少年の架け橋
ウォーリスの裏切りによって復活した
その矛先は別の者達に変わりながらも、
そうした事態が変化していく直前、視点はマギルスへと戻る。
「――……おじさんの魔力、どんどん高くなってる……。……これ、もしかして前よりも……!!」
マギルスは魔力感知によって
しかし以前に
それに僅かな冷や汗を浮かべながらも、マギルスは自然と口元を吊り上げながら笑みを浮かべた。
「……なんでかな。初めて
マギルスはそうした言葉を呟き、高鳴る鼓動と共に高揚感を抱き始める。
過去にエリクとマギルスは幾度と模擬戦を繰り返したが、互いに本気で殺意を交え合った事は無い。
それは敵となる立ち位置に居なかったという幸運に恵まれ、
しかしそれは、マギルスにとっては不幸とも呼べたかもしれない。
仲間であるが故に二人は本気で対峙した事が無く、いずれも同じ敵へ向き合い、互いに本気の敵意や殺意を向けた実力を知らない。
しかも互いに敵となれば厄介な相手であると理解しながらも、そうした立場になる事は無いだろうという秘かな安堵が、今まで共に過ごした二人の間には在った。
しかし
二人を取り持っていたケイルは傍に居らず、暴走を抑制していたアリアは
技術的にも感情的にも
そうしてマギルスは空中に張った物理障壁を駆け跳んだ後、身体を回転させながら広大な森の地面へ軽やかに着地する。
すると上体を起こしながら顔を上げながら前方へ視線を向けると、そこに立ち尽くす三メートル程の巨体である赤肌をした鬼の姿を発見した。
「――……ガァア……ッ!!」
「……久々に見たよ、おじさんの
白髪ながらも見覚えのある二本の黒角を生やした
そして
マシラ共和国の時と同様に、エリクの暴走が再びアルトリアの死によって招かれる。
それを理解しながら背負う大鎌を右手で回し構えたマギルスは、左手で柄を掴みながらその
「先に言っておくけど、アリアお姉さんやケイルお姉さんみたいに、僕は手加減しないよ!」
「……ガァアア……ッ!!」
「クロエのやり方は、ちゃんと見てたもんね。――……エリクおじさんは、僕が叩き戻すっ!!」
「ァアアアアアアッ!!」
マギルスの脳裏には、未来で赤鬼と化したエリクを止めた『
あの時にエリクは起き上がれなくなるまで『
その時と同じ方法でエリクを元に戻す事を考えるマギルスは、同情や容赦など抱かずに武器を向けて本気の敵意と殺気を纏う魔力に込める。
それに反応した
その素早さは以前より遥かに凌駕し、
それを大鎌の柄で真正面から受け止めたマギルスは、
「ガアアアッ!!」
「おっも……!! ――……でも、まだまだだねっ!!」
マギルスは
しかし余裕を崩さず喜々とした微笑みを向けるマギルスは、拳を受け止めていた大鎌の柄を大きく跳ね上げた。
「ァアッ!!」
「うりゃっ!!」
「ガ――……グッ!!」
押し込もうとした右拳を弾かれた
その隙を突くようにマギルスは大鎌を振り、その柄で
それを受けた赤鬼は苦しむような声を漏らし、地面を削り大きく
しかしその間隙を見逃さず、『
「ガッ……グォアアッ!!」
「隙だらけじゃん、おじさんっ!!」
「ガホォッ!!」
「魔力だけで、そんなに馬鹿デカくてさぁ! ――……元のおじさんの方が、もっと強かったよっ!!」
理性を失いただ目の前の相手を殺す事しか考えられない
そしてマギルスは両腕を振り回しながら抗う
それを見たマギルスは大鎌を折り畳みながら背負い戻すと、今度は僅かに腰を落として素手のまま身構えた。
「今のおじさんに、
「……ガァア……アアアッ!!」
それを避けもせずに真正面から対峙して見せるマギルスは、
しかしそれだけで踏み止まると、マギルスは両腕を突き出して
