試練の旅
『
そしてその周囲で起きていた悲劇の一つに、ルクソード皇国において多大な騒乱を引き起こしたランヴァルディアが決起する原因となった
それは【結社】を率いる『青』が命じた、
カリーナと同様に『黒』を身籠っていたネフィリアスは、命令によって動いていた【結社】の構成員によって意図しない形で殺された事が『青』自身の口から語られた。
それと同時に、その事件においてもウォーリス達が秘かに動いていた事が明かされる。
カリーナの
そして自ら
更にネフィリアスが狙われた理由が
そこでアルフレッドの供述を聞いていたシルエスカは、殺されたネフィリアスの子供が生きていた事を聞かされる。
しかもそれが、皇国でアルトリア達一行が救い出した奴隷の少女である『黒』だった事を、初めて知らされながら表情を強張らせた。
「……あの少女が……『黒』が、ランヴァルディアの子供だっただと……!? ……だが、あの少女は別の国で保護された孤児奴隷だと……っ!!」
『
「……!?」
『しかしそれが、【
「……だから
『【
その話を聞かされているシルエスカは、知り得なかった情報が続く事に動揺を浮かべる。
しかしこの話においては、皇国に赴き奴隷強奪の事件に関与させられていたアリアやエリク達の耳にもそれに似た情報が入っていた。
マギルスが連れ去ったとされる奴隷の少女が、
そしてその
当時のアリアは別の思惑によって奴隷商から問い質した内容だったが、それが事態の核心を突く
そして当時は語られなかった『黒』の少女についても、次に起こすウォーリス達の動きが関わっていた事が伝えられる。
『ウォーリス様は彼女を保護して匿いながら、暫く共に暮らして居ました。彼女を【
「なに……!?」
『その情報を元に、我々は彼女を
「……!!」
『ウォーリス様はそうした
「……バリスから、その話は聞いている。それを目的として、お前達がアルトリアに身体を治させようとしていたと……。……だが、どうしてあんな回りくどいやり方で……!? それこそ、正攻法で依頼をすればいいではないか!」
『アルトリア嬢は、そちらの【
「!」
『【
「……まさか、その為だけに王国を乗っ取ったと……!?」
『勿論、それだけはありません。我々は同時に、ゲルガルドを討ち滅ぼす為の
「
『しかしそれも、決して順調では無かった。……何せ帝国以上に、当時の王国には【結社】の意識が向いていたのですから』
「!?」
『王国にもまた、【
「エリクが……!?」
『彼もまた、その肉体に
「……だからエリクに冤罪を仕掛け、傭兵団諸共に王国から追放したのか」
『はい。敢えて
機械的な音声ながらも呆れるような口調を浮かべるアルフレッドは、乗っ取ろうとしていたベルグリンド王国での動きについても語る。
そこで意図して王国の簒奪した事を明かしながらも、国境の森で出会ったアリアとエリクについては予想もしていなかった事を正直に述べた。
しかしそうした言葉を見せながらも、アルフレッドはこうした事も語る。
『しかしそうした事態についても、ウォーリス様は利用しました』
「利用……?」
『
「!?」
『闘士部隊を率いる、魔人の強者ゴズヴァール。そして
「そんな……。そんな、馬鹿な事が……。そもそも王国に居たお前達が、どうして旅をしていたアルトリア達の動向を知れるっ!?」
『彼等を襲わせた刺客に、アルトリア嬢の位置と状況を把握できる刻印を打ち込ませました。彼女達がマシラ共和国に向かう前に』
「!」
『しかしその刻印も、一年程前に起きたローゼン公爵領が襲撃された前後に解除されています。恐らく、その時の襲撃者に解かれてしまったのでしょう。おかげで、ウォーリス様が直々に様子を窺う事になったようです』
「――……あの時に彼が訪問して来た理由は、そういう事ですか」
「バリス! それに、アズマ国の二人も……ゴズヴァールも、無事だったか」
その場に現れた声に振り向いたシルエスカは、瓦礫を登り終えた老執事バリスを見つける。
更に後ろから
神殿の外で戦っていたテクラノス以外の全員がその場に集い、改めて一同が会する場が設けられる。
そして捕らえる事に成功したザルツヘルムと、身動きの取れない
「――……まさか人形共を操っていた
「しかし、どのような奥の手を隠しているか分かりません。……今すぐ、
「待て、奴等はもう抵抗できない。……事情や目的がどうあれ、奴等は多くの人間を殺めている。犯した罪は、償ってもらわねばならない」
「ならば死罪こそが適切でしょう。ここで奴等を生かしておいても、意味はありません」
それを止めるように割って入るシルエスカは、今も確認し切れない程の罪に対して罰を与えるべきだと意見を述べた。
そうして揉める様子を見せ始めたシルエスカ達に反して、合流したゴズヴァールとエアハルトは互いに言葉を交える。
「身体は?」
「見た目ほど、悪くはない。……テクラノスはどうした?」
「匂いはある。だが、生きているかどうかは分からん」
「そうか。ならば、後で探さなければならないな」
「……ゴズヴァール、少し聞きたい事がある」
「?」
「あのアリアという女を
「……ああ、覚えている」
「
「いや、それは分からん。……俺も当時は、元老院が何故あの女を我々から引き離して保護させたのか、疑問には思っていた」
「……だとすると、まだ
「!」
「ウォーリスという男は、あの女を監視していたらしい。そして
「……だとすれば、厄介な話だ。元老院にも
「離した?」
「俺が
「そうか。だが、その場所も安全なのか?」
「ああ。それに王は、あの男に協力を頼まれていた。今頃は、あそこに向かっている頃かもしれん」
「……あそこ?」
そうした会話を交えるゴズヴァールとエアハルトは、当時のマシラ共和国で起きた事件について疑問だった事を確認する。
その事件においてもウォーリス達の意思によって動いた可能性がある出来事の存在を理解し、
こうした彼等が話を交える中で、老執事バリスは試験管に収められたアルフレッドの
「それで、君達はどうする? このまま降伏し、大人しく我々に捕まる気はあるのかね?」
『……我々は、ただ見届けます』
「何を?」
『ウォーリス様がゲルガルドを討ち、望んだ願いが叶う光景を。ただ見届けるだけです』
「その、願いというのは?」
『それは――……!』
「!!」
「な、なんだ……!?」
「……この大陸が、揺れている……!?」
アルフレッドが言い終えるのを待たず、
それは中空に浮かぶはずの大陸が大きく揺れ始め、全員が傍の瓦礫に腕や身体を預けながら倒れぬように踏ん張りを見せた。
そして次の瞬間、大陸の中央に存在する神殿が巨大な赤い発光を放ち始める。
全員がそれを注視した時、ザルツヘルムは口元に微笑みを浮かべ、アルフレッドは機械の声で笑いを込み上げさせた。
『……やったのですね、ウォーリス様』
「!?」
「お前達はこの現象が……何か知っているのかっ!?」
『ウォーリス様が、ゲルガルドを討ったのでしょう。……そして、自分の願いを叶える為に踏み出された』
「っ!!」
「……まずい。……これはまさか、五百年前の
「!?」
起きている状況を話すアルフレッドに、ザルツヘルムは肯定するように頷く。
そして『青』が述べる言葉から、他の者達は五百年前に起きた天変地異と同様の現象が起きようとしている事を理解し始めた。
こうしてウォーリスに仕える側近の二人を倒しながらも、
それはゲルガルドをエリク達が倒した事で生み出された、まさに狂気の光とも呼べる光景を見せようとしていた。
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