5-6

 渚砂が告白してくれた二日後。八月二十六日。

 虫たちも鳴かない、静かな夜だった。

 この日がちょうど、神崎渚砂の十九歳の誕生日であることを当日知った。

 そして――、渚砂のクローンが命の灯火を消す日でもあったことも……。

 一緒にクローンの最期を見届けて欲しい。そう願った彼女の想いに応えた俺は、あの日見た予知夢とまったく同じ状況を目の当たりにした。

 自分の形見だと言って差し出した、枯葉みたいな刃をしたナイフを渚砂が受け取ると、クローンはその場で崩れ落ちた。

 抱きとめた渚砂は意味がないと分かっていながらも、自分の血液を分け与えようとする。その手を静止し、クローンは彼女に微笑んだのだ。

「……私に外の世界を見せてくれて、ありがとう」と。

 声までは聞こえてこなかったあの夢が、実際に目の前で展開されている。

 不思議な心持のまま、俺はその始終を見届けた。

 やがてクローンは、苦しむことなく渚砂の腕の中で眠るようにして息絶えたのだ。

 渚砂の慟哭する声は、闇夜の空に悲しく響き渡る。まるで半身を失ったような悲痛な叫びが、俺の鼓膜にいつまでも木霊していた。



 クローンの遺体をこのまま公園に放置するわけにもいかず。

 俺たちは一旦事務所まで遺体を運ぶことにした。

 麗華に事の顛末を話し、黒羽家でどうにか出来ないかと頭を下げて頼んだ。

 すると麗華は渚砂に歩み寄り、「――辛かったわね」とその体をそっと抱きしめた。

 渚砂は止めたはずの涙腺を再び緩ませ、子供のようにまた泣いた。

 慈しむように髪を撫でると「この子の遺体は私に任せなさい。丁重に葬送してあげるから」と麗華は涙を拭いながらも、ありがたい一言をくれたのだ。

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