救世主の下へ
『黒』である娘リエスティアが囚われている実験施設へ潜入したウォーリス達は、そこである
それはゲルガルドが
ゲルガルドから逃れられない事を知ったウォーリスは自死を選ぼうとする中、それを引き留めるように弟ジェイクとアルフレッドが励ましの言葉を向ける。
並び走る
施設内の
その最中、速度を落とし疲弊の無いウォーリスとアルフレッドに付いて来ていたジェイクが、疲弊した足で階段を踏み外しながら転倒しそうになった。
『――……はぁ……はぁ……。――……うわっ!!』
『ジェイク!』
身体を前に傾けながら倒れそうになるジェイクに対して、その
辛うじて転倒を免れたジェイクだったが、その色濃い疲弊を確認しながらウォーリスは前に立つアルフレッドに呼び掛ける。
『アルフレッド、ジェイクを背負ってくれ』
『分かりました』
『……ご、ごめん……。……二人とも……。……偉そうな事を言って……結局、足手纏いで……』
大量の汗を流しながら荒れる息と見せるジェイクは、アルフレッドに背負われながら謝罪の言葉を漏らす。
それに対してウォーリスは賛同するように侮辱した言葉など向けず、ただ自身の本音で弟ジェイクに語り掛けた。
『家族が家族を守るのは、当たり前のことだ。気にするな』
『……兄上……』
『だが、
『……そうだね……。……あんな
『そうだ。……だからこそ、リエスティアを取り戻す。奴が世界を手に入れるなどというくだらない目的の為に、私とカリーナの娘を利用などさせてやるものか……!!』
母親こそ違えど家族である兄弟は互いに思い合い、
そして背負うジェイクと共にアルフレッドは階段を降り、それに付いて行く形でウォーリスはリエスティアが居る
それから二人の脚力が増し、五分にも満たない時間で地下五階までの階段を一気に降り切る。
そして薄暗い廊下の淀みの無い動きで走るアルフレッドは、通常の二倍以上はあるであろう鉄扉の前に辿り着いた。
『――……ここです!』
『ここに、リエスティアが……!!』
リエスティアがいる部屋に辿り着いたウォーリスは、鉄扉に手を掛けて開こうとする。
しかし押しても引いても開かない鉄扉に対して苦々しい表情を浮かべると、入り口と同じように斬り開く為に左腰に携えている剣を引き抜こうとした。
それを止めたのはアルフレッドであり、背負っていたジェイクを降ろしながら鉄扉の横に存在する
『ウォーリス様、
『……頼むっ』
常に冷静なアルフレッドはウォーリスの
そして
それを確認したウォーリスは開かれる途中の鉄扉を
するとそこに広がる光景を見ながら驚愕し、それでも視界に収まった
『リエスティア!』
『!』
室内から響くウォーリスの声に、ジェイクとアルフレッドは驚きを浮かべる。
そして開かれ終えた鉄扉を潜ると、室内の光景を見渡した。
そこには屋敷に存在する実験室でも存在しない、未知の機械で備えられた
壁には赤い保存液に漬けられた半透明な赤や黒の
更にそれ等と繋がっているのは室内の中央奥側に設けられた巨大な半透明の
そしてその椅子に座らされている固定されている者こそ、ウォーリスの娘である幼いリエスティア。
彼女は
『リエスティアッ!!』
その
しかし
『ウォーリス様、装置が作動している最中です。装置を止めるので、御待ちを』
『……!』
そう言いながら
それを待ちながら
『リエスティア! 聞こえるか、リエスティアッ!!』
『……』
『意識が無いのか……。……まさか、遅かったのか……ッ』
今まさに作動している装置によって、リエスティアの魂が既に消失させられている可能性をウォーリスは考える。
すると傍に歩み寄って来たジェイクが、顔を伏せるウォーリスに話し掛けた。
『兄上、落ち着いてください』
『ジェイク……。……だが……』
『僕は、兄上のように子供がいるわけじゃないけれど……。……それでもやっぱり、親である貴方が取り乱していたら、子供は安心できないと思いますから』
『……そうか……。……そうだな……』
ジェイクはそう言いながら
今までウォーリスにとって親と呼べる存在は幼い頃に生き別れた
しかし改めて自分が親として子供に向き合うべき姿勢を考えた時、ウォーリスは自分がリエスティアに親として向き合えていたかを考えた。
今までリエスティアが『黒』の
しかし屋敷でゲルガルドから庇われながら際、リエスティアはこうした言葉を述べていた事をウォーリスは思い出した。
『――……さようなら、
その一言と別れ際に浮かべたリエスティアの表情こそが、娘として
今まで『黒』としてしか接していなかったウォーリスにとって、改めて自分が娘として接する方法を考えた時、その光景すらも考えられていなかった事を理解し始めた。
『……私は、どうすればよかったんだ。……
ただ眠るように瞼を閉じたリエスティアを見るしかないウォーリスにとって、その数十秒間は長い
そして長く感じた時間は終わり、容器周辺の装置から発せられていた数々の機械の光が消える。
すると施錠されていた容器の扉から音が鳴ると同時に、装置へ
『装置を止めました、開けられます』
『!』
その声で思考から呼び戻されたウォーリスは、
すると
そして意識の無いリエスティアに呼び掛けながら、ウォーリスはその反応を探る。
