囚われの元公女
エリクがアリアを取り戻す為に、マシラ王と闘士達の住む王宮に乗り込む決意をした頃。
一方の捕えられたアリアは、王宮のとある一室に閉じ込められていた。
しかしその場所はエリクやケイルが想像するような牢獄ではなく、とある塔の最上階にある室内であり、一定の生活環境が整えられた部屋だった。
その部屋の室内に閉じ込められたアリアは、着用していた装備や荷物を没収され、旅装束すら傍に控える侍女に着替えさせられ、白い布服を身に纏っている。
しかし腕は体の正面にで固定され、魔道具の手錠を着けられてた状態になり、手錠の効果で普通の魔法が使えない状態にされていた。
そんなアリアの目の前には、アリアを拘束した大男の闘士が椅子に座りながら、睨み合いように互いに向き合っていた。
その睨み合いの中で、アリアが悪態に近い質問を投げつけた。
「……なんで私を、牢獄からこんな場所に拘束し直したの?」
「……」
「牢獄からここまで移動する時に分かったわ。ここって、マシラの王宮よね」
「……」
「黙ってないで、何か喋りなさいよ」
黙ったままの大男を前に、アリアは怯える様子も無く問い質した。
そのアリアを見据える大男だったが、一通り向けられるアリアの言葉が終わると同時に、閉じていた口を開いて喋り始めた。
「お前が黙れ」
「!」
「お前は俺達によって捕らえられている。これからの発言次第では、お前自身を危うくすると思え」
「……」
「今からお前に質問をする。大人しく答えなければ、牢獄にお前を戻して、尋問を兼ねた拷問に切り替える」
「……」
「お前の名前は?」
「……アリアよ」
「本名は?」
「無いわ。ただのアリアよ」
「出身国は?」
「ガルミッシュ帝国。マシラから見て海を越えた北の国」
「どうして、このマシラ共和国に来た?」
「傭兵の仕事で、商人の護衛を兼ねての旅をしながら移動して来ただけ」
「没収した荷物にある認識票を見た。その若さで二等級の傭兵か」
「何か悪い?」
「いや。メルクと一対一で戦い、倒したようだな」
「誰よ、それ」
「お前と戦った女の闘士のことだ。卓越した魔法の才を持つようだ」
「実力よ。この国の闘士って意外と弱いのね。……貴方以外は」
「……どうやら、それなりに場数は踏んでいるようだな」
一通りの質問をする大男とアリアは睨み合いながら、目の前の大男の存在感に圧されないようにしていた。
アリアは目の前の大男から、エリクが時折見せる威圧感と同じモノを感じていた。
少なくともエリク並の実力を持つだろうと感覚的に実力差を感じるアリアは、それでも気持ちで圧し負けないように努力し続けていた。
「質問はそれだけ?」
「お前が連れていたあの子供は、どういう経緯で出会った。何処から誘拐した?」
「ふざけないでよ、そっちが誘拐犯でしょ。こんなにか弱い乙女を攫っておいて」
「質問に答えろ。二度目は無い」
「……二日前に、役人風の男と一緒に守備兵らしい様相の男達が、怪しい行動をしてるのを発見したのよ。それを見た私を、そいつ等が襲って来たから撃退した。そして奴等が担いでいた荷物から、あの子が出て来た。酷い怪我をした状態でね」
「怪我だと?」
「ええ。擦り切れた裂傷跡が体の各所にあったし、病気もしていたわ。怪我も病気も私が治した。……この国では、役人や兵士が子供を誘拐する生業が流行ってるのね。仕事の絶えない良い国ね。子供を生み育てるなら、是非とも他国に移り住みたいわ」
「ならば何故、あの子供を連れ去るような真似をした?」
「子供を誘拐するような国の役人や兵士に、あの子を委ねられるわけがないでしょ。私は喋れないあの子の親を見つけて、帰そうとしただけ。……結局、アンタ達に捕まってしまって、それも果たせないけどね」
そう自他を皮肉るアリアの言葉を聞きながら、大男は何も言わずに質問を終えた。
大男は椅子から立ち上がると、扉から出て行こうとする。
そんな大男の背中を見ながら、アリアは問い質した。
「あの子は何処?」
「お前が知る必要は無い」
「あの子にこれ以上、酷い事をしたら許さないわよ」
「……」
「アンタ達には分からないでしょ。……知らない男達に暴力を振るわれて、酷い怪我をして。喋れなくなるくらい怯えて、震えながら助けを待ってた、あの子の気持ちなんて」
「……」
「子供を守るはずの大人が、子供を傷つけて。そんな事を平然とするアンタみたいな奴等を、私は許さないわ」
「……」
そのアリアの言葉を聞きながら、大男は無言のまま扉を開けて出て行った。
そして外側から施錠する音が響き、アリアは再び室内で拘束された状態になった。
大男が出て行った後に、緊張感から解放されて溜息を吐き出したアリアは鉄格子が嵌められた小窓の外を見ながら、映る景色を眺めつつ無意識に呟いた。
「……エリク、どうしてるかしら」
合流するはずだったエリクの事を想うアリアは、今後の顛末を現状で予想することが困難だった。
手錠の鎖と鉄輪が擦れ合う音を聞きながら、途方も無い状態に不安を抱きながらも、それを押し殺して状況の打開策をアリアは考え続ける。
一方で部屋から出た闘士の大男は、部屋の外で待っていた部下の闘士と話をしていた。
「ゴズヴァール闘士長、どうでしたか?」
「……アレクサンデル王子を連れて来たと言う者達が吐いた証言と一致する。あの女が奴等から王子を奪い去ったのは、間違いない」
「そうですか。それにしてもあの女、何者でしょうか? 元老院にあの女の事を報告した直後に、牢屋から出してこの塔に幽閉しろなどと命じて来るなんて。しかも侍女まで付けて……。共和国を支える元老院の御歴々は、何を考えているんだか」
「……」
「どうかしましたか、闘士長?」
「いや。……あの女の監視を兼ねて、闘士を一人付けておけ」
「闘士を付けるのですか。兵だけでも十分では?」
「念の為だ。万が一に脱走を図った時には、容赦せず捕縛しろと伝えろ。抵抗し害意を見せるのであれば、殺しても構わん」
「了解です」
ゴズヴァールという名の大男はそう命じ、塔の階段を降りながら外に出た。
そこで部下に向けて行き先を離し、その場から立ち去った。
「俺は王子と王の下へ行く」
「了解しました」
ゴズヴァールが塔から離れた後、部下の男も塔から離れ、闘士達の居る官舎へと戻った。
塔に監禁されたアリアは、侍女が用意した朝食には手を付けず、些細な動作と視線で部屋を見渡し、何かを考えている様子を見せていた。
そして、その日の昼。
王宮の正面門に黒い服装と大剣を担ぐ、大男が姿を現した。
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