奇跡の光
『青』のガンダルフの思惑は崩れ、シルエスカとマギルスの援護の下でエリクが討伐を果たす。
ガンダルフの死体が偽物ではなく本物であると確認したシルエスカは、地面へ座るマギルスとエリクに声を掛けた。
「――……このガンダルフは本物だ。討伐助力に、感謝する」
「はー、やっと終わったぁ。右腕、無理矢理くっ付けたから凄く痛い!」
「無理をするな。先程までランヴァルディアと戦い、ガンダルフとも戦ったのだ。無事な方がおかしい」
シルエスカはそう労い、二人を休ませながら周囲を見渡す。
皇都の西側の地形は戦いで変化する程の激戦であり、皇都の惨状も復旧を見通せば数年単位の時間を有しそうな程の被害状況。
それだけの脅威と対しながら、
そしてアリアを乗せた首の無い青馬がマギルスに近付き、身体を近づけて触るように催促する。
それをマギルスは慣れたように左手で青馬を触り褒めた。
「はいはい。お前もよくやったよね」
『ブルルッ』
「……今更だが、その馬は
「そうらしいよ? 僕も詳しくは知らないけど、アリアお姉さんがそうだって言ってた」
「そうか、世には不可思議なモノがまだまだ多いのだな。……どれ。今一度、触らしては……」
シルエスカは青馬に近付き、興味深そうに観察する。
しかしシルエスカが伸ばす手に触れたくないのか、青馬は僅かに下がり避けてしまう。
それに小さな驚きと悲しみを受けるシルエスカに、マギルスは笑いながら言った。
「僕が命令しないと、乗れないし触れないよ?」
「そうなのか。中々に忠義の厚い馬よ」
「へへぇ。足も速いし疲れないし、アリアお姉さんも便利だって言ってた」
「ふむ、一匹欲しいな。このような馬は何処で生息しておるのだ? 赤色の個体もおるのか?」
「知らなーい、気付いたら僕の近くに居たんだ。仲間もいるのかも知らないよ?」
「そうか。残念でならぬな」
そんな会話をシルエスカとマギルスが行う中で、全身から血を流すエリクが立ち上がり歩き出す。
それを見たシルエスカは制止しようとしたが、歩き向かう場所に何があるかを察して声を掛けなかった。
エリクが向かったのは、胸を貫かれ死んだケイルの遺体。
生気を失い横たわるケイルを静かに見るエリクはそのまま遺体の顔を触り、声を震わせながら呟いた。
「……ケイル。何故、俺を……」
声を震わせたエリクが表情を僅かに歪め、目から零れるような涙を流す。
そしてケイルの遺体を優しく抱えたエリクは、シルエスカ達が居る場所に戻って来た。
「其方等の仲間か?」
「……ああ」
「そうか。……その娘は、我の責任において丁重に弔おう。皇国を救った、一人の英雄として」
「……」
シルエスカはケイルの遺体を見て頭を軽く下げて礼をし、感謝の意を表す。
マギルスもケイルの遺体を見て少し寂しそうな表情を浮かべ、エリクは涙を流しながら悔いを残す表情で顔を伏せた。
その時、虚しく風が吹く場に一つの足音が鳴る。
それに気付いたシルエスカは音の鳴る方へ顔を向けると、憂いる顔が驚愕の表情へ途端に変わった。
「――……なんだと!?」
「!」
「……えっ!?」
シルエスカの驚く声にマギルスとエリクも気付き、そちらへ顔を向ける。
それを見た二人も驚愕の表情と声を表し、目の前にいる人物に最大の警戒を向けて立ち上がった。
歩み寄って来るのは、死んだはずのランヴァルディアだった。
「ランヴァルディア、生きていたのか……!?」
「嘘でしょ!? さっき死んだじゃん!?」
「……ッ」
シルエスカは身構え、マギルスは驚きながらも大鎌を構えた。
そしてエリクはケイルの遺体を優しく地面へ置いた後、大剣を握り締め満身創痍の身体で向かい合う。
白髪となり生気を感じない身体で歩むランヴァルディアは、三人が構え向かい合う中で足を止めた。
「……安心していい。私は、もう戦わない」
「!」
立ち止まったランヴァルディアが微笑みながら話し掛けると、三人は強張った表情で固まる。
その微笑みを浮かべる顔は優しさに溢れ、死ぬ直前と同じく安らかな表情だった。
「……ははっ。向こうで、ネリスに怒られてしまったよ。まだやり残した事も、あるだろうとね。叩き帰されてしまった……」
「……」
「最後に、私の犯した事の清算をしないとね……」
そう言いながら歩き近付くランヴァルディアに、シルエスカとマギルスは身構えて戦おうとする。
それを止めたのは、大剣を地面へ突き刺し構えを解いたエリクだった。
「二人とも、止めろ」
「!」
「あの男は、本当に戦う気が無い」
「信じるの?」
「ああ」
エリクはランヴァルディアから先程まであった焦燥感が消え、満ち足りた表情と共に柔らかな雰囲気を持つ事で、口に出す言葉が嘘ではないと確信する。
それでも警戒を残す二人だったが、エリクの言葉を信じランヴァルディアの歩みを妨げずに道を譲った。
ランヴァルディアが辿り着いたのは、ケイルの遺体。
そして皇都の方にも顔を向けたランヴァルディアは、優しく微笑みながらケイルを見た。
「……向こうで、君のお姉さんにも会ったよ。まだ君には、来ないでほしいそうだ」
「……?」
「まだ、私の身体に残る『神兵』の力。それを全て……」
そう呟くランヴァルディアは、自身の肉体に残るオーラを輝かせる。
オーラの光が小さな粒子となって四散し、皇都の方へと流れていった。
そしてランヴァルディアの肉体は崩れるように白い灰となり、微笑みながらエリクを見る。
「今度は、大事なものを守るんだよ。いいね?」
「……お前は……」
「私は、もういいんだ。……大事なものは、向こうにちゃんとあったから……」
「……」
「さようなら、戦士エリク。アルトリアやこの子は、君が――……」
満ち足りた表情で話すランヴァルディアの身体は、全てが灰となり崩れ落ちた。
そして灰から漏れる最後の光が、ケイルの遺体へ降り注ぐ。
その瞬間、ケイルの遺体に暖かな光に包まれた。
それを驚きながら三人は見つめると、ケイルの胸に空いた穴が修復され無傷の状態へと戻ったのだ。
この時の三人は知る由も無かったが、皇都で死んだ一部の人間達が光を浴びると、同じように修復され肉体が戻る。
瓦礫などで押し潰された遺体や焼死した遺体も、光に触れた瓦礫から植物が生まれ、瓦礫を押し退けて遺体を全身を修復し元に戻した。
そして修復された死者の身体を覗き込む者達に、更なる驚きが生まれる。
死者だった者達が息を戻し、まるで眠っているかのように呼吸をしていたのだ。
それはケイルも同様であり、穴の空いた胸や身体全体の傷が修復した後、止めていた呼吸を戻し肌に生気が戻り始める。
それにエリクやマギルスは驚愕を浮かべ、シルエスカは灰と化したランヴァルディアの遺体を見た。
「……ランヴァルディア。お前は……」
一つの風が訪れるとランヴァルディアの白い灰が運ばれるように舞い、空を駆け抜け散らばるように地形の変わった土地へと降り注ぐ。
そして地形が様変わりした土地はランヴァルディアの灰によって修復され、緑を宿し豊かな土地と変化した。
こうして、ルクソード皇国の騒乱劇は終息を迎える。
アリアとエリク達が入国してから、僅か二ヶ月余りの出来事だった。
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