし以前とは異なり、完全に自我を保ったまま変貌を遂げた
そこでマギルスが現れた事もあり、エリクはその疑問すらも放置してゲルガルドとマナの実の事に集中していた。
こうした些細な真相の裏事情を聞かされたエリクは、改めてそこで浮かび上がった疑問に辿り着く。
「……じゃあ、俺は……今、生きているのか?」
「まぁな。お前が
「!」
「言っとくが、俺の意思じゃねぇぞ。俺等と繋がってる
「……そうか……。……そう、だったのか」
自分がまだ死んでいない事を説明されるエリクは、改めて自分が再び
それを無意識に実行し、以前のように肉体の治癒として用いている要領で
そうして自分が生きている事を改めて理解し終えると、エリクは改めて今の状況に不可解さを感じ取る。
「……だが、ここは……死者が見るという、輪廻の夢じゃないのか?」
「当たらずも遠からずってとこだろうな。……恐らくコレは、輪廻で死者共が見てる夢と同じモノだ。だがそれを意図的に、現実世界にまで拡大させてるらしい。だから生きてる連中まで夢を見ちまってる」
「現実の世界に……。……どういう事なんだ? 俺が死んだ後、何があった?」
改めてその疑問に至れたエリクは、ゲルガルドを倒した後の出来事をフォウルに尋ねる。
しかしその表情は一層強く嫌悪に満ちた表情を浮かべながら、苛立ちを込めた言葉で答えた。
「テメェが殺したと思ったウォーリスは、生きてやがるぞ」
「なに……!?」
「よく分からんが、お前が殺したのは
「マナの樹を……。……そんな事が、出来るのか?」
「
「そんな……。……だが、それならどうすれば……」
「とりあえず、この夢から出る。この夢の
「
「ああ。だからとりあえず、
「……だからか。俺を襲ったのは」
フォウルが自分で全力で殴り倒して来た理由を聞いたエリクは、痛みを残す顔から手を引かせる。
そして残る可能性を考えた二人は、同時に
そこには、表通りの道に立つ
しかしこの時、ワーグナーは先程までの様相とかなり異なる口調と声色を見せた。
『――……まさか、二つの
「!」
「……やっぱり、テメェがこの夢の
「アレが、ウォーリス……!?」
確信に近い物言いでワーグナーの姿をした相手の正体を説くフォウルは、それがウォーリスだと明かす。
それに驚くエリクに対して、ワーグナーは霧状に変化しながら姿を変えた。
するとそこに、黒髪と青い瞳を持つ青年ウォーリスが姿を見せる。
そして崩れ燃える王都の景色が消え、エリクにとって慣れた真っ白な精神世界へと戻って来た。
こうして鬼神フォウルの助力により、エリクは自分が生きている事に気付く。
そして彼等もまた
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