証拠なき罪過
そして数多くの巨大な歯車が世界を覆う中、上空の日食で生じる巨大な穴が『天界』に続く
ウォーリス等はそれを利用し、
それを防ごうと追跡する
一方その頃、同盟都市の激戦で生き延びたエリクとマギルスはとある場所で意識を戻す。
そして自分達を救い出した『青』に対面し、状況を確認する為にその背中を追った。
すると『青』が赴いた一室に訪れると、そこに見覚えのある面々を含めた人物達が居るのを目撃する。
その中には共に旅をしていたケイルや顔見知りの姿も確認し、エリクとマギルスは驚愕を見せながらも呼び掛けた。
「――……ケイル!」
「……よぉ」
「ゴズヴァールおじさんだ!」
「マギルス、久しいな」
エリクはケイルに注目しながら足を進め、マギルスはゴズヴァールの方へ足を運ぶ。
そして視線を合わせながら近付き、最初にエリクとケイルが会話を交え始めた。
「ケイル、これはいったい……?」
「アタシも、『
「……やはりここは、未来で乗った
「ああ。アタシも
「だが、未来で作られた
エリクはケイルと会話しながら、改めて自分達の居る場所が未来で乗った
しかし未来で作られたはずの『
そんなエリクに対して、僅かに渋る様子を浮かべるケイルは自分自身が知る情報を明かす。
「……話を聞く限りじゃ、どうやら『青』が作ったらしい」
「『
「未来の『
「そうなのか」
ケイルの話を聞き、エリクは驚きながらも納得を浮かべる。
自分達と同じように未来の記憶を持った『青』であれば、未来で枯渇していた人材や資材を用いて製造していた箱舟も短時間で製造でき、未来の
しかし微妙な面持ちを浮かべるケイルは、エリクに何かを教えようと口を開く。
「……エリク、実は……」
「?」
「――……その男が、
「!」
何かを教えようとしたケイルだったが、その言葉は後ろから掛けられる声で阻まれる。
そこに立つのはアズマ国の着物姿に身を包み、腰にはケイルと同じく大小の刀を提げて髪を結うように
初めて見る
そんなエリクに対して詰め寄るように足を進ませて鋭い睨みを向けながら問い掛けた。
「お
「ああ。……アンタは?」
「儂の名は
「そうか、ケイルが言っていた師匠か」
それを聞いたエリクは思い出しながら納得した面持ちを浮かべたが、逆に
「確かに、
「え?」
「ちょっ、師匠っ!?」
「
しかしそれを阻むように
凄まじい一撃を浴びた
そうして気絶した
「不躾な方で、申し訳ありませんね」
「い、いや……」
「私は
「そ、そうか」
「挨拶も短いですが、親方様を休ませる必要がありますので。では――……」
そんな二人に対して溜息を大きく漏らすケイルだったが、エリクは状況を理解できずに問い掛けた。
「はぁ……」
「どうしてここに、お前の師匠達が?」
「『茶』の
「『茶』……。確か、アズマ国に居る
「ああ。アタシの師匠、さっきの
「そうなのか。……あの二人は、強いのか?」
「強いよ。アズマ国の中では、最も腕の立つ人達だ」
「そうか。……そういえば、さっき何か言おうとしていたか?」
「……いや、やっぱり何でもない。忘れてくれ」
「?」
ケイルはそう言いながら渋る表情を浮かべ、言い掛けていた言葉を飲み込む。
それを疑問に感じたエリクだったが、新たに歩み寄る二人の人物が声を掛けた。
「――……エリク、久し振りだな」
「シルエスカ……。……それに、あの時の執事……?」
「――……そういえば、貴方には名乗り忘れていましたな。改めて、私の名はバリスと申します」
その場に歩み寄ったのは、現ルクソード皇国の皇王シルエスカと、ハルバニカ公爵家に仕える老執事バリス。
顔見知りである二人が声を掛けて来た事を確認したエリクだったが、逆に新たな疑問を浮かべながら二人にも問い掛けた。
「どうして、お前達も?」
「『
「一年前? この事態が起こる前からか」
「ああ。……その時、『
シルエスカは複雑な面持ちを抱きながら、操縦席に座る
ルクソード皇国で起きた事件で遺恨のある『青』ガンダルフと今現在の『青』が同一の魂を共有した
しかしシルエスカに後ろに控えるバリスが、ある情報をエリクやケイルに伝えた。
「実は皇国の事件に関して、後ほど判明した情報が幾つかあります」
「?」
「実は前皇王であるナルヴァニアですが、彼女は十年ほど前にある一人の人物を皇国に招き入れています。そして生物研究機関の研究者にしていた事が分かりました」
「……何の話だ?」
「その生物研究機関の所長を務めていたのが、皇国の事件を起こしたランヴァルディア=フォン=ルクソード。……そして彼の妻であり妊娠していたネフィリアス女史が惨殺されていたのが、それから少し経った時期の事です」
