【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

革命編 六章：創造神の権能

突入の構成

　『天界（エデン）』に到着したウォーリス達は、黒い塔の内部からその世界を見回す。

　中空に浮かぶ小規模な大地と、更に空に浮かぶ大陸規模の巨大な白い神殿は、ウォーリス達の居た箱庭（せかい）には存在しない光景だった。

「――……おそらく、あの神殿が創造神（オリジン）の居城だ」

「アレが……」

「……ッ」

　その景色を眺めながら嬉々とした様子を見せるウォーリスは、投影された操作盤を扱いながら黒い塔を操作し、白い神殿のある大陸（ばしょ）に移動し始める。

　同じくその景色を眺める側近アルフレッドや悪魔騎士ザルツヘルムも、自分達の居た箱庭（せかい）では見た事の無い光景に驚きを浮かべていた。

　しかし一人だけ、その驚きから醒めながら奇妙な感覚を抱く者もいる。

　それは呪印によって衰弱しているアルトリアであり、床に倒れた身体を起こしながら見える外の映像に奇妙な既視感を抱いていた。

「――……何よ、この懐かしい感じ……。……初め見る場所の、はずなのに……」

　自身の故郷にすら郷愁を強く感じなかったアルトリアが、見覚えの無い既視感に動揺を浮かべる。

　その小声に気付かぬウォーリス達は、近付く白い神殿に注目を集めていた。

　そんな折、ウォーリス達の横側に投影された映像が映し出される。

　それと同時に赤く点滅した時間表示（タイマー）が映し出され、残り三十秒程の時間が赤く点滅している様子が見えた。

　その表示を横目で確認したウォーリスは、口元を微笑ませながら呟く。

「あと三十秒で、切り離した下層部分（とう）が爆発する」

「！」

「『天界（こちら）』にまで影響は及ばないとは思うが、念の為だ。ザルツヘルム、御嬢様の面倒を見てやれ」

「ハッ」

「……クッ」

　ウォーリスの命令にザルツヘルムは応え、床に倒れているアルトリアを引き起こす。

　そして両腕を背中側に回されながら拘束され、力の入らない足で立たされた。

　それに抗えないアルトリアは、ザルツヘルムの身体に寄り掛かる形で支えられる。　

　そうした間に時間表示（タイマー）も進み、残り十秒となった。

「さぁ、これで後戻りは出来ない。……戻れる時が来るのは、私が新たな創造神（オリジン）となった時だけだ」

「……ッ!!」

　囚われるアルトリアにそう述べるウォーリスは、嘲笑した声でそう伝える。

　そして表示された時間が零（ゼロ）となった時、自分達が通過した太陽のように巨大に光る通路（あな）へ四人は視線を向けた。

　しかし時間が経っても何も起こる様子が無く、アルフレッドとゲルガルドが奇妙な表情を浮かべる。

　アルトリアも自爆した現象が視認できない事に奇妙さを抱いたが、ウォーリスはそれを無視するように視線を投影した操作盤に戻した。

「どうやら、天界（こちら）には何の影響も無いようだ。良く出来た世界のようだな」

「……本当に、あの通路（みち）を破壊できたのでしょうか？　念の為に、確認しておいた方が……」

「相変わらず心配性だな、アルフレッド。……もし不安なら、一つ役割を与えておこう」

「何でしょうか？」

「あの神殿まで辿り着いた後、私達は塔（ここ）から降りる。その後は、お前が塔（ここ）に残って通路（みち）に変化が無いかを監視してくれ。いざとなれば迎撃し、私達に敵襲を知らせてくれると助かる」

