悪魔ゲルガルド
それを止めに向かったマギルスだったが、
アルトリアを再び死なせたという失意に塗れて意気消沈していたエリクに対して、マギルスはある思考を浮かべる。
聖域に存在する『マナの樹』に
それにより失意の淵から再び腰を上げたエリクは、引き千切れた服布を身体に巻き付けながらアルトリアの
するとマギルスのやや大きくなった青馬に騎乗し、そのまま
一方その頃、意識を戻しながらも現状に関する前後の記憶が存在しないケイルは、傍に倒れていた
そして見た事も無い森と巨大な大樹にも視線を向けながら、左手で頭を掻いて苦々しい表情を浮かべた。
「――……マジで何処だよ、ここ。……それに、この女。クロエに
ケイルは
しかし銀髪であり耳が尖っている容姿は人間と大きく異なる為、魔人か魔族ではないかと考えていた。
それがまさか自分達の世界を左右する
すると自身の思考を悩ませていたケイルは、小さな溜息を漏らしながら
「よく分からんが、何もせず突っ立てるわけにもいかないし。……とりあえず、コイツを連れてエリクとマギルスを探すか……」
そして
「あの馬鹿デカい
状況も分からぬまま動き始めるケイルは、愚痴を漏らしながらも『マナの樹』を目指す。
そうして周囲の地形を把握しながら背負う
それを自覚するケイルは、汗が出る理由を自ら口にする。
「……なんだ、この熱気。……森が、
大樹の根本に近付くケイルは、奇妙な熱気を『マナの樹』から感じ取る。
その異常を証明するように、過酷な環境でもある程度は適応できる『聖人』のケイルが、徐々に息を乱し始めていた。
「……はぁ……っ」
しかしそして大樹の根本が見える場所まで近付いたケイルは、両足を止めながら身体を前に傾かせる。
そして両腕を地面へ着きながら息を吐き出し、大きく疲弊する様子を見せていた。
「……なんだ、ここ……。……これは、熱いんじゃない……。……アタシの身体から……熱が、生命力が抜かれていってる……!?」
ケイルは汗を浮かべ疲弊するような虚脱感に苦しむ理由が、自分の肉体から体温を含む生命力が抜き取られているからだと理解する。
しかしその原因がまだ分からず、ケイルは顔を上げながら周囲を見渡すと、真正面に見える大樹の根元を凝視した。
「……まさか、この
ケイルは遅れながらも目の前に
しかし次の瞬間、ケイルが来た方角とは別の場所から、巨大な黒い閃光が放たれた。
「な――……ッ!?」
ケイルは森の木々を薙ぎ倒しながら迫る黒い閃光に気付き、咄嗟に飛び避けながら地面へ倒れる。
するとケイルと共に背負われていた
しかしその黒い閃光は、巨大な大樹に掻き消されるように四散する。
それを横目に見ていたケイルは、その閃光を放った場所に視線を向けながら左腰に携える長刀の柄に右手を添えた。
そして黒い閃光が放たれた先へ注視し、そこから現れる黒い人影を目撃する。
しかしそれを見たケイルは、驚きを秘めた表情でその瞳を向けながら表情を強張らせた。
「……なんだ、ありゃ……!?」
思わず驚きを漏らすケイルが見たのは、全身が黒く染まっている人間の形をしている何か。
それが何なのか理解できないケイルだったが、自身の直感によって現れた相手が決して油断を許さぬ相手だと理解した。
しかし全身を黒に染めた何かは、木々の幹から歩み出ながら黒い腕や身体に亀裂を生じさせる。
するとその身体を覆う黒い何かは割れ砕け、その中から人間と思しき肌が明かされた。
「……人間……!?」
「――……ク、クク……ッ!!」
「!」
徐々に黒い表面が剥がれ落ちて行く姿を凝視するケイルは、剥がれ落ちた顔部分に浮かぶ口が笑みを浮かべて高笑いを浮かべているのに気付く。
そして黒い表面に覆われた者は、自ら顔面を覆っている
すると明かされた相手の顔を見て、ケイルは血の気を引かせながら表情を強張らせる。
それは顔に傷を残しながらも、見た事のある黒髪と金色の瞳を持つ青年の顔だった。
「マジか……。……こんな状況で、
「……ハハ……。……クハハハッ!!」
