蛇は沈む
旧ゲルガルド伯爵領地の都市にて外壁の
そこで素早く外壁を登った帝国皇子ユグナリスに阻まれ、逆にスネイクが剣の間合いまで追い詰められた。
しかし次の瞬間、都市全体を覆う結界が赤く変色する。
そして都市外部に悪魔化している
その状況が都市全体を使った罠であることを悟ったユグナリスだったが、その前には
彼は自身と部下の命を助ける為に、依頼主から命じられた
その言葉を聞いたユグナリスは、改めてスネイクを見ながら問い掛ける。
「――……俺を殺せば、この状況が止まると。そう思っているんですか? 貴方は」
「少なくとも、依頼主はそう言ってたぜ」
「貴方達を雇ったのは、ウォーリスという男のはずだ。もしそうなら、例え俺達が殺したとしても。この結界が解けたり、あの化物達が襲って来ないという言葉は信じない方がいい。奴は、帝都の全てを吹き飛ばそうとした男だ」
「……だとしても、俺達はそうする以外に手段が無いんでな。だったら、お前等を殺すという選択肢を選ぶ」
「どうしてっ!? その
「出来ないから、こうやってお前等に
スネイクは睨みを向けながら右手に持つ
そうした言動を見せるスネイクを見ながら、ユグナリスは奇妙な面持ちを浮かべながら問い掛けを止めなかった。
「出来ない……というのは、どういう意味なんですか?」
「……」
「まさか、ウォーリスは貴方達にも奴隷紋を?」
「……ふっ、だったらどうする?」
「!」
「哀れで可哀そうな奴隷には、
「えっ」
「俺がこの世で、最も許せないことを教えてやる。――……それはな、自分を上に置きながら他人を
「!!」
突如としてスネイクに怒りの感情が見え、それと同時に人差し指に掛けられた
その瞬間に
そして次の瞬間、
その輝きは銃口の入り口に合わせた幅と細さで放たれながらも、まるで一本の水流が高密度に纏まるような
「クッ!!」
先程まで見せた魔力の弾丸と異なる
しかし先程の弾丸以上の威力で放たれた青い
「――……グッ、うわっ!!」
「落ちろ、小僧っ!!」
その拍子に外壁の内塀を飛び越え、足場を失ったユグナリスはそのまま五十メートル以上の高さがある内壁側へと落下していった。
壁からも離れて掴む場所も無いユグナリスは、落下速度を加速させながら下に広がる石畳の地面へ突っ込もうとする。
その僅かな数秒の時間で姿勢を戻し、身体全体に魔力と
「う……っ」
「――……ソニアといい、クラウスといい。ルクソード皇族ってのは、ムカつく野郎ばっかりだぜっ!!」
「!」
強化した肉体と分散した衝突の痛みを感じたまま立ち上がるユグナリスに対して、外壁の
そして宝玉部分を赤く輝かせ、連射するように赤い魔力の弾丸を連射させた。
その
そして地面へ着弾した赤い魔力弾が一瞬だけ膨張し、凄まじい爆発力を生み出しながらユグナリスが着地した周辺を吹き飛ばした。
それに留まらないスネイクは、銃口の向きを変えながら
「イオルム、火力を最大にしろ! 奴を丸焦げにするっ!!」
『――……』
苛立ちの籠った声で
すると着弾した地点から十メートル以上が爆発を起こし、ユグナリスの逃走経路を爆風と瓦礫で阻んだ。
「クッ!!」
足を止められたユグナリスは爆風と共に襲う大小の瓦礫を腕で防ぎながら、両足で跳び退く。
そして飛び退く場所を見抜くように、スネイクの銃口からは複数の赤い弾丸が新たに発射された。
「!?」
「
銃弾が放たれた
着弾まで一秒にも満たない時間に全ての弾丸の爆風から逃れられないのを瞬時に察したユグナリスは、表情を強張らせながら襲って来る弾丸を見上げた。
その瞬間、ユグナリスの直上十メートル程の位置で赤い弾丸に黄色い閃光が走り貫く。
すると赤い弾丸の全てが爆発を起こし、両者は目を見開いた。
「なにっ!?」
「あの
着弾前に全ての弾丸が爆発した状況に、スネイクは驚愕の声を漏らす。
逆にユグナリスは小さな微笑みを見せながら
それを見たユグナリスが声を発するよりも早く、エアハルトは次の行動に移る。
右腕一本と両脚のみで外壁を瞬時に登り終え、スネイクが立つ外壁の
それに気付いたスネイクは驚愕しながらも右手に持つ
「チッ!!」
青い
そして電撃の残した斬壮を
右手に力を込めながら
