留まれぬ意識
『
その大自然の中に更に巨大な大樹が存在し、それが自分達の
しかし初めて見る光景にも関わらず、『マナの樹』を始めとした光景にアルトリアは今までと比較できない郷愁を感じ取る。
その感覚を否定するように首を左右に振ったアルトリアは、止めていた足を動かしながら歩き始めた。
一方で『マナの樹』が現存する事実に嬉々とした表情を浮かべていたウォーリスも、その後ろに付くように足を進める。
互いに言葉こそ交えず、ウォーリスからも行く先に関して命令は無い。
その理由は、互いに別々の思考から同じ場所を目指すべきを見定めていたからだった。
僅かに伸びた草原地帯を歩くアルトリアは、外と同じ白い
その脇に存在する広めの
アルトリアは一言として何も喋らず、ただ周囲を見渡しながら困惑した表情を強め続けている。
動きこそ呪印で制限された状況の為に機敏とは言えなかったが、まるで見知った場所を通るような淀みの無い歩き方は、ウォーリスに更なる確信を与えていた。
「やはり
「……」
「もし、その仕掛けを利用して私の排除を目論むようなら……。……場合によっては、先に始末も考えなければな」
呪印を施され魔法を扱えなくなっているアルトリア自体の脅威は、ほとんど無いに等しい。
しかし
それを予期できるウォーリスは、殊更に
しかしアルトリア側はそんなウォーリスの様子など気にする素振りは無く、ただ動揺する表情を抑えて歩きながら周囲の光景を瞳で追っていた。
「……私は、ここを歩いた事がある……。……違う、私はここに来たのは初めてで……っ」
感覚的な郷愁によって周囲の景色に関して既視感を強めるアルトリアだったが、それを否定する為に自らの記憶を遡りながら自身の感覚を否定する。
しかしその否定も虚しく、アルトリアの足は自然とこの先に辿り着くまでの
そうして二人は整えられた
すると数十分以上が経過した時点で、ウォーリスは周囲に見える自然に関して、大きな不自然さがある事に気付いた。
「……どういうことだ。これだけの自然が残っているにも関わらず、動物の鳴き声も……姿も見当たらない……。……いや、虫すらもいないのか……?」
植物が多く群生している森の中にも関わらず、植物以外の生命が存在していない事にウォーリスは気付く。
自然の植物を育てる為には、土や水、そして太陽の光以外にも様々な要素が必要となる。
それが他の生命であり、動物や虫も巨大な自然を作り出す為には必要な存在だった。
しかし『マナの樹』を中心とした神殿内部の巨大な森林には、動物や昆虫が一切存在していない。
それが不自然である事に気付いたウォーリスの言葉に対して、アルトリアは前を歩きながら虚ろな声を向けた。
「……
「!」
「みんなが暮らして居たのは、
「……これは……」
「ここは、
「……やはり、
「……ッ!!」
無気力にに喋り聞かせるアルトリアの様子が普通ではない事に気付いたウォーリスは、それが
しかしその途中、意識を戻すように光が灯る青い瞳に戻ったアルトリアは、右手で右顔半分を覆いながら苦々しい声を漏らした。
「何なのよ……これ……っ!!」
「
徐々に
それはウォーリスが考える最悪の
ウォーリスは鋭い視線と厳しい表情を見せ、左腕に抱えたリエスティアの身体をその場に置く。
それに気付いたアルトリアは、困惑した表情を浮かべたまま後ろを振り向いた。
「……?」
「アルトリア嬢。ここまでの案内、御苦労だったな」
「っ!!」
「今の君は、どうやら私が考え得る最悪の状況にあるらしい。……それは出来る限り、避けておきたいのでね」
「私を、殺す気……!?」
「肉体だけ、だがね。例え
「……ッ!!」
一切の躊躇を見せないウォーリスは、右手でアルトリアの胸部を突き狙う。
呪印の拘束と衰弱した肉体ではウォーリスの攻撃を避けられるはずもなく、成す術も無いままアルトリアは胸を貫かれた。
それと同時に貫いた胸部から右手を引き抜きながら、アルトリアの心臓を切除するように抜き取る。
強張らせた表情のアルトリアは、青い瞳には自身の心臓を映し見ながら膝を傾けて地面に着けた。
「……ぁ……っ」
「短い間だったが、これで御別れだ」
「……」
アルトリアは上体を傾けながら地面へ横たわると、胸から溢れ出る血と共に瞳の生気を薄れさせる。
それを見下ろすウォーリスは、抜き取った心臓を
「魂は劣化していくが、
そう呟きながらその場に置いていたリエスティアを左腕で抱え直すウォーリスは、アルトリアの死体を置いてそのまま歩き出す。
心臓と共に魂を抜き取られたアルトリアの肉体に刻まれていた呪印が消え、流血と共にその温もりを失い始めた。
その後、ウォーリスの背後にはアルトリアの死体は見えなくなり、今まで緩やかだった歩行速度が急激に速まる。
右手には抜き取ったアルトリアの
こうして
そんな状況が
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