マギルスの正体
兵士達が目撃した地上都市の変化が起こる、少し前。
長身の『青』の後ろを移動するマギルスは、変わり映えのしない通路の光景に見飽きて『青』の背中を見ながら歩く。
そんなマギルスに対して、『青』は不意にこんな事を話し始めた。
「――……マギルスと言ったか」
「うん?」
「三十年程前。儂はマシラで、お
「えーっと……アリアお姉さんが来た時? そういえば、『青』のおじさんも居たんだっけ」
「うむ。……儂はその頃、組織を動かしながら皇国のランヴァルディアを支援し、国から出たアルトリアを注視していた」
「それと僕が、何か関係あるの?」
「いや。その二つの件は、お主に何の関係も無い。……関係があるとすれば、儂とお主の関係であろう」
「僕とおじさんが? 僕、皇国以外でおじさんと会った事ないよ?」
「儂も今のお主とは、その時に初めて向かい合った」
「じゃあ、僕と『青』のおじさんは何も関係ないじゃん」
唐突な『青』の話題に、マギルスは首を傾げながらそう話す。
それを聞いていた『青』は歩みを止めずに、背中を見せたまま話を続けた。
「……儂の
「おじさんの身体を元に作った人間だっけ?」
「厳密に言えば、
「純粋じゃない細胞?」
「人が子を成すのと同じように、儂は種と種を生み出す為に遺伝子配合を行い、儂の魂に適した
「……言ってることが分かんない。もっと分かり易く!」
「
「!」
「組み合わせる人間は、儂が過去に採取した優秀有能な者達の遺伝子を含む細胞。その中で幾つかの失敗を繰り返し、時代毎に適した複製を作り続けた。……そして失敗作とも言うべき
「ふーん」
「……しかし、ある年。儂が製造していた
「行方不明? なんで?」
「
「へぇー。でも、なんで
「
「自我?」
「意思、とも言うべきか。……その行方不明になった
「ふーん。よっぽどおじさんの
「そうらしいな。……なにせ、今は別のモノを
「別のモノ?」
そう話す『青』の言葉に、マギルスは不思議そうな表情を浮かべる。
そして立ち止まり後ろを振り向いた『青』は青く長い髪を靡かせ、マギルスの青い髪とその顔を見て告げた。
「――……その行方不明の
「……え?」
「お主を初めて見た年より十数年前。儂は
「……」
「お主の青い髪、そしてその顔や姿。儂の幼い頃の姿と一致する部分が多い。……あの時に見たお主の成長した姿を時期的に見ても、儂が作り出した
「……そんなの、嘘だよ」
「儂も皇国でお主と対峙した時、まさかあの時の
「憑いてるって、なに……?」
「自覚が無いのか?」
「だって、僕。気付いたら魔物とか魔獣がいっぱいの森に居て、傍に
「
「!」
「どうやらお主が選んだのは死体でも鎧ではなく、儂の
「……」
『青』にその事を告げられたマギルスは、衝撃のあまりに言葉を失くす。
そしてその言葉がきっかけとなり、記憶の片隅に残る僅かな記憶が脳裏に浮かび上がった。
それはまだ、自分が
とある孤島の樹海で彷徨う、自分に似た少年の姿だった。
『――……ハァ……。ハァ……』
その時に樹海の中を彷徨うように歩く青髪の
培養液内で一定の年齢まで育ち、まだガンダルフと呼ばれていた当時の『青』によって転移し実験場として孤島に連れて来られた後、その
虚ろな目をした
そして孤島の外側を移動し、崩れた崖に足を取られて海の中へ落下した。
そしてそのまま流され続け、何も飲まず食わずで二日程を海の上で過ごした。
そして二日後の夜、
力の入らない身体を動かせず、虚ろな目をしながら
そんな時、
それが
『――……たい……』
『……』
『……いき、たい……』
そう呟き、虚ろな目で涙を流す
そしてその願いを叶えるかのように、
数分後、
その身体には傷は残っておらず、またその傍には身体より大きな大鎌が砂の上に置いてあった。
そして青い髪を揺らしながら周囲を見回し、その少年は首を傾げて呟く。
『……ここ、どこだっけ。……僕、誰だっけ……?』
『――……ヒヒィン』
『うわっ! お前、誰!?』
『ブルルッ』
少年はここが何処なのか、そして自分が誰なのかすら分からない。
そして傍に居た透明な青い馬を見て驚き、傍に落ちていた大鎌を拾い、近くの大森林で過ごす事となった。
そこで数多の魔物や魔獣と戦い、大自然の中で少年は生き残る。
そして娯楽も無い森の中で戦いを遊びとし、倒した魔物や魔獣を喰らい、同じ大陸に居たゴズヴァールが赴くまで俗世と離れた生活を送っていた。
そして九年後。
その大森林の中で魔獣を狩る子供が目撃され、その報告が同じ大陸に在るマシラ共和国に届く。
噂の内容から魔人である可能性を考えたゴズヴァールは直接その場所に赴き、青髪の少年と出会う事になった。
「――……!」
それを思い出したマギルスは、右目から涙が零れている事に気付く。
涙を拭うように右手の人差し指を這わせると、マギルスは振り絞るような声で呟いた。
「……そうだ。僕は……」
「……」
「僕は、海に落ちて。……それから、あそこに辿り着いて……」
「……」
「……そうだ。僕は、あの時に『
マギルスはそう話しながら、『青』に視線を向ける。
『青』はマギルスの気付きと片目から涙を流す姿を見て、静かに顔を頷かせた。
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