そこから跳び襲う電撃の斬撃が、スネイクの左腕と胴体を深く斬り裂いた。
「グゥ……ッ!!」
「――……貴様が、終わりだっ!!」
右腕を振り終わった姿勢で、エアハルトはそのまま左脚で床を蹴りながら前方へ跳ぶ。
そして右脚を前に突き出しながら右足の爪を鋭くさせながら、スネイクの胴体に蹴りを突き込んだ。
更に電撃を纏わせた右足が接触した事で、蹴りの衝撃と電撃がスネイクの肉体に深い損傷を与える。
跳び避ける空間も無く新たな弾丸も放てなかったスネイクは、そのまま口を大きく開きながら凄まじい速度で蹴り飛ばされた。
「ガ、ァ……ッ」
蹴り飛ばされたスネイクは、そのまま塀に激突しながら外壁の内側へ落ちていく。
完全に意識を失いながらも
それを見た瞬間、下に居たユグナリスは反射的に壁を駆け上る。
そして落下して来るスネイクの方へ跳び込み、両腕を突き出しながらその身体を受け止めた。
更に身体全体に身体強化を施し、そのまま地面へ着地する。
二人分の重さと落下の衝撃に耐えながら表情を僅かに歪めるユグナリスだったが、そのまま倒れずに堪えてスネイクを石畳の地面へ寝かせるように降ろした。
「……よかった、生きてる……」
それからスネイクが息を残しているのを確認したユグナリスは、口から溜めていた疲労感を漏らす。
すると外壁側から跳ぶように着地したエアハルトが、生きたまま倒れるスネイクとユグナリスを睨みながら低い声を向けた。
「――……どういうつもりだ?」
「……エアハルト殿」
「奴は敵だ。敵をどうして救う?」
「……敵かもしれない。でも、俺達と彼は同じなのかも」
「同じだと?」
「彼も恐らく、ウォーリスに従うよう強制されています。……見てください」
ユグナリスはそう言いながら、斬り裂かれたスネイクの服を破きながらその肉体を見せる。
すると後ろ腰の部分に奴隷紋が施されている状況を二人は確認し、スネイクがウォーリスの奴隷となっている事を知った。
そして奴隷紋を見るエアハルトが、更に険しい視線を見せながら声を向ける。
「……奴隷紋か」
「そうです。彼も無理矢理に従わされているのなら、殺す必要は……」
「それがどうした?」
「!」
「コイツが敵の奴隷なら、俺達を殺すように命じられているんだろう。その命令を果たせないのなら、どのみち
「……そ、それは……」
「コイツは危険だ、トドメを刺せ。――……貴様がしないなら、俺が
奴隷であるが故に
そして自らスネイクを殺そうと右手の鉤爪を伸ばしながら強化し、気を失ったスネイクの息の根を止めようとした。
一方で、奴隷紋を施され命令を強要されているスネイクを殺害する事を躊躇うユグナリスは、その行動を見て立ち上がる。
そして鞘に戻していた剣を右手で握り持ち、鉤爪の軌道に刃先を置きながらエアハルトの動きを止めた。
「……貴様、何のつもりだと聞いている」
「貴方に、彼は殺させない」
「なら、貴様が殺すのか?」
「いいえ。彼も、ウォーリスに従わされているだけの被害者だ。殺す必要は無いはずです」
「……貴様の偽善にはうんざりだ。
「
二人はそうした言い争いを見せ、互いに向かい合いながら睨む表情を見せる。
しかし二人は周囲に近付く気配に気付き、そちらの方向へ振り向きながら身構えた。
二人が意識を向けた先には、狙撃銃を構えた『
しかし一人の団員が狙撃銃を降ろしながら前に出ると、渋い表情を見せながら二人に頼み込んだ。
「――……ま、待ってくれ。スネイク団長を、殺さないでくれ……」
「貴方達は……」
「俺達は、傭兵団の『
「……貴方達にも、奴隷紋が?」
「いや……。奴隷紋を付けられたのは、スネイク団長だけだ」
「え?」
「俺達は、前回の任務に失敗して……。それで、雇い主から……あの化物から殺されそうになって……。でも団長は、俺達が殺されない為に……自分で奴隷紋を……」
「!」
「……チッ」
苦々しい表情で自分達の状況を話す『
それを聞いていたユグナリスは小さな驚きを見せ、エアハルトは苛立ちの籠る舌打ちを漏らしながら爪を引かせた。
こうして特級傭兵スネイクを倒したエアハルトとユグナリスだったが、生き残っていた『
それは『
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