治まらぬ火
初代『赤』の
しかし本物のザルツヘルムは何処かに潜み、
それをユグナリスは迎撃して祓い、魔力を消耗した狼獣族エアハルトは
思わぬ形で共闘する二人は、ようやく互いの長所を生かす形で
一方その頃、会場から離れた帝城内部でも戦いは続いている。
しかし無尽蔵にも思える
「――……なんや、これ? 流石に居すぎやろ」
クビアが倒れている場所から一歩も動けないまま、次々と影を伝って押し寄せる
そして崩れていない壁や床、そして天井に張られた紙札の結界に
そうした
「はぁ。……いっそ、燃やしたるか」
「……えっ」
タマモの呟きを聞いたクビアは、驚きを漏らしながら目を見開く。
すると紙札を持ったタマモが四方へ紙札を散らすと、その紙札に火が灯りながら帝城内部に燃え広がり始めた。
それを見たクビアは上体を起こし、姉であるタマモに声を向ける。
「お、お姉ちゃん……何やって……」
「見たら分かるやろ。燃やすんよ」
「いや、燃やすって……。ここ、人様の
「こんな
「……相変わらず、短気ねぇ……」
見境の無いタマモの大胆な行動に、クビアは懐かしさを感じながらも冷や汗を漏らす。
他人の、しかも一国の城を燃やすなどという発想に至り実行する
そして四方に張られた紙札は炎が生み出されながら拡大し、更に天井を突き抜け
更に床にも伝わる炎によって、
「こうやって、要らんモノは燃やすに限るわ。……後は、この粗大ゴミやけど……」
燃える
するとタマモは炎に照らされる表情に影を落としながら、負傷し疲弊しているクビアに話し掛けた。
「それじゃ、さっさと里に戻りゃんせ」
「ま、待ってぇ!」、
「あぁ? 何を待て言うねん。五十年以上も遊び呆けてたんやから、もう十分やろ」
「い、今の私ねぇ、犯罪奴隷なのよぉ」
「……は?」
「だからねぇ、勝手にこの
クビアは背中に左手を回し、破れた
そして奴隷紋の制約で帝国外へ逃げる事が出来ない事を明かし、フォウル国に戻そうとするタマモの行動を慌てながら止めた。
それを聞いていたタマモは眉を顰め、燃え上がる炎で顔全体に影を落とす。
それを見上げながら怯えるクビアに対して、大きな溜息を漏らしながら呆れた声を漏らした。
「……アンタ、とことん間抜けやなぁ。……本気で呆れるわ」
「え、えへへ……」
「はぁ……。んで、契約が切れる言うんは?」
「今持ってる契約書をぉ、奴隷紋の
「集まってる?」
「ほらぁ、向こうに……えっ、何これ……?」
奴隷の契約を解除する為に奔走していたことを伝えたクビアは、会場の方角に右手の人差し指を向ける。
しかしいざそちらの方角から放たれる気配を感じ取った時、悪寒を強くさせながら険しい表情を見せた。
「
「……ホンマやな。さっきの
「
「その親玉んところに、アンタの契約主が居るってことやろ? ……生きてるんかいな、そいつ」
「……ちょ、ちょっとマズいかもぉ……」
クビアは改めて奴隷契約が解除できない危機が、
そして周囲に広がる炎の熱さも相まって汗を流すクビアを見ながら、タマモは再び溜息を漏らしながら決断を伝えた。
「しゃあない。ウチも行って、さっさとアンタの奴隷契約を解いて里に連れ戻す」
「お、お姉ちゃん……!」
「里に戻ったら、アンタにはドギツい仕置きや」
「……そ、それは嫌よぉ……」
「知らんわ。ほれ、
「ま、待っ――……あ、熱いっ! 火が熱いからぁ! ちゃんと歩くからぁ、
問答無用で歩き出すタマモは、クビアを引き摺りながら会場がある方角へ歩み出す。
タマモは床の絨毯に燃え広がる火に炙られるのを恐れ、首の襟を持たれながら歩いて会場へ目指し始めた。
一方で、壁を突き破り帝城の外へ追いやられた悪魔ベイガイルは、干支衆の『
悪魔が放つ
攻撃を受けるベイガイルは治癒すら間に合わず、それでもガイに向けて異形の拳と腕を振るいながら迎撃していた。
しかしガイによってベイガイルの拳は受け流されながらも、ただの風圧だけで城壁が砕かれ破壊される。
それを確認するガイは、改めてベイガイルの耐久性と破壊力に脅威を持ちながら接戦を見せていた。
「……マトモに喰らうのは、危険か」
「――……ギャァアアッ!!」
吹き飛んだ顔を再生させながら憎悪の叫びを向けるベイガイルは、更に肉体を膨張させながら巨大な両拳や足を放ち向ける。
しかし瞬発力と速度は遥かにガイが上回っており、ベイガイルの強力な殴打もまともに命中はしていない。
そうして向けられる右拳を捌いてベイガイルの顔面に左拳を叩き込んだガイだったが、ここで思わぬ気配を背後から感じ取る。
そして感じ取った悪寒と反射神経が意識よりも速く身体を動かし、身を翻しながらその場から離れた。
すると先程まで自分が立っていた場所に、影から出現した
その男はガイを狙ったと思われた剣を、そのままベイガイルへ深く刺し入れ心臓の位置まで突き抜けた。
しかし剣を突き刺す男は、ベイガイルに向けて呟くように言葉を伝える。
「――……ベイガイル。貴様に与えた命令を思い出せ」
「……ガ、グァ……!!」
「貴様の憎悪と憤怒を向けるべき相手は、コイツではない。――……貴様が滅ぼすべきは、ガルミッシュ皇族だ」
「……ァ……ァアアアアッ!!」
「!?」
ベイガイルに剣を突き刺した
すると剣を通じて何かを流し込まれるベイガイルは、その脳裏に憎むべき皇帝ゴルディオスの姿が思い浮かんだ。
この時に初めて、ベイガイルは目的意識のある憎悪と憤怒に思考が染まる。
そして
「ガルミッシュッ!! そして、ゴルディオオオオオオスッ!!」
「っ!?」
突如として叫びながら別方向へ移動するベイガイルの姿を見たガイは、それを追おうと加速しようとする。
しかしそれを阻んだのは黒剣を突き付け瘴気の鎧を身に纏い始める男であり、ガイが加速を始めるより速く回り込んでいた。
「!!」
「――……これ以上の邪魔は、困るな」
「……この男も、悪魔か。……いや、それ以上の……」
ガイは黒い瘴気の鎧を纏った
そして二人は向かい合いながら構え、互いに
こうしてフォウル国から赴く魔人達にも、僅かな状況の変化が見られる。
更に
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