伝わる閃光
『黄』の
それは凄まじい振動と衝撃を共和王国内部に生み出し、兵士達を含む多くの民を恐怖に近い困惑に陥れた。
更に共和王国のみならず、同じ大陸に構えるガルミッシュ帝国にも大地を揺らす程の振動が響き、共和王国と帝国に居た者達を震撼させる。
「――……な、なんだっ!?」
「地震……!?」
帝都に居た皇帝ゴルディオスと宰相セルジアスは、帝城内にてこの地震を感じ取る。
その揺れはとても大きく、まるで大地そのものが悲鳴を上げているのではと、後に帝国の民も語った。
その時、帝都の帝城に居た他の者達もいる。
「これは……何が……!?」
「リエスティア様!」
「ティア! 君は動かないでッ!!」
帝城の一室で、まだ瞼を閉じたまま
それを庇うようにユグナリスが寄り添い、同じく傍に居た侍女がリエスティアを庇うように身体を支えた。
しかし同じ一室に居ながらも悠然とした様子で立つ悪魔ヴェルフェゴールは、窓の外を眺めながら微笑みを浮かべる。
すると強い衝撃と共に吹き飛んできた石や枝が、窓の
「うわッ!!」
「きゃああっ!!」
ユグナリスは室内へ流れ飛んでくる硝子の破片からリエスティアを守ろうと
「ッ!!」
「……ア、アルトリア!」
「早く、その子を窓から離してッ!!」
「あ、ああっ!!」
襲うように吹き飛んできた
その指示を素直に従うユグナリスと侍女は、リエスティアを車椅子に乗せて家具の無い室内の奥へ移動させた。
一方でアルトリアは、ヴェルフェゴールが微笑みを浮かべながら窓を見続けている様子に苛立ちの声を向ける。
「この衝撃、共和王国の方角よね!? アンタの
「……とても綺麗な色ですねぇ」
「はあっ!? 何言ってるのよ……!!」
「
「!?」
「ああ、なんと綺麗なのでしょう。清き者の魂が、最後に見せる輝きとは……。ここまで流れ込んで来る魂の波動が、それを感じさせてくれます……」
「……魂の波動って……。……まさかこれは、魂を代価にした攻撃系の秘術……!?」
ヴェルフェゴールは
それを聞いていたアルトリアは、この衝撃と振動が魂を代価とした魔法である事に気付いた。
そうした気付きがある一方、この時に各国の
それは
「――……
老騎士ログウェルは帝城の壁から共和王国側の方角に視線を向け、右の手袋の中で自身の
そうして寂しそうな表情を浮かべる『緑』のログウェルだけではなく、ホルツヴァーク魔導国に居た『青』のもミネルヴァに起きた異変に気付いた。
「――……
「えっ?」
「
「ミネルヴァが……!?」
『青』は
そして『青』が居る研究室らしき場所には、ローゼン公爵領地の都市を襲撃した黒装束を纏う人物も居た。
更にアズマ国に居る『茶』のナニガシと『赤』の
しかし
「――……な、なんだ…? 急に光ったと思ったら、この熱さと不快な感じは……!?」
「……
「!?」
「"がりうす"と"ましら"が死んだ時にも、同じような感覚を
「
ナニガシから話を聞いたケイルは、この時期に死ぬ可能性がある
その思考はマギルスから聞いていた未来の話を思い出し、死んだ人物が『青』なのではと考えた。
本来の未来では、この時期に『青』は記憶を失ったアリアと接触しようとしていたらしい。
そうした中で何者かにアリアとの接触を阻まれ『青』が一度だけ殺されたという情報を聞いていたマギルスの話で、ケイルは死んだのが『青』だと考えた。
しかし、その時に死んだ『青』は本物ではない。
『青』と呼ぶべき本物はケイルが未来であった壮年の男性であり、マギルスもあの時の姿が『青』の本体だと話していた。
その本体が殺された可能性もあると考えたケイルだったが、不意に一人の人物が思考に浮かんでしまう。
それは
未来を知るからこそ元凶と呼べる
こうして秘かに
転移魔法で移動したクラウスとワーグナーを含む六十名余りの村人達は、唖然とした様子で地べたに座っていた。
「――……こ、ここは……?」
「どこ……?」
村人達は酷く疲弊した様子を見せながらも、周囲を見回して景色を探る。
そこは僅かに緑の自然を残した土地ながらも、小さな塀の内外には人が住んでいそうな居住地が見えた。
そして村人達がいる塀の内側には、教会と思しき建物が築かれている。
その教会の敷地に座っている事に気付いた人々は、自分の記憶を探りながらこの場所が何処なのか把握しようとしていた。
しかしそれを解き明かしたのはクラウスや村人達ではなく、彼等の前に座っていた人物。
ミネルヴァの聖紋が刻まれた右手を大事に抱えていた、白い髪を靡かせたシスターだった。
「――……ここは、フラムブルグです」
「!?」
「なに……!?」
「そしてこの教会は、私の……ミネルヴァ様が御育ちになった、孤児院です……」
「……!!」
シスターは背中だけを村人達に見せながら、自身に巻いていた腰布を巻き取る。
そして静かに立ち上がると、手に抱えるミネルヴァの右手を布で包んだ。
更に村人達の正面へ身体を振り向かせながら、座ったままのクラウスに声を向ける。
「……クラウス殿。ミネルヴァ様は、
「!」
「御自分の生命も、そして自らの
「……そうか」
「だからこそ、この繋がりを絶やしてはいけません。……あの方が託した
シスターは敢えて頭は下げず、クラウスに歩み寄りながら左腕にミネルヴァの右手を抱え持つ。
そして自身の右手を差し伸べながら、クラウスに助力を求めた。
それを聞いていたクラウスは、左手を支えに右手を伸ばす。
互いに右手で握手を交わした後、シスターは起こすようにクラウスを立たせながら頷いた。
クラウスはそれに応じるかのように、力強い瞳を見せながら尋ねる。
「ここは貴方の居た孤児院だという話だが、
「ええ。古くからの知り合いが、まだいるはずですから」
「ならば
「大聖堂へ……」
「そうだ。――……我々はフラムブルグ宗教国家を動かし、ウォーリスの野望を砕くぞ」
「はい」
クラウスの提案にシスターは頷き、共にウォーリスの野望を砕く事を決意する。
それがミネルヴァが信じた希望へ繋がると考え、クラウスに協力してベルグリンド王国第一王子ヴェネディクトを用い、フラムブルグ宗教国家の説得を行う道を示させた。
こうして『黄』の
それがどのような繋がりとなるのか、この時は誰にも分からない。
しかし託された者達は、この先に起こるだろう不安や怯えよりも、やるべき事を果たすという使命感によって強く繋がっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます