箱庭の秘密
マシラ共和国が在る大陸に流れ着き、ゴズヴァールと出会い闘士となったマギルス。
その出生の秘密が『青』の
自身の出生を思い出し、右目から涙を流すマギルスは『青』を見る。
その出生を明かした『青』は一度だけ頷いた後、再びマギルスに語り掛けた。
「――……どうやら、思い出したか」
「……なんで僕、忘れてたんだろ……?」
「恐らく
「魂が、融合なんてするの?」
「事例はある。しかし普通ならば、別々の個体が形成した魂が融合すれば長く無い間に破綻を起こし、魂と共に精神と自我が崩壊する事もある」
「!」
「故に、まだ不完全だった
『青』が事の起こりを説明し、マギルスという存在が生まれた過程を推測しながら話す。
それを聞いたマギルスは右腕の袖で涙を拭い、改めて『青』の顔を見上げる。
しかし先程のような涙は無く、今度は不敵に微笑むマギルスから『青』に話し掛けた。
「――……それで『青』のおじさんは、
「いいや。こうして
「えー。僕の身体、アリアお姉さんより強いかもよ?」
「ふっ」
「むっ。なに、その笑い?」
「
「むぅ! 今だったら楽勝だもんね! 試してみる!?」
「それよりも、出口へ向かうとしよう」
「えー! やろうよ! 再戦したい! さーいーせーん!」
「儂はもう、戦わぬよ」
「そんなこと言わないでさぁ! この作戦が終わったら、もう一度だけ僕と戦おうよぉ!」
「作戦?」
「あれ、そういえば言ってなかったっけ? えーっとね――……」
マギルスは『青』に状況の説明をしていない事を思い出し、手早く短めに自分達がここに来ている理由を話す。
歩みを戻した『青』は黙ってマギルスの話を聞き、それが終わった後に呟くように述べた。
、
「――……っていうのが、僕達の作戦!」
「……大胆な作戦ではあるが、確証も無い情報だけで見通しも無いまま
「む?」
「まず、
「え……?」
「機械仕掛けの
「劣化品? 完成品ってなに?」
「恐らくお前達が戦っていたのは、劣化ミスリルの
「うーん。確か、そんな感じの奴だったかも! 銀色のやつ!」
「アレも、儂の研究からアルトリアが奪った
「しすてむ?」
「ある条件を満たした時、箱庭の
「むぅ、起動したら何が起こるのさ? それくらい教えてよ」
頬を膨らませながら訴えるマギルスに、『青』は短い嘆息を漏らす。
そして通路の角を曲がった後、『青』は自分が知る事を教え始めた。
「……この内壁を覆う黒い金属。
「あの黒くて硬いのが? ……でも、凄い魔力は感じなかったよ?」
「お主は
「……うーん。無理かも」
「我々程度の存在と認識能力では、
「えっ、そんなにヤバいんだ。……じゃあ、僕は感じなくていいや」
「それがいい」
「それで、そのマナメタルっていうのがどうしたの?」
「
「!」
「
そう告げる『青』の言葉に、マギルスは表情を強張らせる。
今回の作戦で破壊目標となっていた二つを破壊しても、今のアリアを止める手段にはならない。
むしろ今の手足を切り取る事で、更に厄介な手足が生えて襲って来る可能性がある。
それを聞いたマギルスは考えながら進むと、唐突に立ち止まった『青』の背中にマギルスは顔から追突した。
「――……ぶっ。……ちょっと、なんで止まるの?」
「ここが出入り口だからだ」
「え?」
『青』の言葉にマギルスは首を傾げ、広い背中の横から顔を出して正面を見る。
そこは何も無い行き止まりの部屋であり、施設らしいモノも無い。
そんな部屋を出入り口と言う『青』に、マギルスは訝し気な視線と表情で聞いた。
「……扉も、何も無いじゃん!」
「扉など、ここには無い」
「じゃあ、出入り口じゃないってこと? ……僕を騙した? だったら首、取っちゃうよ?」
「騙してなどいない。……この部屋の中心に来なさい」
「えー……」
そう言いながら部屋の中心部に歩み進む『青』に、マギルスは訝し気な表情のまま付いて行く。
そして二人が部屋の中心に辿り着いた後、『青』の持つ錫杖に刻まれた紋様が光りだし、それと同時に部屋全体が魔法術式を模った紋様を浮かび上がらせながら白い光を放ち始めた。
「!」
「転移の魔法陣。儂が刻んだモノだ」
「これが転移魔法なの?」
「そうだ。この
「なるほどね。転移魔法がドア代わりなんだ」
「そうだ。……では、行くぞ」
「あっ、ちょっと待って!」
「?」
「もう一つ、聞きたい事があったんだけどさ。僕が入って来た
「……いいや、違うな」
「そうなの?」
「恐らくそれは、死者の魂を
「……死者の魂を、凝縮?」
「儂の研究を奪ったのならば、アルトリアは殺した者達の魂を集め、アレも作り出そうとしているはず」
「アレって?」
「儂が考案し、あの砂漠で実験していた対魔族用の兵器だ」
「!」
「死者の憎悪。それによって魂から生み出される瘴気は大地を
「……エリクおじさんが言ってた。僕達が
「恐らく
「じゃあ、壊した方がいいかな? 戻っていい?」
「迂闊に壊さぬ方がいい。お前達が地上の者達を救いたいのならな」
「どういうこと?」
「アレを破壊する場合、下手をすればこの都市だけではなく、地表の人間大陸全てが漏れ出た瘴気に覆われ、死の世界となるだろう」
「!」
「儂を言葉を信じられぬなら、壊すとよかろう。儂は止められる立場ではない」
そう告げる『青』の言葉に、マギルスは少し考えながら首を捻る。
そして何度か唸る様子で悩んだ後、マギルスは目と口を開いた。
「……うーん。いいや、壊さない! ……でも、それじゃあ。
「箱庭そのもの。
「えー。じゃあ、壊せないの?」
「箱庭を起動し権限を掌握しているアルトリアを殺すか、あるいは従えさせる事が叶えば、浮遊機能も停止し都市は落下するだろう。それはあり得ぬがな」
「そうなんだ。……じゃあ、アリアお姉さんを殺すしかないのかぁ」
「……では、行くぞ」
「はーい!」
マギルスは赤い
それに応じた『青』が錫杖を振った瞬間、部屋全体に施された術式が再び輝き、二人の周囲に白い魔力の粒子が集った。
そして数秒後、二人の周囲の結界が張られながら姿が消える。
こうしてマギルスと『青』は、転移魔法で地下から脱出する事に成功した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます