文字の勉強
次の日、疲れ果てていたアリアは早朝に目を覚ます。
そして既に起きていたエリクから、持ち帰った弁当を渡された。
その中には卵や数多の野菜と
そして
それ等を部屋の中にある机に置くと、その机と向き合う形で椅子に座らせたエリクに文字を教え始める。
「――……はい、まずは自分の名前を書けるようにするわよ。それが出来たら、帝国語の文字も覚えもらおうわ。いい?」
「あ、ああ」
「じゃあまず、貴方の名前を見本で書くわね」
「……これが、『エリク』か?」
「そう、それでこっちが……偽名の『エリオ』ね。私と貴方は親子って設定でしばらく進むから、何か書面で名前を書く時には、こっちの
「本名と、偽名の二つか」
「何度も書いて練習しましょう。文字は頭で覚えるよりも、目で見て
そう述べるアリアに対して、エリクは素直に応じながら
そして見本である本名と偽名を見ながら、それを真似るように紙に何度も書き始めた。
椅子に座りながら机に向かうエリクは、意外にも真面目に
そして十回ほど本名と偽名を書き続け、アリアにそれを見せた。
「これでいいか?」
「……うん。まあ、初めて文字を書いたにしては上出来かな?」
「そうか」
「これを何度も、紙に書けるだけ練習ね。宿に泊まった時は、その文字を見て練習するの。まずは自分の名前だけでも書けるようにね」
「ああ、分かった」
「……ちなみに、数字の計算とかできる?」
「計算?」
「ああダメね、分かったわ。それも覚えていきましょう。難しい計算は私がやるけど、せめて物を買う時の釣銭の計算くらいはしてもらわないと」
「それは、君の護衛に必要なのか?」
「私は私で、各国で顔が知られてるかもしれないの。自分の国や他国のパーティとか、色々と出席させられたから。馬鹿皇子と並ばされて婚約者だと披露しちゃってるし。髪と瞳の色を誤魔化してるだけじゃ、私の事を知ってる人にバレるかもしれない。そういう危険がある国では、エリクに買い物を頼む時もあるでしょうからね」
「そうか、分かった」
「それじゃあ、今度はお手本を見ずに書いてみて。完全に覚えたと思ったら、私に教えてね」
「ああ」
エリクは再び机に向かい、顔を机に突っ伏しながら紙と向かい合う。
そして自分の名前を書き続け、完璧に覚えようとした。
その間にアリアは荷物を確認し、今後の旅で必要な物を確認していく。
そうして二十分の時間が経つと、エリクは顔を上げてアリアに声を掛けた。
「――……覚えた」
「え? ああ、もう覚えた?」
「ああ」
「じゃ、ちょっと見せて。……本当だ、字が綺麗になってる。私の書いた文字と遜色ないわね」
「これで、名前は大丈夫か?」
「うん、まあ……大丈夫かな。これで名前を書く場合があったら、『エリオ』の名前で書いてね。『エリク』は、帝国領から抜け出したら普通に書きましょう」
「分かった。帝国に居る間は『エリオ』と名乗り、名前も『エリオ』と書く」
意外と早く文字を綺麗に書けたエリクは、今日の課題を達成する。
アリアはその覚えの速さに微妙な違和感を覚えながらも、改めて今日の目的を伝えた。
「それじゃあ、今日は旅に必要な物を買い出しに行くわ。それから夕方にマウル医師の所に行って報酬を貰う。良い?」
「ああ、分かった」
「それに昨日は忘れてたけど、定期船のことも調べなきゃね。出来れば早く乗り込んで、南まで行きたいんだけど……」
「定期船……。そういえば昨日、定期船のことを聞いた。もう船は来ているらしい」
「えっ、いつ聞いたの?」
「昨日。君のメシを持ち帰った時に、食堂で聞いた」
「昨日ね。聞いた時に二日後なら、あと一日は余裕があるわけね。出航する時間は?」
「いや、聞いていない」
「そっか。どっちにしても一度は港に行かなきゃ。乗せてもらえるように頼まなきゃね」
定期船の情報を聞いたアリアは、そうして今日の予定を組み立てる。
そして必要な物を紙に書き終わると、昼時になって宿の食堂に足を運んだ。
その際、エリクの視線は食堂の中を泳ぐように見つめる。
まるで警戒しているようなエリクの様子に、アリアは食事を食べながら問い掛けた。
「どうしたの?」
「……いや、なんでもない」
エリクはそれだけしか話さず、用意された食事を食べ始める。
不思議に思うアリアだったが、そのまま二人は食事を済ませた。
二人は食事を終えて食堂を出ると、部屋に戻り買い物へ赴く為の準備を始める。
そして宿の鍵を宿の受付に預け、必要な用事を済ませる為に市場と商店がある場所に出掛けたのだった。
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