3周囲の人々➁~幼馴染~(1)

 オレの隣の家には、変わった家族が住んでいる。オレが幼稚園の頃にやってきた彼らを母親は警戒していた。オレと同い年の双子の娘がいて、彼女たちと仲良くしていたら、ある時急に、母親に仲良くするのは控えるように言われた。あまりの突然のことで、どうしてだと反発したのをよく覚えている。



「いいかい、荒太。隣の家の汐留さん家の娘たちと仲良くしてはダメよ。あんたまで、頭がおかしくなっちゃうからね」


「どうしてだよ。喜咲も陽咲も悪い子じゃないぞ」


「今はね。でも、将来どうなるのかわからないでしょう。だって、あそこの両親の趣味は」


「両親とは関係ないだろう!」


「そんなの、わからないでしょう!あれも、もしかしたら遺伝するのかもしれない」


 母親は何かおびえていた。何がそんなに彼女たちを警戒するのか、いくら問い詰めても教えてくれなかった。言葉にするのもおぞましい趣味を彼女たちの両親は持っているらしい。それが、彼女たちに遺伝して、それにオレが感化されるのを恐れているようだった。そんなことを言われても、オレは彼女たちとの交流をやめることはなかった。




 そんな感じの反抗が幼稚園から小学校を卒業するまで続いた。そんなオレの反抗が終わり、母親のいうことに納得したのは、中学に入ってからだった。あの事件があり、オレは母親の考えをやっと理解することができた。あの家族のやばさにやっと気づくことができた。


 中学校に入学したオレは、部活はバスケにすると決めていた。小学校から続けていたバスケットボールを真剣にやりたいと思ったからだ。小学校でやっていたクラブ活動で、結構な活躍をしていたオレは、一年生ながら、将来を期待される選手として、注目を浴びていた。もちろん、中学一年生の最初の大会は三年生もいるため、レギュラーに選ばれることはなかったが、それでもベンチで彼らの応援を懸命にしていた。


 汐留姉妹も応援に駆け付けていた。彼女たちが入部した吹奏楽部は、運動部の応援をすることになっていたらしい。観客席に見えた彼女たちを見ていたが、試合が始まるというところで、気持ちを切り替え、試合の始まるコートに視線を移す。


 ボールが宙に投げられ、試合が開始された。オレは試合に目を奪われ、彼女たちが観客でどういう状況になっているかも知らずに、先輩たちと敵チームが繰り広げる白熱した試合に夢中になっていた。




 妹の陽咲が試合開始直後に倒れたという情報を手に入れたのは、大会が終わった週明けの月曜日のことだった。いつものように、二人と登校時間が被ったオレは、前を歩く彼女たちにいつも通りに挨拶する。それは、小学校からの習慣で、先週まではオレの挨拶に彼女たちも普通に答えてくれていた。それなのに。


「おはよう。先週の大会、お前たちも見に来てくれていたんだな。オレは出れなかったけど、すごかったよなあ。先輩たちの試合」


 先週、彼女たちがバスケの試合を見に来ていたことを思い出したオレは、先輩たちの試合について語りたいと思って、話を振ってみた。当然、かっこよかったとか、すごかったとかいう、賞賛の声が聴けると思ったが、オレの予想は大きく外れた。

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