定め無き主旨


 『青』によって窮地を救われたエリクとマギルスは、現代で作られた箱舟ノアに乗船しながら黄金色の空を飛ぶ。

 そこで再会したケイルと話を交え、初めて会う武玄ブゲントモエと軽い言葉を交えながら互いの顔を認識した。


 そして同じように再会した新たなルクソード皇国の皇王シルエスカと老執事バリスに、エリクとケイルは過去に皇国で起きた事件に関する新たな情報を聞かされる。

 それはゲルガルド伯爵家とウォーリスを関連付ける証言であり、その意図はルクソード血族を排除するという思惑が見え隠れしていた。

 

 二人からその話を聞いたケイルは、穏やかにはなれない表情を浮かべる。

 自身の一族と家族の死に関わるであろう事件にウォーリスの生家が関わっていると知ると、自身に内側に湧き上がる憤りが新たな目的を宿すように鋭い瞳をさせた。


「――……アンタ等の話、本当マジなんだな?」


「ああ、だが証拠は何も無い」


「言い換えれば、そういう証拠だけが綺麗さっぱり消されてたってことだな?」


「その通りだ。……アルトリアが過去の事件とウォーリスとゲルガルド伯爵家の関連性をバリスに伝えてくれなければ、我々も事件の不自然さを感じられなかっただろう」


 ケイルは改めてシルエスカにそう確認すると、その口から再びアルトリアの名が出される。

 それに驚きを浮かべて反応するケイルに代わり、エリクがバリスの方へ問い掛けた。


「何故、アリアがそんな依頼を? そもそもどうして、アリアが帝国に戻っていたんだ?」


「実は、アルトリア様が御目覚めになる前後に帝国から御越しになったユグナリス殿下とログウェル殿が参りまして。彼等の要望を叶える形になりましたが、アルトリア様の意思で帝国へ戻るという話になりました」 


「要望?」


「ユグナリス殿下の新たな婚約者となった、リエスティア姫の治療を行う為です。その為に、私と共に帝国へ戻り故郷のローゼン公爵家に。……そこで隣国の使者として赴いていたウォーリスと会い、更にアルトリア様を狙った誘拐事件が起きた事で調査を依頼されました」


