5それぞれの体育祭と文化祭➁~悠乃の場合~(3)

「体育祭での応援合戦は、わが校の伝統的なもので、そのため、毎年、生徒たちは夏休みを利用して練習に励んでいるんですよ。体育祭を彩ってくれる巨大看板の方も、力作が毎年出来上がっています。こちらも夏休みを利用して仕上げています。汐留先生は、今年赴任してきたばかりですが、本当にうちの高校の体育祭はすごいですよ!」


「うちの高校の体育祭は、他の高校の生徒たちの憧れでもあるんです。だからこそ、教師たちも協力して、よりよい体育祭にできるようにしなければ!」


「文武両道。これこそ、わが校の校訓です。汐留先生も一度ご覧になればわかりますよ。体育祭のすばらしさが」


 悠乃は、他の教師たちから、自分が赴任した高校の体育祭の盛り上がりを聞いていた。どうやら、進学校であるにも関わらず、体育祭に力を入れている高校のようだ。応援合戦の様子や巨大看板は、他の学校の憧れだったり、参照の対象になっていたりするようだ。


 そんな大掛かりで盛り上がる体育祭だったが、当然、成功を収めるためには、準備の時間が膨大となる。夏休みは貴重な休みであると同時に、体育祭の大事な練習時間となっていた。


 それが悠乃にとってどうだろうと疑問を抱かせた。確かに、体育祭の成功を収めるために準備や練習は必要だ。しかし、他の教師から聞いた話によると、その練習頻度が半端ではなかった。


 夏休みの強制的な補習のあとには、毎日夕方日の日が暮れるまで行われたり、それ以外の日には、朝から晩まで行われていたりするという話も聞いた。


 話を聞いて悠乃は驚いた。自分が高校時代にも体育祭というものはあったが、そこまで練習に時間をかけていた記憶がなかった。それを話す先生方は、さもそれが当たり前だという顔で話していることにも衝撃だった。




「汐留先生、驚いているようですが、先生の勤務していた高校は違っていたのですか?」


「そこまで練習に取り組んではいませんでした。高校生活の青春の一ページとして、いいとは思うのですが……。でも、そこまで練習に時間をかけてもいいものかと……」


「そうだろう。そうだろう。うちの高校は文武両道、勉強も運動もイベントごとにもすべてに全力投球で素晴らしいだろう!」


 悠乃が新しく赴任した高校には、高校と生徒たちに誇りを持っている教師が多いようだ。悠乃の疑問は、簡単に無視されてしまった。他の教師たちの話を黙って聞き、時には苦笑いを浮かべながら、悠乃は、自分の受け持つクラスのためにできることは何かを必死で考えていた。

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