5それぞれの体育祭と文化祭➁~悠乃の場合~(2)
「先生が話に入らず、クラスのみんなだけで話を進めてくれるのが一番良かったけど、大谷君が困っているようだから、先生が話に入らせてもらうよ」
悠乃としては、このまま体育祭の応援係りのメンバーが決まらないと、強制的に教師自ら指名しなくてはならなくなるので、できれば生徒たち自ら挙手して決めてくれるのが理想であった。教師が指名して、嫌々行うより、自ら決めて行った方が、生徒たちの気分も盛り上がるだろう。
「先生は、別に体育祭に全ての生徒が盛り上がる必要はないと思っている。だって、世の中には運動が苦手な人、大声を出すのが苦手な人、太陽を浴びると具合が悪くなる人、いろいろな人がいるからね。そんな人に、体育祭を盛り上がって楽しむなんてことを強制するのはおかしい。でもね、全員がそんな感じじゃ面白くない。体育祭が高校で行われる以上、誰かがみんなを楽しませるために、頑張る必要があると思うよ。さらに言うと、みんなを楽しませながら、自分たちも楽しんでやろうっていう、ガッツのある人も、ね」
悠乃の話にじっと耳を傾ける生徒たち。教師として悠乃が話をしたからと言って、挙手する人がいるとも限らないが、それでも自らやると決めて、挙手をして欲しいと思った。
「では、体育祭の応援団をやりたい人!」
『ハイ!』
隣のクラスから、突如、大声が聞こえてきた。大音量のそれは、廊下を通して、隣の教室である悠乃クラスにまで響いてきた。
「よし、このクラスはずいぶん体育祭に燃えているな。先生はうれしいぞ。その調子でどんどん決めていこう!」
「おー!」
「それにしても、こんなに応援団に挙手する人がいるなんて、このクラスはとてもいいクラスだな!」
「先生、僕が応援団長になります!」
「私が巨大看板の指揮をやります!」
「いいぞいいぞ。自主性があるやつは、先生は大好きだ!」
今の時間はどのクラスも学級活動の時間となっていた。隣のクラスでも、悠乃のクラスと同じように、体育祭の種目や係りを決めているのだろう。悠乃のクラスとは真逆で、とても盛り上がっている様子が伝わってきた。がやがやと大声で話し合うクラスの声が聞こえてくる。
「隣のクラス、小田先生のクラスだね。あそこのクラスみたいに盛り上がることができたら一番いいけど、そんなこと、同じメンバーでもないのに、できるわけがない。僕たちは僕たちで、精いっぱい楽しむことができるように努力していこうか」
「ぼぼ、僕、応援団に立候補します」
「私も」
数人が決意を固めたようで、手を挙げる。悠乃はそれを見てにっこりとほほ笑んだ。自分の言葉で動き出した生徒がいることがうれしかった。いや、それとも隣のクラスの大声に触発されたのだろうか。どちらにせよ、彼らは話し合いの当初、やる気がなかった生徒たちだ。自らやる気を出した彼らに悠乃は応えたいと思った。
「大谷君。手が上がったようだよ」
「で、では手を挙げてくれて人がいるので、それで決定でいいですか?」
「ぱちぱち」
生徒の一人が拍手する。するとクラス全体に伝播して大きな拍手が巻き起こる、高橋もそれにつられて拍手する。
その後の話し合いはスムーズに行われた。無事に悠乃が指名することなく、体育祭の種目や係りは生徒たちだけで決まった。
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