不要な存在
夢とも思える深淵の底にて、赤い瞳を持つ何者かと対峙したアルトリアは謎の言葉を向ける。
それから現実で目覚めた後、その傍にはウォーリスが見下ろす形でうつ伏せになっているアルトリアに余裕の笑みを浮かべていた。
目覚めたアルトリアは朦朧とした意識の中で、起き上がろうと身体を動かす。
しかし思うように重く
「……こ、れは……っ」
「
「……ッ」
「
「ク……ッ!!」
見下しながら笑いを含む声で
そうした様子を見るウォーリスは、微笑みを引かせながら呆れるような言葉を漏らした。
「まだ反抗できる気力だけは、残っているらしい。……いっそ手足を切り取り、喋れぬように舌を引っこ抜いて、目や喉も潰してしまうか?」
「……ッ!!」
「私が欲しいのは、『
ウォーリスはそう述べながら声色を冷たくさせ、その言葉が本気である雰囲気を感じさせる。
それを聞いたアルトリアは僅かに視線を逸らした後、再び微笑みの声でウォーリスは話し始めた。
「自分の立場を理解したまえ。例え万全であっても、君は私に及ばない。……あのエリクのようにな」
「……エリク……」
「そう、君を救う為に現れたであろう、あの忌々しい鬼神の魂を持つ男。期待させるのも申し訳ないので、先に言っておこう。――……奴なら死んだよ」
「な……っ!?」
「そして、君の親族にも死んだ者がいる。誰が死んだと思う? ……皇帝ゴルディオスだ」
「……ッ!!」
「帝都の住民と集まった貴族達は喰われ、その頂点である皇帝まで殺された。……君が望んだ通り、ガルミッシュ帝国は滅んだのだよ。喜びたまえ」
「……グ、ゥ……ッ!!」
微笑みながらガルミッシュ帝国の終焉を伝えるウォーリスの声に、アルトリアは心の底から湧き上がる怒気を声から漏らす。
その様子を見下ろすウォーリスは、続ける言葉としてこのような事を言い放った。
「さて。私は次は、何をすべきだと思う? 生き残っているガルミッシュ皇族の殲滅するか、その親国であるルクソード皇国も襲ってみるか。どちらが良いだろうか?」
「……やめ……ッ!!」
「おや、御気に召さないかな? では君は、どうしたら良いと思う? 私で叶えられる事であれば、望み通りにしてあげよう。滅びしか望めない、『
「……だったら、アンタが死になさいよ……!!」
「ふむ、いいだろう」
「!?」
ウォーリスの言葉を聞いていたアルトリアは、憎々しい声でそう伝える。
それに応じるような返答を見せたウォーリスは、自らの右手に力を込めながら自分の胸を貫いた。
それによって飛び散る血飛沫がアルトリアの頬にも届き、床に滴りながら生み出される血溜まりを見せる。
思わぬ行動に驚愕したアルトリアだったが、それでも貫いた右手を胸から離したウォーリスは平然とした様子で話し掛けて来た。
「さぁ、死んであげたよ。一回ね」
「……アンタ……ッ」
「残念ながら、私はもう
「……!」
「人間や魔族、そのどちらでもない中途半端な魔人が持つような、半端な治癒や再生能力とは違う。到達者とは、まさに『
飛び散った血は蒸発するように消失し、貫いた心臓と胸が一秒も経たずに修復するウォーリスは、改めて自分が
そして
「……私の魂が欲しいなら、勝手に抜き取ればいいでしょ……っ!!」
「そうしたいのは山々なんだがね。今それをやると、呪印を施した肉体から君の魂が解放されてしまう。それでは魂を抜き取った瞬間、君は魂だけで自爆を試みる可能性は否めない」
「……ッ」
「やっと得られた『
「……時……?」
嬉々とした声でそう話すウォーリスに、アルトリアは疑問に思う言葉を呟く。
それを聞いているウォーリスは、高揚した気持ちのままアルトリアに教えた。
「五百年ほど前、魂と肉体が戻った『
「!?」
「その時期に、世界は
「……」
「それならば、
「……現象?」
「日食だよ」
「!」
「この
「……日食の時だけ、
「私も同じ結論に至ったよ。例えこの世界を創造した『
「……まさか、このタイミングでアンタ達が襲って来たのは……」
「そう、もうすぐ日食が訪れる。私が『
「……!!」
「君が『
「……ッ」
ウォーリスの言葉を聞くアルトリアは、最悪の状況でリエスティアの状態を改善させてしまった事を察する。
そうした情報を敢えて教えるウォーリスは、アルトリアに背を向けながら鉄扉のある方まで側へ歩き始めた。
「まだ少し時間の猶予がある。それまで君には、ここでゆっくり過ごしてもらおうか。協力的になってくれるのを期待してね。……例え非協力的でも、私は構わない。必要なのは、鍵となる君の魂だけだ。……逆に、魂など不要な鍵もあるがね」
「……まさか……!」
「今度は自我など芽生えぬように、ちゃんと管理しなくてはいけないな。その方が、鍵の役目として相応しい」
「……止めなさい……っ!! リエスティアは――……」
そう述べるウォーリスの足音を聞きながら、アルトリアは苦々しい面持ちで怒鳴る。
しかしその言葉を聞かないまま、ウォーリスは鉄扉を開けて閉める音を室内に響かせた。
その暗く檻に閉ざされた部屋に一人だけ取り残されたアルトリアは、呪印の影響で動かぬ身体で立ち上がろうと
しかし最初に言われた通り、魔力も扱えず脱力した状態が続く肉体では、独力で脱出するどころか立ち上がる事すらアルトリアには出来なかった。
こうして囚われたアルトリアは、
そしてもう一つの鍵である『
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