「誘拐だと……!?」


「どうやらウォーリスの狙いは、アルトリア様とリエスティア姫の身柄だったようです。……その辺りの事情を、『かれ』は存じていたようですね」


「……ッ」


 バリスはアルトリアの依頼と帝国に戻っていた理由をそう説明し、エリクと共に『青』へ視線を移す。

 そうした話をエリク達が行う一方で、もう一組の再会も同じ室内で行われていた。


「――……ゴズヴァールおじさん、久し振りだね!」


「ああ。……成長したな」


「へへっ。僕、フォウル国に行って来たよ! 今だったら、おじさんにも勝てるくらい強くなったもんね!」


「そうか。それは良かったな」


 エリクと同じように旧知の仲であるゴズヴァールの近くまで歩み寄ったマギルスは、そう話し掛けながら微笑みを浮かべる。

 そうした最中、ふと思い出すようにマギルスはある人物達の事を思い出した。


「あっ、そうだ。僕、さっきまでエアハルトお兄さんと一緒だったんだ」


「奴なら、この箱舟ふねに乗っている」


「えっ。……何処にいるの?」


艦橋ここにはいない。重傷だったので、別の部屋で休ませている」


「ふぅん。あっ、だったらもう一人のお兄さんは?」


「もう一人?」


「えっとね、そうそう。あそこのお姉さん達みたいに、真っ赤な髪をしたお兄さん。知らない?」


「……いや。お前達とエアハルト以外は、この箱舟ふねには運び込まれていないはずだが」


「そっか」


「知り合いか?」


「あんまり知らないけど、かなり強い人だった! でも、僕の方が強いもんね!」


「そうか」


 そうした会話を行う中で、マギルスは同盟都市で共闘していたエアハルトも乗船している事を知る。

 しかし合成魔人キメラバンデラスとの戦いで重傷を負っていた事を知っており、この場に居らず休んでいる事にも納得を浮かべた。


 更にもう一人の共闘者 ユグナリスの行方も僅かに気遣ったマギルスだが、ゴズヴァールが知らないという事ですぐに話題から外す。

 そして別の方角へ視線を向けながら、艦橋の席に座りながら操作盤を扱う人物にも声を向けた。


「テクラノスお爺さんも、元気してたー?」


「――……相変わらずだな、小僧」


「それにケイルお姉さんも、エアハルトお兄さんも居るってことは。元闘士の序列上位が勢揃いだね!」


「……そういえば、そうなるのか」


 テクラノスにも声を向けたマギルスは、エリクと話しているケイルにも視線を向けながら思い出すようにそう話す。

 それを聞いたゴズヴァールは思い返し、解体された元マシラ闘士の序列上位トップの五名が集まっている事に気付いた。


 そんな他愛も無い話を行う最中、マギルスは外の映像が映る画面に視線を送る。

 すると黄金色に染まりながら数多くの巨大な歯車が浮かぶ景色に見覚えを感じ、画面に近付きながら驚きを呟いた。


「……これって、クロエが時間を戻してたのと同じ能力ちから?」


「――……いいや、少し違う」


「!」


 画面に近付きながらそう呟くマギルスに、『青』は話し掛けながら横に立つ。

 それからゴズヴァールとテクラノスが傍に居る中で、二人はこの現象に関する話を始めた。


「『黒』の能力ちからは時を遡らせる程に強力だが、それは限定的な範囲に限られる」


「……どういうこと?」


「簡単に言えば、『黒』が支配できるのは『個』に対する時空間だけ。『世界』そのものには干渉できない」


「……僕達が未来から戻って来たり、おじさん達みたいに身体はそのまま未来の記憶をそのままにできる。けど、世界の時間をそのまま戻せるわけじゃない。そういうこと?」


「そうだ。……だがこの現象は、世界そのものに干渉してしまっている。これは『黒』の能力ちからを遥かに凌駕する権能だ」


「けんのう?」


「世界に影響を与える程の支配力と、意のままに操れる能力ちから。それが権能と呼ばれる、創造神オリジン能力ちからだ」


「……それじゃあ、コレって創造神オリジンが復活したってこと?」


「いや、これはまだ初期段階と言える。日食のタイミングに合わせて、創造神オリジンの『魂』と『肉体』が接触したのだろう」


「アリアお姉さんと、今のクロエのお母さん……リエスティアって人だね」


「知っていたか」


「途中でエアハルトお兄さんに聞いた! 箱舟ここに来てるんでしょ?」


「うむ」


「エアハルトお兄さんも、『青』のおじさんが連れて来たの?」


「いや、我ではない」


「えっ? じゃあ、誰が連れて来たの?」


「それは――……むっ」


「?」


 マギルスと話していた『青』だったが、画面越しに見える外の景色から何かに気付く。

 そして操縦席に座る魔導人形ゴーレムに近付くと、錫杖を持たない右手を操作盤に走らせながら何かを入力し始めた。


 それに付いて行くマギルスは首を傾げながらその作業を見守ると、しばらくして小さな溜息を漏らした『青』が顔を上げる。

 すると操作盤から右手を離し、全員に見える形である映像を画面に映し出しながら説明を始めた。


「!」

 

「――……元は太陽と月の重なりによって生まれる影。しかし今は、互いの世界を繋ぐ『通路あな』となっている。……そこに向かっている黒い塔。アレにウォーリス達が乗っている」


「なに……!?」


「奴等の目論見は、向こう側に在る『天界』を掌握すること。その『鍵』となるのが、創造神オリジンの魂と器である二人の女。アルトリアとリエスティアの二人だ」


「……!!」


「我々は奴等を追い、『天界』に乗り込む。そして奴等の目論見を阻止する。その為に、諸君等には集まってもらった」


 『青』はその場に集まる者達に呼び掛け、彼等を集めた目論見を明かす。

 全員がその声を聞きながらも、訝し気な表情を浮かべる数人の中から、代表するようにケイルが声を発した。


「……その話が本当だとして、具体的にどうやるつもりだよ?」


「!」


「言っておくが、ウォーリスを討つって話なら賛成だ。出来るもんならやってほしいぜ。――……だが曖昧な言葉だけで、アタシ等は誤魔化されないぞ」


「……何が言いたい? 今の『赤』よ」


敵側ウォーリスの目論見を阻止する、その手段のことだ。……アンタは、どっちを考えてる?」


「……参考までに、『赤』の意見を聞こう。どのような手段があると考える?」


とぼけやがって……。……ウォーリスって野郎の目論見を阻止する方法の一つ目が、ウォーリスの野郎を討つ。こっちなら話は単純だな」


「うむ」


「だが、ウォーリスを討つのが困難な場合。二つ目の手段になるのは、『鍵』になってる二人を奴等から引き離して、相手の目的を果たさせないことだ。……だがその手段も、二通りある」


「……」


「一つ目が、二人を救出して連れ戻す方法。……二つ目が、二人の内どちらか、あるいは両方を殺すこと」


「!」


「『魂』と『器』の二つが揃ってなきゃ『鍵』にならないなら、そういう手段を取るしかない。――……アンタは、どっちをやらせる気だ?」


「……ッ!!」


 ケイルは強い口調でそう問い質し、『青』の伝える作戦の主旨を正確に聞き出そうとする。

 それを聞いた幾人かが厳しい表情を向ける中、特にエリクとマギルスはその返答次第で反対する意思をいだこうとしていた。


 こうしてウォーリスに対抗する為に集められた一同の中、改めて『青』の目的が皆に明かされる。

 しかし相手の目論見を阻む上で重要となる『鍵』の扱い方について、『青』の考える作戦がどのような形に進むのかは、この時点で誰も知らなかった。

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