「?」
「事件で生き残った研究者の中に、ナルヴァニアが招いた研究者を覚えていた者がいました。……その研究者は十代に見える男性であり、黒髪と青い瞳を持った青年だったそうです」
「……まさか……」
「私はガルミッシュ帝国に赴き、そこである青年を見ました。その人相絵を描き証言をした研究者に確認したところ、名前こそ違いますがその青年と同一人物で間違い無いという証言を得られました。……ウォーリス=フロイス=フォン=ゲルガルド。彼は一時期にはルクソード皇国に身を置きながらナルヴァニアに近付き、ランヴァルディアとネフィリアスと交流を持ち、彼等の研究にも協力していた人物です」
「!!」
「ここからは私の推測ですが、恐らくネフィリアス女史を殺したのはナルヴァニアの意思ではなく、ウォーリスの思惑だったのではないかと思われます。……そしてランヴァルディアに皇国とルクソード血族に対する復讐心を抱かせ、
「……ちょっと待てよ。なんだそりゃ……!?」
意味も分からず話を聞いていたエリクとケイルだったが、バリスの話によって過去の出来事の真相が伝わり始める。
更に悔やむような表情を浮かべるシルエスカが、戸惑うケイルに対してある話を伝えた。
「ケイル。ゾルフシスから伝言がある」
「えっ」
「二十五年程前に起きた皇国の内乱。その時にお前の一族が殺され捕らわれた件について、ハルバニカ公爵家を使ってゾルフシスが調べ直した。……そこで判明したのだが、当時のナルヴァニアではお前達の一族とルクソードの血縁に関して何も知らなかった可能性が浮上した」
「……は?」
「当時のナルヴァニアは皇族の位置に居ながらも、ルクソード血族ではない為に内乱に関われていなかった。そして皇国内においても、ナルヴァニアに手を貸すような勢力は無かったはずだ。……だがナルヴァニアは不自然な程に皇国内で勢力を強め、内乱後に皇王の地位に就いた。……ナルヴァニアは、皇国外の勢力によって支援を受けていた可能性が高い」
「……それが、【結社】なんだろ?」
「いや、この件に対して『青』自身が否定した。少なくとも『青』が把握している【結社】の構成員は何も関わってはいなかったらしい」
「え……っ。……それじゃあ……!?」
「そこで過去の記録や記載されている情報ではなく、人の記憶からお前達の一族の行方を捜索した。すると古くから港に住む者達の中に、お前の様相に似た一族らしき犯罪奴隷が港の商船に乗せられていたという証言を得られた」
「!?」
「その船の記録や情報は、何一つとして残されていない。人の記憶にしかない証言だ。……だがその船は、帝国方面に向かう大きな商船だったと証言者達は口にしている」
「な……」
「証拠は無く、証言だけではあるが……。……恐らくお前の一族を捕らえるよう命じ、ナルヴァニアと繋がりのあり大きな商船を持つような帝国の有力者がいるとしたら。――……それはナルヴァニアが嫁いだ、帝国のゲルガルド伯爵家だったのかもしれない」
「!!」
「ゲルガルド伯爵家、そこを生家として育てられたウォーリス。奴等は全ての悪事をナルヴァニアに着せながら、影に隠れてそれ等の事件を実行していた可能性がある。……そして、奴の目論見がルクソード血族の弱体だったとするならば――……その末裔である私としては、奴等の所業を看過できない」
シルエスカはそう述べながら、滲み出る自身の怒りを抑えながら両拳を強く握る。
その情報を聞いたケイルも自身の一族と家族が関わる事件の新たな情報を聞き、穏やかならぬ感情を抱きながら歯を噛み締めた。
それ等の情報を伝えた後、改めてバリスはエリクを見ながら伝える。
「
「!」
「物的な証拠は掴めませんでしたが、それ等の証言と不自然に残されていた証拠と照らし合わせれば、我々も嫌でも気付きます。……ゲルガルド伯爵家、そしてウォーリス=フロイス=フォン=ゲルガルド。彼等はルクソード血族と皇国に害を成した者として、我々も自分の意思で討伐に協力するつもりです」
バリスは穏やかな口調ながらも、その瞳には憤りを宿した鋭さが感じられる。
それを見たエリクは、ルクソード皇国に居る二人がこの場に居る理由を理解できるような気がした。
こうして過去に起きたルクソード皇国の変事に関して、ゲルガルド伯爵家とウォーリスが関わっている可能性が判明する。
その為にウォーリスを討つ理由を得た者達は、静かな憤りを見せながらこの場に参じたのだった。
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