皇国の後継者
新たなハルバニカ公爵家の後継者が発表され、会場の中は意気揚々と沸き立つ。
その次期公爵であるダニアスが一礼してから頭を上げると、沸き起こる拍手は止まった。
そして改めて、老齢のハルバニカ公爵が喋り伝える。
「……儂は今回の事件で老いが深くなった。後は若々しい者達に引き継ぎ、新たな皇国を築いてもらおうと思っている。……その上でもう一つ、皆と話し決めねばならぬ事がある」
「……?」
「新たなるルクソード皇国の王。第二十二代皇王の選定を行う必要がある」
「!!」
そう告げるハルバニカ公爵の言葉に、皇国貴族の一同が新たな動揺を浮かばせる。
今回の事件で処刑された女皇ナルヴァニアの死後、ルクソード皇国には皇族が存在しなくなった。
唯一皇国内に残っていた皇族はランヴァルディアだったが、彼も今回の事件で首謀者の一人として関わり死亡している。
『赤』のシルエスカも先々皇の長女だったが、『赤』の
そうして今現在、ルクソード皇国内に皇王となれるルクソードの血筋は存在しない。
それについて、ハルバニカ公爵は話し始めた。
「本来ルクソード皇国の皇王は、初代『赤』の
「……ッ」
「先皇エラクが病床に伏した際、皇族の多くは後継者争いという名目で殺し合いを始めてしもうた。それは幾つかの同盟国を巻き込み、傘下国やルクソード皇国内外で戦争が起きた。そして幾つかの傘下国が滅び、幾つかの国は衰退しながらも生き残る結果となった」
「……」
「儂が知る限り、その戦争を勝ち抜き国の衰退を起こさず、ルクソードの血を継ぎ生き残ったのは、一国に集う五名のみ」
「……!!」
そこでハルバニカ公爵は右手を上げ、手の平を広げて五本の指を見せる。
そして候補者が集う国名と、候補者である三名の事を指を曲げ降ろしながら話し始めた。
「国の名は『ガルミッシュ帝国』。資格を持つ皇族達の名は、現ガルミッシュ帝国皇帝ゴルディオス=マクシミリアン=フォン=ガルミッシュ。そしてゴルディオスに嫁いだ先皇の娘クレア=リングベル=フォン=ガルミッシュ。その子供である皇子ユグナリス=ゲルツ=フォン=ガルミッシュ」
「!」
「この三人の名を先に挙げたが、彼等はガルミッシュ帝国で既に皇帝と皇后として年齢を重ね、その息子であるユグナリスは皇帝を継ぐ事が決まっておる故、候補者から辞退する事が以前より伝わっておる。故に、候補者から外す」
「……!」
「残りの候補者は二名。ゴルディオスの弟クラウス=イスカル=フォン=ローゼン。その子供達じゃよ」
「!」
「お前さん達も聞き覚えがあるじゃろう? 約三十年前に『
そこまでハルバニカ公爵が告げた時、エリクとケイルは驚きの表情を浮かべる。
そして周囲を見渡し、ある人物を急いで探した。
この時になって、エリクとケイルは理解する。
彼女がこうなる事を知った上で、この場へ赴いていた事を。
その間にも、ハルバニカ公爵の口から候補者に関する情報が明かされていった。
「一人は、クラウスの息子セルジアス=ライン=フォン=ローゼン。しかし彼は先年、内乱にて戦死したクラウスに代わりローゼン公爵家を継ぎ、次期ガルミッシュ帝国の皇帝となるユグナリスを支える事を儂に書状で伝え、自ら候補者から辞退した」
「……!!」
「残るは一人。同じくクラウスの娘――……」
「!?」
ハルバニカ公爵は話しながら最後の小指を曲げて拳を握り、改めて手の平を広げて差し出すように前へ出す。
それに応じて歩みを進める白いドレスを纏った一人の少女が、シルエスカが控える踊り場へと姿を晒した。
エリクは人を掻き分けるように歩み、ケイルもその後を追う。
そして最前列へと来た二人は、踊り場でシルエスカと並ぶ少女へ強張った表情を向けた。
「――……皆に紹介しよう。この子が、アルトリア=ユースシス=フォン=ローゼン。今回の事態で皇都の窮地を救った、ルクソード皇族の血を継ぎし最後の候補者だ」
「アリア……!?」
ハルバニカ公爵が高らかにアリアの真名を告げ、踊り場に出て来たアリアへ手を指し示す。
集まっていた皇国貴族がその少女に視線を向け、その中に混じるエリクが鈍く低い声でアリアを呼んだ。
前に立ったアリアは微笑みを浮かべる。
しかしアリアの瞳は寂しさを宿し、それが秘められる表情から小さな言葉が呟かれた。
「……ごめんね」
アリアの儚げな呟きは、会場に居る皇国貴族達が生み出す拍手の音で覆い尽くされる。
しかしエリクにはアリアの声が聞こえていた。
ルクソード皇国の皇王選定。
ルクソードの血を受け継ぐ者達はミドルネームを与えられ、ルクソード皇国の後継者としての資格を得る。
その中から最も秀でている事が認められた者が選定され、次期皇王として君臨する事もなっていた。
アリアが旅を続ける一年間、誰にも明かさなかったこと。
彼女もまたルクソード皇国という
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます