希望の実
ウォーリスに付き従って来たアルフレッドとザルツヘルムにより、彼等の計画が明かされる。
それは封じられていたゲルガルドを打ち倒す為の計画と、自分自身の意思で旅をしていたはずのアリアとエリクが、知らず知らずに彼等の
しかも彼等が及ぼしている事態に深く関わる『
それ等が晴れる間も無く、『
この事態になる少し前、視点は神殿内部にてマナの大樹が生える空間に戻る。
自ら生み出した瘴気によって悪魔化したゲルガルドは、復活した
それをマギルス達によって阻まれ、激闘の末にエリクの持つ大剣に込められた
しかしマギルスは肉体の心臓を破壊され、ゲルガルドを貫く大剣に裂かれる。
更に全ての
その場には三人の
そんな彼等の
「――……なんだ……。……音も、ヤベェ
森を駆け抜けていた足を止めるケイルは、その場で振り返りながらエリク達が戦っていた方角を見る。
先程まで執拗に感じられた
ケイルは表情を強張らせ、最悪の展開を予想する。
それでも今の自分がやるべき事を考え、歯を食い縛りながら抱えている
「とにかく、
それからマナの
そして改めて
「――……脈も、呼吸もしてる。傷も特に無いから、問題は無さそうだが……。……コイツが
ケイルの知る未来の『
しかし数々の経験を経て、自分の知る常識など超越した現象がこの世界に存在することをケイルは知っている。
故に渋々ながらも溜息を吐き出し、目の前の
「……それより、問題はこっちだな……」
ケイルは改めて視線をアルトリアの
アルトリアの
そして脈も無く息もしていないアルトリアを改めて確認し、
「……アリアの身体は、既に死んじまってる。……だがエリクの話が本当なら、
別れ際にエリクが伝えた言葉を聞いていたケイルは、改めて死んでいるアルトリアを生き返らせる事が可能かを考える。
しかし魂や生死の概念に関する詳しい知識を持たないケイルは、深く考えるのを止めながら首を横に振って止めていた息を吐き出した。
「はぁ……。……コイツ等の事は、『青』に任せちまうしかないな。……
意識の無い
そしてエリク達が戦っていた場所へ戻る為に、最悪の状況を想定しながら意識を消して戦闘態勢を崩さずに走り続けた。
それから無意識の全力で駆け抜けたケイルは、数分程でエリク達と別れた場所に辿り着く。
両足を踏み締め、左腰に収めている刀の柄を握りながら周囲を凝視すると、ケイルは目を見開きながら倒れているエリク達に声を上げた。
「エリクッ!! マギルスッ!!」
倒れている三人の
倒れている三人の姿を見下ろしながら確認し、思わず表情を強張らせた。
「マギルス……。……マギルスは、駄目か……ッ」
心臓を敵の剣で貫かれ腹部を切り裂かれたマギルスの
そしてマギルスの隣で倒れている
「……コイツも、死んでるのか。………
エリクはマギルス達と違い肉体的な
「エリク。……おい、エリク……」
頭を抱え持ちながらエリクの身体を
しかし白く染まった髪と生気も無い老いた肉体となっていたエリクに、ケイルは再び歯を食い縛りながら苦々しい声を漏らした。
「……またかよ……。……この、馬鹿野郎が……っ」
エリクが自分の
そして首筋に指を当てながら呼吸も脈も止まっていたエリクに、ケイルは怒りと共に涙を両目から零した。
自分と共に旅をして来た三人の死体を見ることになったケイルは、自分が彼等の最後を見届けられなかった事を、そして共に戦えなかった事を後悔する内情で満ちていた。
そうした後悔に苛まれるケイルは、エリクの身体を地面に預けながら立ち上がる。
そして僅かな可能性を信じ、手で涙を拭いながらマナの大樹へ視線を向けた。
「……あの馬鹿デカい
マナの大樹に生えるという『マナの実』に僅かな希望を抱きながら、ケイルはその場に死体となった彼等を残して向かおうとする。
しかしここまでの疲弊で僅かに息を乱しているケイルは、精神的にも尾を引いた状況で足取りを重くさせながら歩き始めた。
「……?」
そうして歩く最中、ケイルの背後で奇妙な音が鳴る。
それを気にし振り向いた時、ケイルは目を見開きながら驚愕の表情を浮かべた。
「……っ!?」
「――……感謝する、傭兵エリク。……そして、その勇敢な仲間達よ」
ケイルが目にしたのは、大剣に突き刺されて死んでいたはずの
しかも先程の音が胸と心臓を貫いていた大剣が引き抜かれ地面に落ちた時の
その時、ケイルは驚愕と同時に身体を走らせる。
すると無意識へ至り、立ち上がっているウォーリスに迫りながら音速にも届く刃をその首筋を狙って薙いだ。
ウォーリスはそれを止めず、ケイルの刀が首筋に直撃する。
しかしその首は胴体と繋がったまま、異質な音を立てて刃を止めていた。
「ッ!!」
ケイルが斬り落とせなかったウォーリス首筋には、黒く染められた皮膚が浮かび上がる。
それが
しかしウォーリスは手足を黒く染め上げながら、その攻撃も防御する姿勢にならないまま受け止める。
更に全力で打ち込まれる刀に微動もしないウォーリスの状態は、無意識のケイルに先程とは異なる恐怖を抱き始めた。
そんなケイルに、ウォーリスは顔と言葉を向ける。
「……君達には感謝をしている」
「!?」
「おかげで、ゲルガルドを……私が最も憎悪していた、父親を殺す事が出来た」
「……クッ!!」
今度は
しかし撃ち込まれる箇所を正確に読み取っているのか、ウォーリスはミリ単位で斬り込まれる刃を全て黒い皮膚を出現させながら受け止め続けた。
それでも反撃をして来ないウォーリスは、マナの
「これで、ジェイクや
「クソ、なんで一撃も……ッ!!」
「君達には、本当に感謝している。そして、申し訳なくも思っている。……だがマナの実は、私が使わせてもらう」
「なっ!?」
そう伝えるウォーリスに対して、ケイルの振り抜かれた刃が何も無い空気を斬る。
そこに居たはずのウォーリスが一瞬で消えた事を僅かに遅れて理解したケイルは、周囲を見渡しながらその姿を探した。
しかしウォーリスの姿は既に周囲には無く、ケイルは意識的にマナの大樹へ顔を向ける。
すると上空に見えるマナの
「あの糞野郎、まさかっ!!」
ケイルはそう言いながら駆け出し、マナの大樹へ向かい始める。
そしてウォーリスはマナの
「……あれが、『マナの実』か」
ウォーリスの青い瞳には、木々や重なり合う葉の隙間から一つの果実が映る。
炎や血液よりも美しい赤い輝きを持つ果実を目にしながら、ウォーリスは中空を移動し右手を伸ばした。
こうしてウォーリスが『マナの実』を得ようとする窮地の中、意識の無い
すると残された二人の内、片方が微かに指を動かしながら緩やかに瞼を開いていた。
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