波乱の予兆
新たな服を購入したアリア達は、食堂に戻り昼食を済ませた後にそれぞれの部屋で買った服を着た。
それを御披露目する為に全員が揃い踏みとなる。
「どぉ? 似合う? 似合うかな?」
「はいはい、似合ってるわよ」
黄色い闘士の服から変わったマギルスの服は、深い青に染められた布地の動き易い服。
その上に同じ色合いの厚着を纏い、刃の部分を折り畳んだ大鎌を背負える鞘を購入した。
新たな服を披露して自慢するマギルスをアリアは適当にあしらい、エリクを見た。
「エリクも、やっぱり黒が似合うわね」
「そうか?」
「それは普通の布と違って、強引に伸ばしても破れない弾力性の高い綿糸で編まれてるのよ。これで前みたいにすぐに破けちゃうことは無いはずよ」
「そうか、それは助かる」
「上のコートも同じ素材で選んだわ。散髪もして髭も剃ったし、男前になったわね」
エリクの服は以前と同じように、外套を含めて黒染めの布で統一された。
デザインは単純ながらも、服に使用されている素材は一級品。
それ故にエリクの服だけでも金貨数十枚が吹き飛んだが特に気にする事もなく、今度はケイルの方を見た。
「……ケイル。どうして男みたいな服を選んだの?」
「別にいいだろ」
「やっぱり、今からでも私が選んで……」
「アタシはこれでいいんだよ」
「スタイルは良いんだから、もっと身体のラインが栄える服が良いわよ。恥かしいの?」
「うるせぇ、殴るぞ」
ケイルが自分で選んだ服は、長い上下の服は茶色の地味な服であり、上に羽織る茶色のコートもゆったりとした大きさで身体のラインを隠している。
女性としての魅力を隠し、男ような格好をするケイルにアリアは苦言を漏らした。
そんなアリアに、今度はケイルから訝しげな視線が向けられた。
「お前こそ、なんだよそのチャラチャラしたのは」
「チャラチャラって何よ。動き易くて温かいのよ?」
「肌、見えすぎじゃねぇか?」
「見えてないでしょ? 腕も脚もカバーで隠してるし。これ、伸び縮みして防寒にもなるから便利なのよ?」
「……魔法師に見えねぇぞ」
「魔法師に見られない為でしょ?」
アリアが購入した服は以前のような魔法師然としたものではなく、カジュアルな装いで部屋着にさえ見える。
黒い上下の服と短パンを着た後、薄く弾力性の高い黒絹布で腕と脚を覆い守る。
コートは逆に白色の繊維で編み込まれた物にし、内側には短杖を収納したホルスターを隠している。
全体的に色はシンプルながらも軽装へ変化していた。
全員の服装が一新されたのを把握すると、アリアは次の事を決めた。
「次は武具ね。エリクのはゴズヴァールとの戦いで全て破壊されちゃってるから、一から全部購入よ」
「ああ、分かった」
「ケイルも、あの狼男と戦って装備もボロボロに半壊してるから、どうせなら一緒に買いましょう」
「……まぁ、最低限の整備は必要か」
「マギルスはどうする? 防具、要るの?」
「うーん。要らないけど、どんなのがあるかは見たい!」
「じゃあ、明日は皆で武具を買いに行きましょう。今日は自由行動をして、夕暮れにはここに戻って食堂で夕食ね」
「はーい! 僕、街の中を見物してくる!」
「はいはい、騒動は起こさないでよ。何か買う時はさっき渡したお小遣いを使いなさい。エリクは?」
「俺は、アリアの傍にいる」
「いつも通りね。ケイルはどうする?」
「アタシは、ちょっと行きたい場所がある。夕食時を過ぎて戻らなくても気にすんなよ。朝までには戻る」
「分かったわ。私も買った服と靴を馴染ませたいし、少し町の中を歩こうかしら。エリク、行きましょう」
「ああ」
各自が別れ、皇都で自由行動をする。
アリアとエリクは街の中を歩き、適度に露店や商店の中に入り様々な物を見た。
マギルスは以前に通った路地の先を微笑みながら通り、ケイルはフードで顔を隠して街の裏側へ向かう。
その日の宣言通り、ケイルだけが夕食時には戻って来なかった。
しかし深夜になる前にケイルは戻り、部屋のベットの静かに潜る。
起きたアリアはケイルに声を掛けた。
「……ケイル、戻ったの?」
「ああ」
「情報収集、お疲れ様。どうだった?」
「あの町の傭兵ギルドは、アタシ等の事をこの皇都には伝えて無いらしい」
「そう。……結社の情報は、何か掴めた?」
「そっちも、目立った情報はねぇよ。……ただ、気になる情報は幾つかあった」
「気になる情報?」
「この国の
「『赤』のシルエスカが?」
「ああ。七大聖人がわざわざ動いてるとなると、只事じゃなさそうだな」
「他には?」
「
「?」
「帝国の内乱は終息して、王国との戦争も終わったってよ」
「!」
「王国側はローゼン公爵死亡の報告を聞いた後に手早く引いて、内乱貴族領は皇帝や皇子を押さえられずに空中分解したらしい。今は内乱の処理に入ってて、行方を眩ませた反乱貴族達を探してるみたいだ」
「……国外逃亡?」
「いや。傭兵ギルドが依頼を受けて、外国に逃げようとする反乱貴族達は大体が捕まったらしい。それでも生死不明の反乱貴族が多くて、帝国は各領の治安維持をしながら探してるらしいぜ」