そして容赦なく
今度は背を地面に着けた形で倒れる
すると訝し気な表情を向け、仰向けのまま動かぬ
「どうせ
「……ァ……ガァア……ッ」
「いや、そうじゃないね。……そっか。今のおじさん、
「……ァアア……ッ」
「アリアお姉さんが死んじゃって、どうでもよくなっちゃったんだね。――……だから、暴走した
「……」
それを聞いていたのか、
その瞳は先程のような理性の無い瞳は無く、黒くも寂し気な両瞳が垣間見える。
マギルスはそれを見て、推測を確信に変えながら話し掛けた。
「おじさん、やっぱり自分でコントロールできるようになってたんだね。
「……どうして……」
「分かるよ。前より
「……ッ」
「ちぇ、せっかく
残念さを込めた溜息を本気で漏らすマギルスは、構えを解きながら今の
すると上体を起こした
そんな
「それで、どうして演技なんかしてたわけ?」
「……俺はまた、アリアを守れなかった。……また、アリアを死なせた」
「だから、どうでもよくなったんだね。……それで暴走したフリをすれば、誰かが自分を殺してくれると思ったの?」
「……ッ」
「図星だった? 真面目なおじさんだったら、そう考えるよね。……うーん……」
エリクの言葉を聞いたマギルスは、暴走した演技にそうした意図があると考える。
すると言葉を詰まらせたエリクの態度で、それが正しかった事を理解した。
そんなエリクに対して、マギルスはアルトリアの亡骸を見ながら考える。
すると何かを思い出しながら、遠くに
「エリクおじさんさ。諦めて死ぬのは、まだ早いかもよ」
「……?」
「実はね、
「……なにっ!?」
「だからアリアお姉さんの魂は、まだ
「……出来るのか?」
「未来でね、クロエが同じ事をおじさんにしてた。ほら、未来のアリアお姉さんにおじさんが殺されちゃった時だよ」
「!」
「アレとは少し違うかもしれないけど、今のアリアお姉さんとあの時のエリクおじさんは状況が似てる気がする。……それにもし、アレが本当に『マナの樹』だったらさ。アレがあると思わない?」
「……まさか!」
「ウォーリスって奴の目的はね、『マナの樹』に
「……死者も生き返らせる、『マナの実』があるっ!?」
「それをおじさんみたいに飲ませて、アリアお姉さんの身体を治して、魂も元に戻す。『青』のおじさんもいるし、出来るんじゃないかな?」
「……!!」
赤鬼のままだったエリクは厳つかった表情を更に強張らせ、腰を上げて身体を立たせる。
そして徐々に赤鬼と化していた巨体を縮めながら、赤肌を火に焼けた褐色に戻して白髪の人間へと戻った。
それを確認しながら微笑みを浮かべたマギルスは、『マナの樹』を見上げながら声を向ける。
「行こう、おじさん。『マナの実』を見つけに! ……そしてさ、皆と一緒に帰ろう!」
「……ありがとう、マギルス。……お前も、居てくれて良かった……」
「へへっ。――……あっ、あっちはどうなったかなぁ」
「あっち?」
「赤いお兄さんが、
「……行こう。俺を
「いいよ!」
『ヒヒィン』
マギルスは屈託の無い笑みを浮かべ、
するとアルトリアの亡骸と黒い大剣を背負い持ったエリクを後ろに乗せ、魔力障壁を足場にして青馬を森の上空を駆けさせた。
そして
特にエリクは失意の底から這いあがり、自分に与えられた最後の役割を果たそうとしていた。
こうしてマギルスによって正気を取り戻せたエリクは、アルトリアを生き返らせる事を目的に改めて動き出す。
しかしそんな二人の意思とは裏腹に、意識を戻したケイルと気絶した
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