「宜（よろ）しいのですか？　私も御同行しなくても」

「護衛と二人の拘束だけなら、ザルツヘルムが十分に果たしてくれる。それにいざという時、この塔の性能を最大限に働からせられるのは、お前だけだ」

「……分かりました。それでは、私が留守を預からせて頂きます」

「頼んだぞ」

　進言を聞き入れる形でそう命じたウォーリスは、アルフレッドに周囲の監視と迎撃を命じる。

　その命令を受け入れたアルフレッドは素直に応じ、光っている巨大な通路（みち）側へ視線を注いだ。

　アルフレッドの対応を確認したウォーリスは、再び黒い塔の操作に戻りながら白い神殿が聳（そび）える巨大な大陸へ向かう。

　しかし一方で、通路の内部に存在する者達に視点は移る。

　それはウォーリス達の黒い塔を追う箱舟（ノア）であり、その艦橋（ブリッジ）に座る『青』とテクラノスだった。

「――……やはり、通路の破壊を考えたようだな」

「あの者の予想、次々と当たりますな」

「同じような試みをする相手ならば、行動が読み取れ易いのだろうな」

　二人はそうした会話を行い、切り離された黒い塔の下層部分が漂流している状況を映像越しに確認する。

　その下層部分（とう）は原型を留めており、爆発した様子は確認できなかった。

　そして映像から視線を背けて振り向いた『青』は、そこで同じ画面を見る者達を改めて確認する。

　そこには新たな装備に身を包んだエリクやマギルス、そしてケイルを含む十名が艦橋（ブリッジ）に集まっていた。

　しかしそれぞれの人物達は、エリク達と同じように最初に見た格好とは異なる衣服や装備を身に着けている。

　それを改めて確認する『青』は、頷きを見せながら言葉を向けた。

「全員、与えた装備の確認は大丈夫だな？」

「問題ない」

「使い方は覚えた！」

　『青』の問い掛けにエリクとマギルスは応え、他の者達も頷いて返答する。

　その中でケイルだけが不服そうに自身が身に着けている赤い装備（ふく）を見下ろしていたが、それでも文句は言わなかった。

　そんな一行に対して、『青』は改めて自身の口から作戦（ながれ）を伝える。

「これから三十分後、我々も『天界（エデン）』へ突入する。その際に迎撃される可能性はあるが、その対応は全てテクラノスに任せる。良いな？」

「うむ」

「奴等は天界（エデン）の施設を確認し掌握する為に、まず神殿へ向かうだろう。その追跡は、我を含めた十一名で行う。……その際の組み合わせを、予め伝えておく」

「組み合わせ？」

「個々に動いていては、連携をし難いだろう。そしてウォーリスと厄介な側近達を倒す為には、お前達の共闘が必要だ。その為に、均等（バランス）の取れた組み合わせにしたい」

「……で、その組み合わせってのは？」

　『青』の言葉に疑問を抱くエリクだったが、その説明を終えた後にケイルが口を挟む形で尋ねる。

　すると『青』は視線を向けながら、それぞれの組み合わせを伝えた。

「最初に、側近の相手を務める者を伝えよう。――……『茶』の息子武玄（ブゲン）、その付人の忍者（トモエ）。魔人ゴズヴァール。そして元七大聖人（セブンスワン）のシルエスカ、バリス。この五名が、第一陣として降下する」

「！」

「我等は主に、側近二人の相手をする。そして側近達を排除することが出来次第、ウォーリスの討伐に参加するのだ」

「……じゃあ、残った奴等が……」

「そうだ。――……傭兵エリク。マギルス。そして七大聖人（セブンスワン）である『青（われ）』と『赤』のケイル。この四人で、ウォーリスを相手にする」

　二組の組み合わせを伝えた『青』は、それぞれに課す役割を明かす。

　それを聞かされた者達はそれぞれに思う表情を浮かべ、組むべき相手と視線を交わした。

　しかし視線を向けるエリクに対して、ケイルは逆に顔を背けた様子を見せる。

　そして互いに視線を合わせられていない二人を見ながら、マギルスと透明な青馬（ファロス）は鼻で溜息を漏らした。

　こうして『天界（エデン）』に辿り着いたウォーリス達と、重要施設のある神殿へ向かう。

　それを追う箱舟（ノア）とエリク達もまた、それぞれに共通する目的の為に『天界（エデン）』へ辿り着こうとしていた。