「……そうなの」
それを聞いたアリアは、事態の推移を不可解に思った。
王国軍がどういう意図で今回の内乱に参加したのか理解できない。
反乱に加担する事でローゼン公爵を殺し、国境沿いの領地を奪うだけでも十分に王国側にも成果はあると考えるべきか。
それとも、別の意図があると考えるべきなのか。
そこまで自然と考えていたアリアは頭を振り、その思考を止めた。
「今の私が考えても、しょうがないわね」
「……お前が戻らないって決めた旅だ。でもこの話を聞いたら、また立ち止まりそうだったから言うか迷った」
「……教えてくれてありがとう。ケイル」
「別に。聞いたついでだ」
「他に、気になる情報は?」
「特には無いな。……とりあえずこの国では、
「はいはい、分かってますよ。トラブルメーカーでごめんなさいね」
「マギルスとも、出来るだけ喧嘩すんなよ」
「……」
「おい?」
「……私、マギルスを仲間にしたつもりは無いからね」
「……そうかよ。んじゃ、おやすみ」
意固地を見せるアリアに、呆れたケイルは寝静まった。
アリアも静かに就寝し、その日を終える。
次の日。
一行は再び街に出て武具屋のある区画へ向かっていた。
その道中、マギルスがこんな話をした。
「アリアお姉さん」
「なに?」
「お金って、今はどのくらいあるの?」
「……どうしたのよ、急に」
「どのくらいあるの?」
「……白金貨が七枚と、金貨が五十八枚。銀貨と銅貨はぼちぼちね。それがどうしたのよ?」
「そっかぁ。ねぇ、白金貨二枚ちょうだい!」
「嫌よ。この間、お小遣い渡したでしょ?」
「アレじゃ足りなかったんだもん」
「何か買おうとしてるわけ?」
「うん!」
「何を買いたいのよ?」
「秘密!」
「……」
「それじゃあさ。いっぱいお金を稼げる方法って?」
「傭兵なんだから、傭兵の仕事をすればいいでしょ?」
「傭兵の仕事かぁ。どのくらい貰えるの?」
「傭兵ギルドに行けば、仕事の依頼書とかがあって報酬金額が載ってるわよ。でもアンタ、五等級傭兵だからそんなに稼げる仕事は無いんじゃない?」
「えー、なんで?」
「階級で仕事が分けられてるのよ。私やエリクは二等級、ケイルは三等級まで受けれるけど、五等級のアンタは五等級の仕事しか出来ないの」
「えー。じゃあ、あんまり貰えないの?」
「三等級以下は報酬金額を大分割かれるみたいだし、貰えても銅貨数十枚か銀貨十数枚程度の仕事でしょうね」
「えー。そんなんじゃあ、全然足りないや」
唐突に金銭に執着を見せ始めたマギルスに、アリアは怪訝な表情を見せる。
それを並び歩いていたケイルが、思い出すように呟いた。
「……そういえばお前等。この機会に傭兵の仕事をしといた方が良くないか?」
「私達?」
「そうだよ。お前等、傭兵ギルドの規約を忘れてないよな?」
「何か注意すること、あったかしら?」
「更新自体は二年間しないと抹消されるけど、一等級以下の傭兵はギルドが斡旋する依頼を半年以内に一件もしないと等級が下がるんだ。アタシ等がマシラまでの護衛任務を終わらせてから三ヶ月以上は経ってるし、そろそろギルドの仕事をしといた方がいいぞ?」
「そういえば、そんな事を言ってたわね」
「武具屋の近くが傭兵ギルドだから、ついでに寄ろうぜ。アタシ等とマギルスの依頼も一緒にな」
「マギルスの?」
「高い階級傭兵が低い階級傭兵と組んで仕事をしても特に問題は無い。お前等が魔獣討伐の仕事を受けてマギルスにも斥候なり荷物持ちなりで手伝わせたと報告すれば、マギルスも仕事をしたってことになるんだよ。金が欲しいなら、中級魔獣か上級魔獣の討伐報酬と魔獣の素材をギルドに卸せば、金貨の百枚や二百枚はすぐ集まるだろ」
「そうなの!? アリアお姉さん、傭兵の仕事したい!」
「えぇ……」
「いいじゃん! 仕事させてよ! さーせーてー!」
ケイルの言葉で大金を稼げると知ったマギルスは、面倒臭そうなアリアに頼み込む。
道端で騒ぎ始めたせいで周囲の視線が集まり始めた事に気付くと、ケイルがアリアに小声で伝えた。
「やらせてやれよ。コイツ、滅茶苦茶強いんだからさ」
「それは、そうなんだけど……」
「このまま駄々捏ねられるより、幾らか暇潰しに仕事やらせて金も稼げば、文句言う事も無くなるだろ?」
「……」
「どっちにしても、この国に居る間に一度は仕事をしといた方がいい。これから本格的に寒くなって雪が降る外で仕事をやらされる前にな」
「……分かったわよ。分かりました。後で傭兵ギルドに行って、仕事を探すわよ」
「やったー!」
ケイルの進言にアリアは同意し、防具屋の後で傭兵ギルドに行く事を約束する。
その返事でマギルスは喜び満足して、その後は鼻歌混じりにアリア達に同行した。
そして一行は、様々な武具を取り揃えた店に辿り着いた。
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