『リエスティア! リエスティアッ!!』
『……』
『……ッ!!』
反応の無いリエスティアを解放したウォーリスは、そのまま彼女を抱き運びながら
そして
『兄上、こっちで!』
『ああ』
リエスティアの状態を確認したいウォーリスの意図を察してか、ジェイクは床に寝かせられる場所を上着で敷き作る。
それに応じるウォーリスはそこまで運ぶと、緩やかに敷かれた上着にリエスティアを寝かせるように置いた。
すると手で触れながら脈や心臓の鼓動などでリエスティアが生きている事を確認し終えたウォーリスは、僅かに安堵の息を漏らす。
しかし意識の無いリエスティアの様子に苦々しい面持ちを強め、アルフレッドに顔を向けながら問い掛けた。
『……あの装置は、途中で止めたはずだな?』
『はい。ただ停止させる際に進行度合を確認したところ、
『九割……。……それじゃあ、ほとんど……』
『リエスティア様の精神と魂は、既に戻せる程の状態ではないと考えた方がよろしいかと』
『……それで、この子は生きていると言えるのか……!?』
『分かりません。……しかし、貴方の
『……頼む』
リエスティアの精神と魂が九割以上も消失していると知らされたウォーリスは、アルフレッドにそれを含めた解決方法を
そうしてアルフレッドが再び装置の機器に
『僕も探してみるよ。手書きの資料で、そういう
『……なら、私も一緒に探そう』
『兄上は、今はその子の傍に居てあげてください』
『……ああ。……すまない』
精神的な疲弊を起こしているウォーリスに配慮したジェイクは、自らの意思で現物の資料を探す。
そして机や壁に置かれている資料を確認し始めると、そこに書かれている内容に表情を眉を顰めながら悩む声を漏らした。
『……帝国の文字じゃない。何処の言語で書かれているんだ……?』
『恐らく、ゲルガルドだけが把握している暗号文でしょう。私が居た実験室の資料でも見た事があります』
『暗号文か、じゃあ解読しないと無理か……』
『
『は、はい。頼みます』
読めない
そして言われた通りに気になる資料を幾つも運び始めたジェイクだったが、その中に帝国文字で書かれた資料の本を発見した。
『あっ、これは読めるぞ。――……えぇっと、これは……神の兵士……コア……。人間を材料……ッ!?』
ジェイクはその本を読みながら内容を確認し、思わず目を見開きながら身体を震わせる。
そこにはジェイクが身震いするような情報が書き込まれており、その恐ろしさに僅かな吐き気すらも感じていた。
そして本に書かれた中に、挿絵が書き込まれた一つの内容を確認する。
それを周囲の機器が発する音より小さな声で口にしながら、読み上げた。
『……神の兵士を作り出す
本を読み続けていたジェイクは、それを読みながらふと視線が上がる。
すると本に書かれた挿絵と似通った、黒く小さな種のようなモノが壁の飾られる赤い試験管に収められている事に気付いた。
息を飲みながらそれに右手を伸ばしたジェイクは、その赤い試験管を手にしながらこう呟く。
『……悪魔の種……。……これを使えば、僕でも……』
そう言いながら僅かに身体を震わせるジェイクだったが、それを壁に戻そうと右腕を伸ばそうとする。
すると背後にいるアルフレッドが、背中を向けたまま声を向けて来た。
『何か、情報がありましたか?』
『い、いや! ……な、何でも無いよ……』
動きを止めていたジェイクの様子に気付いたアルフレッドは、そう呼び掛けて問い掛ける。
しかしそれを否定する答えを返したジェイクは、その赤い試験管を
それから『悪魔の種』を戻さぬまま、ジェイクは現物の資料を手に取りながら解読できない本をアルフレッドの傍まで運ぶ。
すると膨大な施設の
『……ダメです。ウォーリス様とゲルガルドに繋がる
『そんな……』
『……ッ』
『普通に死んでいる者の場合、魂は輪廻という世界に赴くはずですが。消失した魂はこの世から消え、通常の方法では元通りにはならないそうです』
『……通常の方法で、というのは?』
『
『……ならば、方法は無いということか……』
そうした話を聞かされるウォーリスは、ゲルガルドと繋がる
しかし静まり返った室内の中で、詰まるような息と共にジェイクはある提案を吐き出した。
『……メディア殿、なら……何とか、出来ないかな……?』
『!』
『あの人は、兄上達でも驚く程に凄い人みたいだから……。……もしかしたら、何か良い解決方法を知ってるかも……?』
『……』
苦し紛れにも聞こえるジェイクの提案に、ウォーリスとアルフレッドは顔を見合わせる。
数多の魔法を操りながらゲルガルドと互角以上に渡り合える
しかし
そうした二人の様子を改めて見たジェイクは、今度は力強い表情と声色で言葉を発する。
『
『……そうだな……。……もう我々には、そうするしかないな……』
『ならば、急いで戻りましょう。
『……分かった。
ジェイクとアルフレッドに
そして意識の無いリエスティアを
こうしてリエスティアを取り戻したウォーリス達だったが、肉体から消失してしまった
更にウォーリスを救う手立ても無いまま、微かな
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