肌に張り付く黒い表面を剥ぎ取ったその青年の姿を見て、ケイルは
しかしそんなケイルを無視するように、辛うじて生き延びていたゲルガルドは気絶している
「……よくも散々とやってくれたな、
「オリジン……!? じゃあ、コイツが……!!」
「間一髪で、瘴気を身体に纏い耐えたものの……。……今度こそ貴様を糧にして、その
ゲルガルドは憎悪の瞳を向けながらも、自らの計画を遂行する為に
そして初めて背負っていた銀髪の女性が
進行方向の視界に入ったケイルに対して、ゲルガルドは小さな舌打ちを漏らす。
そして怒声を上げながらケイルに左腕を向け、凄まじい瘴気を宿した黒い
「邪魔だ、女っ!!」
「
「ッ!?」
迫る瘴気の砲撃に対して、ケイルは
左腰の鞘から抜き放った長刀を巨大な
すると迫っていた瘴気の砲撃が相反する
それによって吹き飛ばされたゲルガルドだったが、その肉体は無傷に等しい。
しかしケイルはその隙を見逃さず、左腰の鞘に長刀を戻しながら傍に倒れる
「クソッ、冗談じゃねぇぞっ!! コイツが
「――……
「しかも、あの
ケイルは背中の
それを察知したゲルガルドは狂気の瞳を向けながら傷付いた肉体で駆け跳び、凄まじい速度でケイルを追い掛けた。
それを後ろを見ずに察知するケイルは、余力を全て脚力に回す。
しかし満身創痍のはずであるゲルガルドの脚力が僅かに上回り、怒声を向けながらケイルに迫りつつあった。
「
「
ケイルは必死に走りながら、仲間である二人の名を大きく叫ぶ。
しかしその後方には既にゲルガルドが迫り、右手に宿した瘴気をケイルに放つ態勢となっていた。
そんな時、ケイルの耳に聞き慣れた声が届く。
それは呑気なようにも聞こえたが、ケイルが待ち望んでいた一人の声でもあった。
「――……呼んだ?」
「!」
「ッ!?」
ゲルガルドが瘴気の砲撃を放つ直前、走る二人の間に巨大な青い斬撃が放たれる。
その斬撃に晒されるゲルガルドは吹き飛ばされ、ケイルと
それに驚愕しながら立ち止まったケイルは、青い斬撃が放たれた方角に視線を向ける。
すると安堵の息を漏らすケイルは、そこに立つ青髪の青年と白髪の男に罵声を向けた。
「……遅いっての、お前等っ!!」
「ごめんごめん! でも、エリクおじさんが不貞腐れてたせいだからね! 僕のせいじゃないもん!」
「――……すまん、ケイル。それに、マギルスも」
ケイルは罵声を飛ばしながらも駆け跳び、二人の声を聞く。
それは駆け付けたマギルスとエリクであり、互いにケイルを発見しながらその後背を追う
しかしエリクが背負い外しながら抱くアルトリアの
「アリア……。……死んでるのか?」
「ああ。だが、アリアの『魂』は
「
「それが
ケイルとエリクは互いに背負い持っていたアルトリアと
しかしそんな二人の確認する時間を待たず、マギルスが二人に呼び掛けた。
「来るよっ!!」
「!」
「ッ!!」
「――……この、ゴミ共がぁああああっ!!」
マギルスの声に反応した二人は、互いに意識と視線を同じ方角に向ける。
するとそこには、マギルスの
それを察知したマギルスは大鎌を身構え、エリクが大剣を右手に持ちながらアルトリアの
「ケイル、アリアも頼むっ!!」
「!?」
「奴の狙いは、あの
「先に行くよ、おじさんっ!!」
「ああ! ――……アリアが生き返る為には、俺達も『マナの実』が必要だ。だから奴を倒して、俺達で『マナの実』を手に入れる。だからお前は、その二人を頼むっ!!」
「マギルスッ!! エリクッ!!」
エリクはそう言いながら先に跳び出したマギルスを追い、瘴気を放出するゲルガルドに迫る。
そして己の計画を邪魔する者達に対して、ゲルガルドは瘴気を身に纏いながら
こうして状況は最終局面へ至り、エリクとマギルスは決死の戦いに臨む。
それは己が魂によって生み出す瘴気と到達者であるウォーリスの肉体を操る、悪魔ゲルガルドとの決戦だった。
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