5それぞれの体育祭と文化祭①~双子の場合~(6)

「いくら何でもありえないよね。うちらが発言しないのをいいことに、あいつ、やりたい放題じゃん!」


「面倒くさいことしかないね」


 結局、文化祭の出し物は、喫茶店をすることになった。担任がどうしてもやりたいと言い出したからだ。何を提供するかと思えば、女子がエプロンをつけて、お菓子とジュースを売るという、テンプレ的な喫茶だった。男子は裏方らしい。


 体育祭の応援団員も勝手に決められた。クラスの顔面偏差値を勝手に推し量り、顔のいいものが率先して選ばれた。それに加えて、運動神経がいいものも応援団員として選出された。文化祭のマスコットも、今流行りのキャラクターになった。マスコット制作メンバーは、いわゆる陰キャと呼ばれる人々によって構成された。



「でもさあ、私たちは楽だよねえ。あいつに女子認定されていないみたいで、カフェは裏方だし、体育祭も戦力として認められていないから、ほとんど何もしなくていいし、ある意味ラッキーってやつ」


「こなでの言う通り、私たちは運がいい。喜咲にとっては最悪だろうけど」


「どうして、私だけ」


 今日は、陽咲は私の教室にはやってこなかった。どうやら、体育祭と文化祭の準備を昼休みに行うようだ。


 担任は私に期待しているようだった。応援団に勝手に決められ、文化祭の喫茶店では店員役を任されてしまった。


「今時、生徒より燃えてる先生って珍しいよね。そもそも、現実世界では学校行事ごときに燃えないっていうのが、最近の流行りというか、世の流れだって言うのにね」


「そうそう、そのうち、文化祭も体育祭も二次元だけのイベントになりそうだよ」


「芳子もこなでもそれでいいの?」





『どうして?』


 真顔で聞き返されてしまい、私が逆に困惑してしまう。


「どうしてって、だって、この前二次元と三次元の違いで盛り上がっていたでしょう。てっきり、三次元でも二次元と同じように楽しみたいのかなと思って」


『ぷっ』


 私の言葉に、今度は吹き出されてしまう。何か間違ったことを言っただろうか。


「面白いねえ。喜咲は。あれはフィクションだからいいんでしょ。あれが現実に自分たちが行うってなれば、話は別。私たちは傍観者で、遠くからそれを見守りたいの。当事者になって楽しみたいわけじゃないから」


「そうそう、芳子の言う通り。所詮、あれはフィクション。よく考えてみてよ。あんな派手なイベントを自分たちで準備して、実行して、片付けするなんて面倒くさいこと、喜咲はやりたい?その後に大学受験が待っているのに、やる時間ある?」


「ない、です」


「よろしい。では、私たちは裏方で適当に頑張るので、喜咲は表舞台で私たちの言っている意味を実感しなさい」




 体育祭と文化祭は、二人にとっては、ぼちぼち楽しいイベントとなったようだ。私はと言うと、ただきつかっただけで、大して面白くなかった。確かに練習はきつくて、その分、達成感を得たが、ただそれだけだ。喫茶の店員も、客が男ばかりで、気持ちの悪い視線を向ける奴が多すぎて、彼らに殺意が湧いた。



 現実と三次元を一緒にしてはいけないと実感したイベントだった。

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